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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第六章 過去との対面

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第350話 クロスプリズン12

「次は三階だ」


 クロスプリズンの上階へと進みながら、茨田さんが淡々と構造を説明してくれる。

 二階と三階の間には、二重の鉄柵が設けられている。今は開放されているが、開錠には認証カードと鍵の両方が必要だという。


「その認証カードと鍵を持っていたのは、ここB棟の看守長だったんですよね?」

「そうだ。その二つを手に入れるのに、かなり苦労をした」


 気になって問うと、茨田さんは重く頷いた。


「鍵は更衣室。看守長のロッカーから見つかったが、認証カードは本人が持ち歩いていたからだ」


 どうやって開けたのかと、茨田さんは説明をしてくれる。

 死体となった看守長を見つけ出し、その上でカードを回収しなければならなかった。ロッカーから見つかる鍵と違い、本人探しは至難だったという。


「囚人と比べて服装が違っていたとしても、屍怪になって長い時間が経っていれば……顔つきや体の特徴なんか、変わって当然だもんな」


 これまで見てきた屍怪を思い返せば、腐敗で皮膚はただれ骨が露出しているものもいた。生前の姿なんて、到底わからない者がほとんどだ。


「それに殲滅戦で銃弾を浴びていたら、なおさら判別は難しくなるわよ。服だって破けていたり、交換されているかもしれない。囚人八百人の中から看守長を一人探すなんて……想像するだけで気が遠くなるわ」


 ハルノが吐き出す言葉には、現場を知らぬ身ですら重さを感じた。

 殲滅と同時に死体の処理を進め、そのなかで看守長を探し続ける作業。それは地獄のようなもので、看守長を見つけ出すまで三日もかかったそうだ。



 ***



「金属探知ゲートに鉄柵の扉……本当に次から次へとあるんだな。どこに行くにしても、いちいち鍵が必要になりそうだぜ」


 思わず口から漏れた感想に、改めてクロスプリズンの厳重さを痛感する。

 刑務所という性質を考えれば当然だが階を跨ぐたび、部屋を通るたびに必ずセキュリティが立ちはだかる。今でこそ攻略済みのB棟はほとんどが開放されているものの、当初は扉の解除と屍怪の排除を並行して行ったわけだ。想像するだけで、骨が折れるどころの騒ぎではない。


「でも、それ以上に厄介なのが地下のセキュリティよ。前提として、全ての棟で主電源のレバーを上げなきゃならないんだから」


 五階の配電室前に辿り着いたところで、ハルノが扉を示しながら言った。

 今はすでに開放されているが、中には操作パネルや監視装置。変圧器などが並び、中央には主電源とされる大きなブレーカーが構えている。

 それをAからD棟、四ケ所すべてで上げなければ地下への道は決して開かれない。――そういう仕組みになっているのだ。


「明日からはA棟三階の攻略に入る。すでに囚人房と三階までのセキュリティは解錠済みだ。だがだからといって気を抜くなっ!! 各々しっかり体調を整え、明日に備えてくれっ!!」


 王変の兄貴が声を張り上げると、訓練はそこで解散となった。

 普段なら終わりの号令とともに安堵や笑いが広がるはずだが、今は誰も軽口を叩かない。万全を期して挑んでも、死傷を避けられないことがある。――その現実を、誰もが理解しているから。明日へ向けての緊張が、空気を張りつめさせていた。



 ***



「言っても監視カメラで、ある程度の様子はわかるらしいわ」


 食堂で夕食を待ちながら、ハルノは淡々と現状を伝えてくれる。

 クロスプリズンは刑務所だ。電力が生きている今は、至るところで監視カメラが稼働していて、人の目が届かなくても状況を拾い上げてくれる。


「……で、三階以上はどうなっているんだよ?」


 兎にも角にも、気になるのはそこだ。屍怪の有無さえわかれば、心構えがまるで違ってくる。


「三階と四階は、教育支援の場になっているって話よ。教室形式の学習室や、読書室、図書資料室なんかがあってね。義務教育の支援とかに使われていたみたい」


 ハルノが口にするのは、社会復帰を見据えた施設の役割だった。刑務所といっても、ただ閉じ込めるだけじゃなく、戻るための準備が整えられていたというわけだ。


「それで、屍怪は?」


 しかし最も気になるのは、やはり脅威となる存在。


「二階から上は鍵が閉まっていて、屍怪は三階以上に行けなかったみたい。でも――“いない”ってことは、……ないらしいわ」


 ハルノによるとやはりというか、脅威は待ち構えているらしい。

 胸の奥に、重いものが沈むのを感じる。気が引き締まる思いと、油断はできない。


「それならそうと、今日はたくさん食べて、きちっと明日に備えなさい」


 料理長のレイカさんが、熱々のハンバーグを皿に盛って差し出してくれた。

 棟の攻略に挑む前日は、決まって少し豪勢な夕食になる。あの終末の日からずっと続いてきた、変わらない慣例らしい。


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