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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第六章 過去との対面

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第349話 クロスプリズン11

「今日は攻略したB棟を使用し、小隊戦術の訓練だ。初めてとなる者は、気を引き締めて参加してくれ!!」

「イエッサー!!」


 前に立つ王変の兄貴の号令に、職員たちと揃って声を上げる。


「……蓮夜。かなり染まってきたわね」


 隣で見ていたハルノは、横並びの対応に小声で呟く。きっと今の自分の姿が、すっかりクロスプリズンの一員に見えるのだろう。


「クロスプリズンに来て、今日で六日だぜ。王変の兄貴たちと訓練をして、それは自然と慣れてもくるだろ」


 基礎体力訓練に、個人戦闘技術。職員たちと顔を突き合わせて汗を流すうち、打ち解けるのも早かった。


「蓮夜。いつから“王変の兄貴”なんて呼んでいるの?」


 最初の“霧島所長”から呼び方が変わり、気づいたハルノの鋭い視線が突き刺さる。


「昨日からだな。弟分って形で、それなりに実力も認められてきた証拠だと思うぜ」


 答えながらも、胸の内に湧くのは妙な誇らしさ。訓練を通じて確かに、距離が縮まっているのも感じていた。



 ***



「ここが……B棟か」


 足を踏み入れた途端、ひやりとした空気に包まれる。

 一・二階はD棟と同じように、吹き抜け構造だ。だが決定的に違うのは、どこを見ても並んでいるのは囚人房ばかりということ。四畳ほどの狭い部屋は薄暗く、鉄格子に閉ざされている。そこにプライバシーなんてものは存在しない。二段ベッドは鉄板にくたびれたマットレスが一枚敷かれているだけ。部屋の隅には、ステンレス製のトイレと手洗い台が無造作に剥き出しで設置されていた。


「日本というより、欧米の雰囲気に近いわね」


 隣でハルノが小さく息を呑み、感想を漏らす。

 たしかに最初は畳の和室を想像していたが、目の前にあるのは無機質なコンクリートの牢獄。映画やドキュメンタリーで見た、欧米の刑務所に近い光景だ。


「B棟の囚人房は四百。房の大半は開かれた状態で、八百に近い屍怪が存在していた」


 王変の兄貴が低い声で言い、八百――その数を思い浮かべるだけで喉の奥が乾いた。鉄格子の向こうでうごめく屍怪の群れを想像し、至る所で徘徊する姿に背筋がじわりと冷たい汗が伝う。


「囚人房が並ぶこの階では、まさに殲滅戦だった。職員たちは銃を手に屍怪を撃ち倒し、取りこぼしがないよう一つひとつの房を見回る。弾薬の準備も膨大で、片付けにも時間がかかった」


 王変の兄貴が話す言葉を聞きながら、頭に浮かぶのは硝煙で満たされた廊下と、耳をつんざく銃声の連続。もしその場に立たされていたら、足がすくんでいたかもしれない。


「殲滅戦は、一度で終わらないこともある。数が多すぎれば、撤退を余儀なくされるんだ」


 王変の兄貴による一言で、戦いの苛烈さがさらに実感を帯びる。

 ここB棟の殲滅戦も三度に渡ったらしい。だからこそ必要なのは分隊や班レベルの戦術――伏撃、包囲、そして撤退戦。今日の訓練は、その実戦を想定して行われるのだ。



 ***



「今回は殲滅を終えて、取りこぼしがないか確認をする訓練。二人一組になって、一ヶ所ずつ房を確認していくぞ」


 分隊の指導役を務めるのは茨田さんで、与えられた任務は囚人房の確認だった。

 屍怪はすでに一掃され、死体も処理されている。それでも壁や床を目にすれば、こびりついた血痕がうっすらと残っていて、ここが戦場だった痕跡を生々しく語っていた。


「一人は房の前に立ち、周囲の状況に気を配れ」


 茨田さんは冷静な声で指示を飛ばす。その眼差しは隙なく、ほんの一瞬の油断も許さない。

 視線を巡らせれば、他の組も同じように慎重に房を回っている。階段の上下には職員が二人ずつ配置され、退路を常に確保しているのが見えた。


「ちゃんと人員を割いて、徹底しているんだな」

「もし屍怪が一体でも残っていたら、命に関わるもの。警戒しすぎるってことはないわ」


 囚人房の中を確認しながら小声で漏らすと、房の前に立って周囲を見張るハルノが真剣な顔で応じた。

 その言葉は正しい。屍怪を一体でも取り残し、誰かが噛まれればたちまち死が連鎖する。もしそれが気づかれず広がれば、クロスプリズン全体の秩序すら危うい。

 だからこそ、この反復訓練には意味がある。危険を徹底して潰すために。生存率を一パーセントでも上げるために。血痕の残る房を覗き込みながら、ここでの一つ一つの動作が命を繋ぐ鍵になるのだ。


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