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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第六章 過去との対面

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第347話 クロスプリズン9

「……久しぶりにしては、悪くない感触ね」


 スナイパーライフの銃口を下ろし、結果に納得をして小さく息を吐いた。

 二百メートル先の標的。撃ち込まれた弾丸は、十発中九発が中心を捉えている。弾薬が貴重なこの世界で、これだけ撃てる機会は滅多にない。だからこそ、この結果は及第点といえるものだった。


「まさか本当に、ここまで命中させるとは……」


 横で見ていた茨田さんは、驚きを隠せず呟く。

 訓練といっても弾薬は限られており、射撃はどうしても制限されている。それでも得意分野だと公言し、実際に力を証明してみせた形だ。


「実は蓮夜も私も、ジェネシス社の下部組織に所属していて……いろいろ経験をしているんです」


 そう言って、笑みを浮かべてみせた。

 ジェネシス社にいた日々は、ただの“訓練”では済まないものだった。とても美しく貴重な経験もあったが、同時に二度と思い出したくない過酷な現実も山ほどあったのだ。


「なるほど……しかし、二人は即戦力と言えるだろう。クロスプリズンにいる以上、使える力はすべて使わせてもらう」


 茨田さんは納得したようで頷き、射撃訓練の終了を告げた。

 個人戦闘技術の訓練は、それぞれの得意分野を伸ばす方針に基づいて行われている。蓮夜は剣術や格闘技といった近接戦闘を、対して射撃やナイフを用いた護身術を。役割を分かち合うように、それぞれの力を示す一日となった。


 ―*―*―蓮夜視点 ―*―*―


「器用な上に物覚えもよくて、あなた本当にやるわね。調理係としてスカウトしたいくらいだわ」

「……あはは。ありがとうございます」


 鍋をかき混ぜていたレイラさんに褒められ、少し照れながら困りながらも返す。

 食堂の厨房。訓練がないときや、終わった後の時間。クロスプリズンの食堂で手伝いをすることになり、料理が苦手なハルノは子どもたちの面倒を見る役に回っている。


 ──なんか、前にもあったようなシチュエーションだぜ。


 ふと遠い昔の光景を思い出しながら、ジャガイモやニンジン。玉ねぎを洗って、手際よくカットしていく。クロスプリズンで栽培されている野菜は思いのほか新鮮で、色も鮮やかだ。


「下ごしらえの段階では、まだどちらか選べるの。カレーと豚汁、どちらがいいかしら?」


 野菜を受け取りながら、レイラさんが尋ねてくる。

 食堂の献立は、補給の状況やその日の都合で左右される。最終的な判断は、料理長であるレイラさんに委ねられていた。


 どっちを食べるにしても、久しぶりだよな。って言うか、さすがはクロスプリズン。いい食材が揃っているぜ。


 米や野菜に肉まで確保されているらしく、この終末世界でなお充実ぶりに感心してしまう。しかも現状に甘んじることなく、職員たちは外へも展開しているという。生活サイクルを整えるため、日々の努力に余念はないのだ。


「俺が決めていいんですか? どっちも好きだけど。そうだな……なら、豚汁はどうですかね? 体も温まるし、いいと思うんですけど」


 暦は秋に入り、気温は日ごとに落ちていく。そんな中で温かい食事を口にできるのは、この上なく幸せなことだった。


「……」


 レイラさんの反応は薄く、調理を進める手も止まらない。


 ──レイラさんが二択を出すときは、もう心の中で答えが決まっているんだよな。思惑と逆を選んだときの、この薄い反応がその証拠だぜ。


「ああっ!! やっぱりカレーにしましょうっ!! カレーと言ったら子どもも好きだと思うし、みんな喜ぶと思いますよっ!!」


 慌てて取り繕い、逆方向へとシフトチェンジする。果たして、どんな反応が返ってくるか。


「そうね。カレーにしましょう。あなたの言う通り、みんな喜ぶと思うわ」


 やはりというか想像通りに、レイラさんは肯定的に応じてくれた。


 ──これがレイラさんに、少し癖があるっていう一面なんだよな。


 事前に耳にしていた情報と、照らし合わせても納得がいく。

 決して悪い人ではない。ただ、人間らしい偏りや癖を持っているというだけ。反応がわかりやすいからこそ、こちらも上手く付き合っていくしかない。


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