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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第六章 過去との対面

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第345話 クロスプリズン7

「ハルノにできるなら、俺もやってやるぜっ!!」


 負けていられるかと気合を入れ、枝から垂れたロープを力強く握る。足に絡め腕に力を込め、一気に登っていく――はずだった。


 ……なんであんなに、簡単そうに行けたんだよ。


 八割ほど登った地点で、腕が悲鳴を上げ始めた。握力が抜け、前腕が痺れる。筋肉量で劣っているわけじゃないはずだ。それなのに、目に見える差が生まれている。

 歯を食いしばり、腕に残る力を振り絞る。なんとかロープを掴み直し、必死に体を持ち上げて――枝先へとたどり着く。けれど登り切ったその感覚は、ハルノの滑らかさに比べれば雲泥の差。それ故に胸の内には、苦いものが広がった。


「コツがあるのよ」


 枝の上から降りてきたハルノは、やや勝ち誇った顔をして言った。


「まず大切なのは、腕と足の役割を分けること」


 そう言ってロープを再び掴むと、ハルノは訴えるよう視線を向ける。


「蓮夜。足を見ていてね」


 ハルノに言われた通り注視すると、右足を器用にロープへ巻きつけ、左足でそれを踏みつけるように固定している。

 腕はあくまで登るときだけに使い、足で身体を支える。――それが、ハルノの言うロープ登攀のコツだった。


「おおっ!! 本当だっ!!」


 試しに同じようにやってみると、驚くほど簡単に登れる。最初に挑戦したときの、必死さが嘘みたいだ。


「さっきと比較して、かなり楽に登れるぜっ!!」

「……相変わらず、飲み込みは早いわね」


 ロープ登攀のスムーズさに笑みがこぼれ、ハルノはふっと息をつきながらも口元を緩めた。

 それからの訓練も、さらに過酷さを増していった。匍匐前進で泥にまみれ、人を背負ったまま全力で走る。心肺機能に負担がかかり、全身の筋肉が悲鳴を上げる。それでも職員たちと同じ列に並び、負けずに食らいついていく。


 やっていることは、もはや軍隊の訓練それだぜ。


「終末世界となり、どんな場面にも対応できるように!! それが、今のクロスプリズンの方針だっ!!」


 訓練の締めくくりに、霧島所長の声が庭に響き渡った。

 職員たちは、ただ棟の攻略を進めるだけではない。外へ物資を取りに行くことだってある。時には屍怪に追われ、ビル屋上からロープ一本で飛び降りるような場面もあったという。


「訓練は一パーセントでも、生存の確率を上げるため。明日は個人戦闘技術よ。他にも小隊戦術が予定されているらしいわ」


 横に立つハルノは、小さく息を吐きながら教えてくれる。

 ハルノの頬には土と汗が張り付き、額には濡れた髪が貼りついている。それでもその瞳は、揺らいでいなかった。


「個人戦闘技術か――それは楽しみだぜ。小隊戦術は、攻略済みのB棟を使うって話だしな」


 疲れで胸が波打ちながらも、自然と笑みがこぼれる。

 今攻略が進んでいるA棟は、死体の運び出しと消毒作業の最中で立ち入り禁止。再び踏み入るのはまだ先で、その間はここで力を蓄える期間だ。



 ***



「……強い」


 目の前で木刀を構える職員の腕は震え、すでに腰が引けている。

 今日の訓練は個人戦闘技術。銃器の扱いに始まり格闘技やナイフ戦に、果ては即席爆弾の基礎知識まで――想像以上に多岐にわたる。そんな中で今、挑んでいるのは木刀を用いた実戦形式だ。


 俺は刀で生き抜いてきたんだ。クロスプリズンの職員相手にだって――負けるわけにはいかないぜ。


 訓練開始から三日目。基礎体力でも遅れを取らず、個人戦闘技術でも互角以上に立ち回れている。

 それは過去に積み上げた技術や経験に、逃げて戦って生き延びてきた成果だ。むしろ職員たちの方が、その動きに呆気を取られている。


「ほう。やるじゃないか!!」


 声を上げたのは、霧島所長だった。


「よし!! それならば、この王変様が相手をしてやろう!!」


 職員から木刀を受け取り、霧島所長はゆっくりと前へ出る。

 職員たちがどよめく。圧倒的な支持と信頼――トップの座は、きっと伊達ではないだろう。まさかこの場で、直接に刃を交えられるとは思わなかった。どれほど力が通用するか、胸が熱くなるのを抑えきれない。


 さすがに職員たちと違って、隙が見えないな。

 それに、でかい。二メートル近い巨体もあって、妙に木刀が短く見えるくらいだ。


「……っ!!」

「おらっ!! どうしたっ!? 見合ってないで、思い切り打ち込んで来いっ!!」


 見合った瞬間――先に動いたのは、強く踏み込んできた霧島所長だった。

 巨体からは想像できない速度で打ち込まれるも、体が自然と反射的に受け止めることはできた。しかし衝撃が腕に突き刺さり、猛禽のような眼光に射抜かれる。鼓膜を震わせる声が叩き込まれ、本物だ――直感でそう思わされた。


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