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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第六章 過去との対面

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第342話 クロスプリズン4

 クロスプリズンD棟の一階と二階。正面入口の守衛所には外来者受付やID確認、携帯電話の持ち込み制限の設備が残っている。今は使われていないものの、金属探知機まで据え付けられていた。

 一階の廊下。かつては冷たい規律が支配していたであろうその通路に、今は風のような笑い声が満ちている。


「わーい!!」


 小さな靴音がコンクリートの床で軽やかに響き、子どもたちが追いかけっこのように駆けていく。吹き抜けの天井から射し込む光は、高窓を抜けて壁や床に長い影を描いていた。


「待ってよー!!」


 二階の回廊へと駆け上がっていく背中を追い、子どもが階段を跳ねるように登っていく。

 一階と二階は主に職員休憩室や仮眠室で、扉を開けば二段ベッドやテレビが置かれた狭くも静かな空間が広がる。今はそこで、クロスプリズンの職員たちとその家族が暮らしていた。


「仮眠室はほとんど、寝るためだけの空間ね。他には職員休憩室を、居住空間として利用しているらしいわ」


 部屋を覗きながら、ハルノはクロスプリズンでの生活実態を口にした。

 収監規模は二千以上という大きさだが、仮眠室を急造しても部屋数は五十程度。他は職員休憩室を開放して使い、簡易ベッドや生活用品を揃えて暮らしているらしい。


「食事は時間を区切って食堂で、って話だしな。職員の人も言っていたぜ。霧島所長が家族を手厚く保護してくれるから、それに応えるため頑張れるって」


 一階には食堂や浴場があり、二階には薬品庫と医務室。外の世界と比べれば格段に恵まれた環境であり、ここを離れたくないと考えるのも当然だ。霧島所長が示したルールのもと、職員たちは家族を守られつつ職務を果たしていた。


「亡くなった人の家族も、変わらずに支えているもの。その実態を見ているから、簡単に気持ちが離れるはずもないわ」


 ハルノは実際を踏まえて、さらに補足するよう言う。

 働き手を失えば、他への負担は重くなる。だがどれほど重要な職員を失っても、その家族を追い出すことは決してない。みんなで支え合う姿勢を見せているからこそ、前線に立つ職員たちは命を懸けられるのだ。


「それに、お風呂にシャワーもあるのよね。しかも、お湯が出るって話よ」


 文化的な生活を前にして、ハルノは驚きを隠せていない。


「らしいな。霧島所長も言っていたけど、電気と水道が独自の供給らしいから。そりゃ、そう簡単に刑務所を離れられないよな」


 終末の日以降、EMP電磁パルスの影響か。あるいは未知の隕石やその他の要因か──、電子機器はほとんど機能を失った。

 特にお湯を確保するのは困難で、せいぜい鍋で沸かすのが限界。そんな中で浴槽やシャワーから湯が出るというのは、どれほど恵まれた環境か一目でわかることだった。



 ***



 クロスプリズンD棟の三階は、警備の中枢だった。管制室では舎房や作業場のモニター監視が行われ、所内カメラや通話に緊急警報までも制御されている。

 さらに装備保管室には、警棒や手錠に防弾ベスト。他にもテーザー銃や催涙スプレーに拳銃と、加えてショットガンまでが並んでいるらしい。


「さすがに厳重なセキュリティ管理で、見せてはもらえないわね」


 各部屋の前まで来てみたものの、入室は固く制限されており、ハルノは小さくため息をついた。


「見てみたかったよな。管制室とか、カッコよさそうだし」


 テレビや映画で目にした光景と、同じなのか──。実物を目前にしながら立ち入りできないのは、どうにも口惜しかった。


「まあ私も少しは興味あるけど、蓮夜ほどではないし。……相変わらず、子どもっぽいわね」


 冷ややかに言い放つハルノには、男のロマンなど響かないらしい。


「管制室と装備保管室はダメだったけど、ここは見ても構わないらしいな」


 そう言って足を踏み入れたのは、連絡調整室。ここにはカードキーや指紋認証といった制限もなく、見学を許されていた。

 職員同士の連絡や出動に点呼、当直や巡回の管理拠点であり、壁一面のホワイトボードには囚人の管理スケジュールまでびっしりと記載されている。


「六時半に起床して、七時に朝食」

「十一時半に昼食で、十七時に夕食。そして二十一時に就寝。……これが毎日続くのね」


 並ぶ文字を追いながら、ハルノと囚人たちの一日を想像した。

 刑期を終えるまで繰り返される、変化のない日々。罪を犯した代償として当然のことかもしれないが──自由を奪われた世界には、決して足を踏み入れたくはないと強く思わされた。


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