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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第六章 過去との対面

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第338話 王の城

「まあ、しかしだ。ここに来たのは、偶然か?」


 腕を組みながら所長は、じっとこちらを見据える。その眼差しは何かを見透かすようで、曖昧な返答では通じそうにない。

 嘘が苦手な自覚はある。ここは、正直に話すしかない。


「……ここ、仙台民間刑務所はジェネシス社の管理下にある場所ですよね? そして、あなたがその所長で間違いないですか?」


 核心に触れるように問いかけると、場の緊張感がひとつギアを上げた気がした。


「ああ、そうだ。……だったら、なんだ?」


 所長はわずかに顎を引いて答えるも、言葉の端に微かな警戒を含ませている。

 ジェネシス社――その名前を口にした途端、周囲の空気が変わったのがわかった。黒装備の者たちの視線も、まるで照準のように集中している。


「会いたい人がいるんです。話を通してもらえませんか?」


 この機会を逃すまいと、すぐさま切り出す。

 無理に内部へ潜り込むより、内部の人間に協力を求める方が遥かに効率いい。ここは一歩引いて、誠意を見せるが得策と判断した。


「おいおい、マジかよ。……わかってんのか?」


 所長は呆れたように、肩をすくめ続ける。


「今は終末世界の真っ只中で、しかもここは刑務所だ。犯罪者が収監されている場所だぞ。『会いたいから』って理由だけで、はいどうぞって通せるわけねぇだろ」


 所長の言葉にはもっともで、揺るがぬ正論が込められていた。


「これを見てください。私たちも、ジェネシス社の関係者です」


 ハルノは一歩前へ出ると、懐から一枚のライセンスカードを差し出す。その動作は静かであるも、確かな意志と覚悟が感じられた。


「……嬢ちゃんの顔、どこかで見たような……」


 所長はカードを受け取り、ハルノの顔をしばし見つめる。

 眉間に皺を寄せ、思い出すように視線を細める。一方のハルノには心当たりがなしか、まったく動じずに反応を示していない。


「まあ、本部からの正式な使いってわけじゃあなさそうだが。……それで? 誰に会いたい?」


 カードをひと通り確認した所長は、ようやく応じる態度を見せた。

 カードはさらに、隣の女性へと手渡される。彼女の視線はなおも鋭く、疑いを拭っていないようだった。


「ジェネシス社テロ事件の主犯の一人。――“ガイ”という人物に、会わせてほしいんです」


 その名を告げると、空気がピンと張り詰める。

 函館で一時的にパソコンを使用できたとき、ガイがここに収監されていると知った。かつて同じジェネシス社の下部組織で働いた同僚であり、事件が起こる前までは互いに信頼し合う良好な関係だったのだ。


「ジェネシス社に関わる犯罪者。……それはまた、一級の政治犯か」


 所長は少し言葉を詰まらせ、表情がわずかに引き締まった。唇を窄めて、険しい眼差しをこちらに向けてくる。

 その反応からすぐに察せられた。ジェネシス社に関係する犯罪者となれば、扱いは別格らしい。


「……所長。なぜこのような者たちが、その情報を持っているのでしょうか? ジェネシス社に関わる犯罪者の件は、職員の間でも高度な機密事項。まさか、この終末世界で――何かよからぬ企みを抱えているのでは」


 隣に立つ女性職員は鋭い声で、ナイフのような視線を向けてくる。疑念と警戒心をむき出しにした態度は、一切の情けも油断もなかった。


 いきなりやって来たよそ者が、極秘情報を知っているんだもんな。警戒されるのも、ここは仕方ねぇ。


 対応としては理解できるも、揃って真実を知っている。それはハルノのライセンスカードと、説明した事実が証明しているだろう。


「まあ、ライセンスカードは確かに本物のようだし。この終末の中、わざわざここまでたどり着いたってだけでも只者ではない」


 所長は鼻を鳴らしながらも、思慮深げにそう言った。その目には警戒と同時に、ほんのわずかに興味の色が浮かんで見える。


「話すには、少し時間がかかりそうだ。――これから“王の城”に、二人を案内しよう!!」


 所長は高らかに宣言をすると、職員たちに囲まれたまま。王の城と比喩された刑務所の中へ、足を踏み入れることになった。


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