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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第六章 過去との対面

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第336話 仙台民間刑務所

 宮城県に入ってから、そして仙台市に差し掛かった頃。仙台駅へと向かっていく中で、屍怪の数は確実に増えていった。

 駅前に繁華街や住宅地――人が集まる場所ほど、その痕跡は濃く空気にすら澱みが漂っているようだった。それでも建物に身を潜め、時には時間をかけ遠回りをして。目指すは仙台市郊外にある、ジェネシス社が運営する民間刑務所。


「ここが……仙台民間刑務所、か」


 ついにたどり着いたと、崖の上から全景を見下ろす。塀は円形に施設全体を取り囲み、中心に✖の形になるように棟が配置されている。

 この場所を目指すと決めたのは、函館で一時的にネットにアクセスできたとき。あのときかき集めた情報の中に、ひときわ気になる名前があった。三年ほど前に世間を騒がせた『ジェネシス社テロ事件』にて、その主犯格とされる人物が収監されているという情報だ。


「終末の日から、半年以上も経っているのよ。……本当に生存者なんて、残っているのかしら?」


 隣でハルノが不安げに呟き、思うのも当然だろう。

 終末の日から屍怪が出現して社会が崩壊し、人の居場所があらかた飲み込まれてしまった今――。いくら厳重なセキュリティを誇っていたとしても、機能を維持しているとは考えにくい。


「でも、とりあえず行ってみようぜ。近くから探るだけでも、何かわかるかもしれないし」


 そう言って崖を降りようとした、そのときだった。

 静かだった刑務所の正門。軋むような重低音を響かせながら、ゆっくりと開いていく。


「……!!」


 思わず身を屈め、視線を正門へと送る。そこから現れたのは、屍怪ではなかった。

 黒い防護ヘルメットに、黒の防護服を身にまとった集団。五人はまるで特殊部隊か、もしくは軍人か兵士のような出で立ち。動きに無駄はなく、足並みも揃っている。それは明らかに、訓練された者たちの動きだ。


「……少し、様子を見てみましょう」


 小声で言う隣のハルノからは、わずかに緊張が感じられる。

 屍怪ではない。けれど――人間だからといって、安心できる世界ではない。この終末を迎えた半年間で、いやというほど思い知らされた。信頼できるかどうかは、見た目や装備では測れないのだ。


 “人間”の方が遥かに厄介な場合も、決して少なくはなかった。

 ここは見。それが賢明な判断。それは俺としても、納得はできるぜ。


 草むらに身を伏せたまま、目の前の光景に集中する。

 彼らがどこへ向かい、何をしようとしているのか。今は静かに、それを見極めるしかない。



 ***



 ……なんだ。この感覚。何か、違和感があるような。


 先頭を走っていた兵士の一人が、まるで電源が切れた機械のように崩れ落ちる。心の整理が追いつかない中で、隊列の中でひときわ異質な姿が目に入った。


「……おい、あの人。銃を向けてないか?」


 倒れた人へと銃口を向けているようで、指摘をしながらも落ち着かない。

 異質に見えるその男だけは、装備が明らかに違っていた。周囲の黒い装備とは異なり、深い緑色の軍服がやけに目を引く。防護ヘルメットも被っておらず、素顔を晒している状態。左耳には琥珀色のピアスが光り、肩には何かを示すように腕章が巻かれている。向けられた銃口は一直線に、迷いも戸惑いも見えない。


「……まさか、撃つつもりかよ!!」


 脳裏に過ったのはただ一つで、人が人を殺そうとしている。

 と思えば無意識に、足が勝手に動いていた。考えるよりも先に、体が反応していた形だ。


「待てっ!! その人は生きている人間だろっ!! どうして撃とうとするんだよっ!?」


 緩やかに傾いた斜面を駆け下り、声を張り上げながら間へ割って入る。

 正面から見ると男は、奇抜な髪型だった。右側だけを潔く完全に剃り上げ、残された長い青髪が風に揺れて静かに靡く。その髪は耳元から後頭部へと流れ、首筋をなぞるように後ろで一束に結ばれている。


「なんだ……こいつ? どこから現れやがった?」


 銃口をこちらへ向けたまま、呟くのは大男だった。

 軍服の上からでもはっきりわかるほど、全身が無駄なく鍛え抜かれている。岩のように隆起した肩や腕の筋肉。太く硬質なその腕が黒光りする銃を支えたまま、微動だにしないことが何より実力を物語っていた。


 勢いのまま間に入ったけど……近くで見ると、思っていた以上にでかい……。


 二メートルを軽く超えている身長は見上げるしかなく、その高さを前にして反射的に喉が鳴った。

 顔立ちもまた、彫刻のように整っていた。鋭く切れ上がった目尻と、深紅のアイシャドウが妖しい陰影を落とし、凶暴な色気と圧倒的な威圧感を放っている。

 それでいて、その目の奥には妙な静けさと覚悟を湛えた光が宿っている。激情だけで動いている男ではない、そのことが直感的に伝わってきた。


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