表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末の黙示録  作者: 無神 創太
第五章 本州上陸

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

330/361

第327話 人喰いの悪魔12

 オレはもう、歩けないんだ。

 走ることも、逃げることもできない。これまでどんな相手からも逃げてきた、唯一の取り柄すら――もう終わりだ。


「また叫んで、うるさいわね」


 焚き火の明かりに照らされた少女の顔には、微塵も同情の色はなく声も冷たい。


「本当に。屍怪が寄って来ちゃうよ」


 少年もあくび交じりに言ってのけ、まるでただの迷惑行為のように。


 ……このふたり、どうかしている。人の形をしているけど、中身はまるで違う。


 なぜこんなことができるのか、理解できない。いや、したくもなかった。

 胸の奥がキリキリと痛む。怒りでも憎しみでもなくただただ、わけのわからない感情で頭が埋め尽くされていく。


「でも、足を斬って正解だったわ」

「そうだね。前は一度それで、獲物を逃しちゃったから」


 少女はそう言って肉の串をくるりと回し、少年の口からあっけらかんと飛び出す言葉。

 人を獲物という神経。ただただ楽しそうに、浮かべられる笑顔。悔しさも、恐怖も、怒りも、絶望も。全部まとめて自分の中で渦を巻き、涙が出ることすら忘れていた。


「くっ……!! 畜生!! なんで、なんでこんな目に……っ!」


 手も足もなくなって、泥にまみれながら。地面に這いつくばりながら、虫のように成り果てても。どうにかあの二人から、なんとしても距離を取りたかった。


「せっかく止血をしたのに」

「動きすぎると、死にますよ?」


 冷え冷えと響く少女の声に、笑顔で淡々と脅すように少年。その口ぶりに慈悲はなく、命を点数のように数えているだけだ。


「なんとか……みんなの元に……トミコ……」


 せめてもう一度だけでいいから、アイツの顔を見たかった。くだらないことで言い合っても、信じて背中を預け合っていた関係。

 もうどうにもならず、身体は長くないかもしれない。でもたとえ最後でも、逃げなくてはならなかった。トミコに会いたい。ただ、それだけで。


「うわああっ!! なんだ!? これ……っ!!?」


 地面に手をついて這っている中で、急に身体が浮いた。

 次の瞬間には、ズザザッと転がる衝撃。視界が回って、夜の闇がぐるぐると回っていく。


「あ……れ、オレ……落ちた……?」


 視界が揺れて、泥と冷気に包まれる中。周囲を見渡せば、どうやら坂を転げ落ちたようだ。


「あら、落ちちゃった?」

「もったいないなあ。まだ、食べられたのに」


 転げ落ちる前の頭上からは、少女と少年の声が聞こえる。


 それにしても、ここはどこだ?


 さっきまで地面を這っていたのに、急に転げ落ちて穴か崖か。

 夜は深くなって、何も見えない。ただ、何かが聞こえる。たしかに何か、動いている音が。


「……なんだ? 何がいる……っ?」


 唯一動く左手を前に出して、闇を掻き分けるように探る。耳を澄ませればぬるりと、湿った音が混じっていた。


「引き上げられないかな?」


 何の感情もなく、少年の声が響く。


「無理よ。穴は深いし、それに――屍怪がいるもの」


 まるで他人事のように、少女はさらりと言い放つ。


 ――屍怪!? この穴の中に、奴らがいるってのか!?


 右手と左足を失っては、逃げることも叶わない。

 屍怪がいるのならばそれは、想像をし難い最悪の展開。冷や汗が吹き出し、歯の根が合わない。


「うっ……まさか、まさか来るなっ!! 来るなああああっ!!」


 ザリザリと土を這う音。暗闇の向こうに、光る目が浮かび上がる。


「アガァァア!!」


 屍怪が噛みついてくると、バキッと骨が砕ける音がした。歯が何度も肉を裂き、暗闇の中で群がってくる。


「うわああああっ!!」


 全身に走る激痛で、意識は薄れていく。

 なのに、不思議なことに。落ちる意識の中で見上げた夜空だけは、どこまでも澄んで美しかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ