表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末の黙示録  作者: 無神 創太
第五章 本州上陸

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

325/362

第322話 人喰いの悪魔7

 坂ノ上役場から坂道を下り立ち寄ったのは、騒動となり巻き込まれたガソリンスタンド。今では雑草がアスファルトの隙間から顔を出し、無人のまま時が止まっているようだ。

 さらに坂道を下ると、錆の目立つ滑り台。風に揺れるブランコが寂しげに佇む、静寂に包まれる公園が現れた。


「集落の周辺は、みんな探しているだろうし。簡単に見つかるわけもないよな」

「でも、諦めるわけにはいかないわ。あの子たちが今のような状態になったのは、間違いなく何か理由があるはずよ」


 青い草の生える公園にて周囲を見渡し言い、それでもハルノは固めた意志を崩さない。子どもたちの境遇や考えを理解し、ハルノは対話での解決を望んでいた。


「夜まであと数時間か。もっと集落の外側まで、足を伸ばしてみるか」


 ブランコに腰を下ろし一漕ぎしては、錆びた鎖が軋む音を立て身体が前後に揺れる。

 滑り台の前に立つハルノの姿に目を向け、ふと背後に何かが動いたような気がする。確実な違和感を覚えたとき、背筋に冷たいものが走った。


「ハルノっ!! 後ろだっ!!」


 滑り台の裏に人影を視認して叫ぶも、一足早くマチェットを持つ少年が現れた。

 ハルノの首元にそれを突きつけると、続いて現れた少女が猟銃をこちらに向ける。二人の動きは音もなく、まるで影のような静けさだった。


「おとなしくしていただけますか? 少しお話をしたいだけなので、従ってもらえれば危害を加えるつもりはありません」


 少年の声は落ち着いていて、どこか大人びている。抵抗できる状況になければ、やむなく手を挙げて降伏の意思を示すしかない。


「理解が早くて助かります」


 微笑みながら言う少年の笑顔には、年相応のあどけなさが残っていた。


「なぜ俺たちと、話そうと思ったんだ?」


 役場の人間とは問答無用で戦闘になったと聞くも、少年少女の二人は話し合いを望んでいるようだった。その柔和な姿勢に、集落の人々とは異なる印象を受ける。


「そうね。お兄さんとお姉さんからは、集落の人たちと違う匂いがしたの」


 少女は銃口を突きつけながらも近づいてきて、ブランコの前で四人が集まる形となった。


「匂い?」


 根拠が感覚的なもののようで、思わず疑問を呈してしまう。


「ええ。集落の人たちからは、狩るという気配が溢れ出ているわ。でもお兄さんとお姉さんには、そういった気配を感じなかったの」


 口元を緩めて言う少女の根拠は、とても曖昧なものであった。

 しかし野生的な勘なのか、はたまた空気を読む洞察力か。捉えている本質に、間違いないのもまた事実だ。


「それで……話って?」


 ハルノはそう訊ねるときも、両手は上がったままだ。だがその声には怯えや迷いはなく、まっすぐに相手を見据える芯の強さがあった。

 しかしそんな隣で、密かに息を呑む。少女の持つ猟銃の銃口は、いまだこちらに向けられたまま。それでも彼らの目には敵意よりも、何かを確かめようとする色が濃く浮かんでいた。


「以前した質問に、答えてもらおうと思って」


 マチェットを構えた少年がそう切り出し、静かな口調にどこか大人びた印象を受ける。その眼差しは年相応の、迷いや渇望を孕んで見えた。


「どうして人は、人を殺してはいけないんですか? その答えを教えてください」


 投げかけられた質問に、思わず喉が鳴った。

 初めて出会ったときに、試すように投げかけられた言葉。頭の隅で考えていたことを、言葉を選びながら慎重に口を開く。


「……法律で決まっているから。自分が殺されたくないから。自分が生きたいから。人権で保障されているから……」


 並べられるのはどれもこれも、どこかで聞いたような理屈ばかり。

 頭ではわかっている。けれど、どれも核心を突いてはいない気がした。


「ともかく人が人を殺さないのは、人間社会で生きていたら普通のことだ」


 自分でもその言葉に、どれほどの説得力があるか疑わしかった。

 生きるためなら人は、牛も鶏も平然と殺す。命の線引きをどこでしているのかなんて、誰にも明確には語れない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ