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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第五章 本州上陸

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第321話 人喰いの悪魔6

「動物の仕業では、ないわよね?」

「だな。野生の動物なら、ただ食い散らすだけだろ。律儀に山積みになんてしねぇよ」


 薄暗い食堂の静寂にハルノの声が響く中で、ここは人為的なものと疑ってかかる。

 何者かが野生動物など狩りをして、この場で食したのだろうか。しかし床には埃が積もって、今は何も荷物が残されてはいない。もし人がいたとしても、かなり前の話だろう。


「結局、手がかりはなしかよ」

「そうね。でも子どもたちがこの施設で過ごしていたなら、人格形成における背景が見えそうなものだわ」


 目的に対して成果なく肩を落とす中で、怪訝な顔をしてハルノは静かに言った。

 集落から離れた児童養護施設は、とても適切に稼働していたと思えない。きっとここに送られた子どもたちは、想像をしえない苦労を背負ったはずだろう。ハルノの目には怒りと哀しみさえ宿っているようで、子どもたちの境遇を考えれば無理もない。



 ***



「蓮ぴょん!! ハルぴょん!! ヤバいって!! さっき超ヤバい襲撃があったの!!」


 児童養護施設から坂ノ上役場へ戻ると、トミぽよが広場を全力で駆け寄ってきた。彼女の顔は蒼白で、息も絶え絶えだ。


「子どもたちからの襲撃があったの。負傷者が出た上に取り逃がしちゃって、役場は今とても殺気立ってるじゃん!!」


 説明をするトミぽよの言葉に、顔を見合わせ一瞬にして言葉を失った。数時間前に見た穏やかな風景は、今や完全に一変している。


「あのぉぉ!! クソガキどもっ!! 次に会ったら、腑を引きずり出してくれるっ!!」


 顔を真っ赤にして怒鳴り散らし、長老はまさに鬼の形相。口にすること憚られるレベルの暴言で、数時間前に会ったときとはまるで別人だ。


「なんでも明日の夜にまた来るって、夜襲の宣言をされたみたい。それでみんな厳戒態勢になって、本当にマジでヤバいじゃん」


 目まぐるしく急転する事態に、トミぽよの混乱は見てわかる。

 負傷した七十代の老人は、頭に深い斬り傷を負ったらしい。包帯をグルグルと巻かれ命に別状はないらしくも、その痛々しい姿が事態の深刻さを物語っていた。


「明日とは言っても、今日に来るかもわからんっ!! みんなを役場に集合させ、夜通し火を絶やすなっ!!」


 指示を飛ばす長老の怒声は、広場の全体まで響き渡る。その顔は怒りと焦燥に染まり、まるで鬼神の如き迫力を放っていた。

 長老の指示に従い、人々は慌ただしく動き始める。薪を集めて松明を灯し、夜通しの警戒態勢を整えていく。


「でも今日か明日にでも来るなら、その時に取っ捕まえてトモキの居場所を吐かすっ!!」


 トミぽよも気持ちを切り替えたようで、武器の調達にどこかへ行ってしまった。そんな彼女の背中には、決意と覚悟が滲んで見える。

 人々が厳戒態勢を維持する中、ハルノと共に役場の二階にある会議室を借りることになった。ランプの淡い灯りが、薄暗い室内をぼんやりと照らしている。外からは薪が燃える音や、人々の足音が微かに聞こえていた。


「なぜ二人は、この地を去らないのかしら?」


 ランプの淡い光を瞳に映して、ハルノの声が会議室に響く。子どもたちの状況を鑑みて、深い思索に沈んでいるようだった。


「本当に食料が足りないなら、別の土地へ行くって選択肢もあるのに」


 ハルノの言葉には純粋な疑問と、どこか焦燥感が滲んでいた。

 たしかに飢えを凌ぐためなら、他の場所へ移るのが自然なはずだ。それなのになぜ子どもたちは、この集落に留まり続けるのか。


「人を襲うから命まで狙われて、集落にいたら気も休まらないはずだしな」


 疑問を抱く点に理解を示し、頷きながら待遇を考えてみる。

 時おり集落に姿を現すことから、子どもたちはそう遠くにはいないはず。逃げるでもなく堂々と姿を見せる行動には、何かしらの意図を感じずにいられない。


「やっぱり、きっと。何か考えがあるのよ」


 集落に留まり続ける理由があるのだと、ハルノには確信に近いものを感じ取っていた。

 窓の外を見つめれば闇夜の中に、松明の炎が揺れている。夜の静寂に耳を傾けながら、嵐の前の静けさが包み込んでいた。



 ***



 結局のところ昨夜における夜襲は起こらず、予告を受けた今日という日を迎えた。長きにわたる戦いに終止符を打つべく、集落の人たちは意気込んでいる。


「手練れの子どもと言っても、相手は二人じゃ」

「遥かに人数が勝る上に、こっちとら銃だってある」

「我々に楯突いたことを、心の底から後悔させてやる」


 圧倒的な優勢を意識してか、集落の老人たちは余裕を見せていた。これまでのヒットアンドウェイの戦法では捉えきれなくも、今回の夜襲は万全の体勢で待ち構えられるからだ。


「なんで今回に限って、夜襲なんだろうな?」

「それに宣言をするなんて、準備をしてくださいって言っているようなものよ」


 なぜここに来て大きく方針を転換したのか、明らかに不利だとハルノも疑問を抱いていた。


「終末の日から半年以上も捕まらずに、子どもたちもきっと馬鹿じゃないわ。何か裏があるとみるべきよ」


 見える景色が全てではないと、ハルノは疑問につき警鐘を鳴らす。


「夜襲って言うからには、来るのは夜だろうし。ぶつかり合えば怪我人だって出るはずだ」

「そうね。難しいことかもしれないけど、私たちはできることをしましょう」


 時間の問題で争いが起きること避けられず、それでもハルノと諦めない姿勢をもつ。

 刻一刻と過ぎていく時間の中で、残されている時間はもはや僅か。子どもたちを見つけ出さなければ、集落にて大きな衝突が起きてしまうだろう。


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