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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第五章 本州上陸

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第318話 人喰いの悪魔3

 ―*―*―蓮夜視点―*―*―


「ちょっ!! オマエ!! 何をやってんだよ!?」


 怒鳴り声を上げたトミぽよは、声が裏返り明らかに動揺している。

 目の前には膝をつき、血を流して蹲るトモキ。信じたくなくなかったが二度見をしても、右腕から先は本当に“無かった”。


「ねぇ? どうして人は、人を殺してはいけないんですか?」


 少年の問いはあまりに無邪気で、あまりにも異常だった。

 口元は柔らかく微笑んで、大きな瞳は純粋そうに澄んでいる。小学生くらいの少年は、一見しては可愛らしい顔。しかしそんな外見なんかどうでもよくなるくらいに、強烈な違和感に警戒心を生んだ。


 ――――こいつは、やばい。


 全身の筋肉が自然と、強張るのを感じた。トモキの返り血を浴びながらも、少年は眉ひとつ動かしていない。

 屍怪を初めて見たときとも違う、きっと目前の少年はもっと質が悪い。話せば通じるとか、理屈的なことではない。もしかしたら話が通じた上で、人間的に狂っている。そう思わせるような、衝撃的な出会いだった。


「生きるためなら鶏や豚に牛も、人は殺しているというのに」


 給油機の横からふと現れたのは、小学生の高学年くらいの少女だった。三つ編みの黒髪が揺れ、幼さの残る顔立ち。無垢な表情を浮べる彼女の瞳は、深い湖のように澄んでいて底知れぬ静けさを湛えている。

 黒のフォーマルスーツに身を包み、リボンのネクタイとチェック柄のスカートは、黒白灰茶の四色が混じる。目の前に立つ少年と並ぶと、まるで対になる存在。服装は似たような感じで、雰囲気を含め統一感があった。


 なんか、……デジャヴを感じるぜ。


 二人の顔を見比べ発言から、背筋に冷たいものが走る。

 少年と少女が並んで立ち、揃って口にした言葉。それは夢で見た発言と酷似して、予知夢が如く現実として心臓の高鳴りを感じた。


「悪魔じゃっ!! 悪魔が出たぞっ!!」


 どこからか老人の叫び声が響き渡り、空気が一瞬で張り詰める。

 何が起こっているのか。状況を把握する間もなく、緊張が全身を駆け巡る。


「来たようね」

「そうだね。ここは一旦、退こうか」


 少女は顔色一つ変えず冷静に告げ、少年も一切の躊躇なく頷いた。

 少年は騒ぎ続けるトモキに手刀を放ち、彼の体はぐったりと動かなくなった。気絶したらしいトモキを、二人は肩を貸して持ち上げる。


「待てっ!! 逃すなっ!!」


 ガソリンスタンドには、槍や猟銃で武装した老人たちが集まってくる。

 急展開に状況が飲み込めずいる中で、少年少女はトモキを担いでその場を離脱。全く動けずにいたところ、十人を超える老人たちに囲まれてしまった。



 ***



 老人たちに囲まれ坂を上って連れてこられたのは、坂ノ上役場と呼ばれる建物だった。

 後方を緑の木々と山に囲まれ、集落でも高台に位置する場所。舗装されずグラウンド並みに広い広場に、昭和初期に建てられたという役場。 年季の入った木造三階建ての建物は、木板が黒ずみレトロな風情を醸し出している。


「んにゃ。さっきは驚かせて悪かった」


 応接室に通されるとソファとテーブルが置かれ、一人の老人から説明を受けることになった。

 集落の長老とされる老人は小柄で細身の体つき、八十五の年を重ねた分だけ顔には深い皺が刻まれている。少し猫背気味の姿勢に、髪はくすんだ白髪混じり。眉は薄く目元はくたびれたように垂れて、鼻はすっと通って唇は薄い。

 グレーのくたびれたシャツに、色あせたこげ茶ジャケット。パンツはモスグリーンと、全身に派手さはない印象。全体として整っているわけではないものの、目の奥にひそむ光は妙に鋭く見える。


「しかし何も知らずに悪魔と遭遇して、無傷とは運がいい」


 長老はボソボソと呟くように言い、その言葉に背筋が凍る思いだった。あの少年と少女は、ただの子どもではない。その存在が悪魔と呼ばれるほどのものだとすれば、一体何に巻き込まれてしまったのだろうか。

 応接室の窓から見える景色は、穏やかな山々と静かな集落。しかしその静けさの裏に潜む、何かが心をざわつかせる。これから何が起こるのか、予測もつかない。ただ一つ確かなのは旅を進める中で再び、思っていた以上の危険に巻き込まれたということだ。


「悪魔って、さっきの子どもたちのことですか?」

「んん、そうじゃ。あの悪魔は人を捕まえて、その肉を食らう。言うてワシらの中からも、被害者が出とる。一方的に殺されるわけにはいかんと、悪魔討伐隊が結成されたんじゃ」


 問いかければ目を合わせることなく、長老はボソボソと呟くように答えた。

 その言葉を聞いた瞬間、背筋に冷たいものが走る。子どもの姿をした存在が、人を襲い食らう。そんな現実が現代に、目の前にあるとは信じ難かった。


「一人は残念だったが。お前さんらは早く、集落を出たほうがええ」


 長老の言葉はまるで死刑宣告のように、全員の胸に重く響いた。連れて行かれたトモキの命は、もうないと断言するかのような口調。本当の意味で一縷の望みなく、希望の欠片すら感じられない。

 坂ノ上役場を拠点に過ごすのは三十名で、その平均年齢は七十歳をゆうに超える。終末の日より前から若者は都市部へ出て、高齢化の進んだ限界集落は一体感の強い雰囲気。部外者を他所者と敬遠し、全員が遠巻きに一線を引く対応だった。


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