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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第五章 本州上陸

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第312話 ラップ

 トモキはパチンコ店の正面に立ち、深く息を吸い込んでいる。

 そんなトモキの首には今も、空き缶を繋げたネックレスが揺れている。不意に空き缶同士が衝突すれば金属的な音が静寂を破り、店内にいる屍怪たちの注意を引き始めていた。


「なんでオレっちが、もう……どうにでもなれっ!!」


 トモキは自嘲気味に呟くと、足元の小石を拾い上げた。

 パチンコ店のガラス窓に向かって投げつければ、コツンコツンと乾いた音に数体の屍怪がゆっくりと顔を向ける。視線が自分に集中していくのを感じながら、トモキは鼓動が速くなるのを抑えきれなかったようだ。


「おいおい そこのお前 どこ見てんだ? オレっちのことなら はっきり見とけよな? 髪も服も キマって当然 この街オレっち 目立って当然」


 トモキは突如として、ラップを口ずさみ始めた。その声は最初こそ震えていたものの、次第に力強さを増していく。


「なあ そんな地味で いいのかよ? せっかくここまで 来たんだろ?

 オレっちの言葉に ノッてみな ビビらず しっかり こっち見な」


 駐車場で歌うトモキに反応をして、次第に店内の屍怪も顔を向ける。

 ガラス越しにトモキを凝視しながら、屍怪は低いうなり声を上げ始める。動きが活発になっていくのを見て、トモキはさらに声を張り上げた。


「逃げ道なんか どこにもねぇ ここで決めなきゃ 意味がねぇ

 オレっちが主役? まあ そうだなけど 目立ちてぇなら ついてこいよな」


 トモキがラップを終えた瞬間に、パチンコ店の駐車場は静寂に包まれる。

 披露されたパフォーマンスに感動しているのか、窓際に張り付き全く動きをみせない屍怪。ラップを歌ったトモキ本人が、最も困惑している様子だった。


「ガアアアッ!!」


 しかし店内の屍怪たちは一斉に、ガラス窓に押し寄せ激しく叩き始めた。

 その様子はまるでライブ会場にて、観客がステージに向かい熱狂している姿。ただ一つ異なる点といえば、相手が人間ではないということだ。


「ガアアアッ!!」


 ラップに触発され屍怪たちの敵意は、完全に一人のギャル男へと向けられた。

 屍怪はガラス越しにトモキを睨みつけ、興奮した様子で窓を叩き始める。その衝撃でガラスには細かな亀裂が走り、ピキピキと不吉な音を立てていた。


「あははっ。注意を引けたなら、もうそれで結構っす」


 トモキは内心の恐怖を押し殺しながらも、計画通りに事が進んでいることを確認。ゆっくりと足を後ろに退がって、揺れた空き缶のネックレスは音を立てる。

 怯えている様子のトモキに対して、ますます興奮していく屍怪たち。ついにはガラスを突き破って、雪崩の如く外へと溢れ出してきた。


「ううっ!! やっぱり、こうなるっすねぇ!!」


 トモキは大きな声で叫びながら、全速力で駐車場を駆け抜けいく。背中を追うように約三十体の屍怪は、一団となって後を追い始めた。

 首に掛けられた空き缶のネックレスは、走るたびにガチャガチャと音を立てる。トモキは必死の形相で走り続けて、屍怪の注意を引きパチンコ店から遠ざかっていった。



 ***



「ここまでは計画通りね」


 屍怪を店外へ誘い出すことに成功し、作戦は順調に進んでいるとハルノは言う。

 囮役となったトモキは、少し可哀想に思うところ。それでも目的を達成するため、やむを得ない選択の一つだった。


「ああ。俺たちは食料を確保しようぜ」


 緊張感を滲ませながら応じたところで、パチンコ店の右奥にある裏口へと向かう。慎重に行動を起こす中でも、リスクに対する見返りを得なければならない。

 ドアノブに手をかけ扉を開ければ、店内の静寂が三人を迎えた。かつては煌びやかな光と賑やかな音に満ちていただろう店内も、今は薄暗く不気味な静けさが漂っている。窓から差し込むわずかな光は、埃っぽい空気を照らし出していた。


「事前に聞いていた通りだな」


 足を進めれば楕円形の長テーブルに、四台の景品交換カウンターが並んでいる。その隣には【景品コーナー】と書かれた看板が傾き、陳列棚には様々な商品が乱雑に並べられていた。


「へぇ。パチンコ店って、ゲームやぬいぐるみも置かれているんだな」


 景品コーナーに視線を向ければ、予想外の物が多く驚かされた。

 色とりどりのぬいぐるみや、最新のゲームソフト。さらに化粧品やブランドバッグに、掃除機などの家電製品まで。パチンコ店とは言うものの、多種多様な商品が揃っている。


「マジで何も知らないんだ。ウチはあまりやらないけど、JK時代に来たことあるし」


 トミぽよは過去を回想して、出来事をありのままに言う。

 言っても高校生であれば、遊戯可能な年齢ではない。それでも女子高生のトミぽよは年齢確認をされず、また友人たちも確認を受けなかったとの話だ。


「まあかなりの童顔でもなければ、遊戯できると思うよ。グレーゾーンってやつ?」


 トミぽよは自身で言っておきながら、よくわかっていなそうだった。

 そもそも法律で定められているならば、グレーゾーンではなくアウトだ。それでも入店時に年齢確認をしていなければ、曖昧になっている現実があるのかもしれない。


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