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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第五章 本州上陸

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第310話 マイナスイメージ

「トモキったらマジのビビりで、もう本当にヤバいって感じなのぉ」


 徒歩でパチンコ店へ向かう道中にて、トミぽよは今までの日々を振り返っていた。

 彼氏であるトモキは口こそ達者だが、喧嘩や戦闘はからっきしとの話。基本的には逃げ足の速さを活かし、今日まで生き延びてきたという。


「いいんっすよ。人には得意不得意があるんっすから。別に屍怪と戦わなくたって、今日まで生き残れたわけっすし」


 トモキは自分の弱さを指摘されても、全く気にしていない様子だった。

 むしろ短所を受け入れ、長所を活かすという生き方。自分の能力を素直に受け止め、無理をしなかったこと。それこそ、生存の秘訣だったのかもしれない。


「営業していないのは、わかっているんすけど。やっぱりパチンコ店に来ると、なんかワクワクしますね」


 パチンコ店の看板が視界に入ると、トモキは目を輝かせて言った。

 禁止されていたとは言うものの、トモキは筋金入りのギャンブル好き。終末の日以前には、借金まで抱えていたとの話だ。


「俺は高校生だったし。パチンコ店には行ったことないから」

「かーっ!! もったいないっ!! もし世界が元通りになったら、オレっちが立ち回りを教えてあげるっすよ!!」


 遊戯できる年齢に到達していなければ、トモキは哀れみの視線さえ向けていた。

 経験した者からすると、変え難い楽しみがあるとの話。故に抜けられなくなって借金をし、依存症と破滅へ向かう者がいるのだろう。


「言っても、トモキ。結局はいつもヤバい負けてんじゃん」

「それはその時の話。全てで勝てるわけないんだから、最後に勝っていればオールオッケー」


 渋い顔で指摘をするトミぽよに、鼻で笑いトモキはあしらっていた。

 トモキの楽観的な思考はまさに、ギャンブルにのめり込む特有のもの。パチンコだろうと競馬だろうと競艇だろうと、経営者が有利になるよう作られた仕組み。ギャンブルで負った負債をギャンブルで返そうなど、まさに負のスパイラルに陥る典型的はパターンだ。


「蓮夜。もし世界が元通りになっても、付き合いは考えてよね」


 少し離れた所まで下がって、ハルノは小声で忠告をしてきた。

 ギャンブルに対する警戒心は非常に強いようで、たしかにギャンブルは人を破滅に導くこともある。故にマイナスイメージを持つ者は多く、ハルノが良い顔をしないのも当然だろう。



 ***



「店内には屍怪がいそうだな」


 パチンコ店前に着き店内を覗けば、薄暗い窓際に徘徊する複数の影。営業していないはずの場所で、何の目的もなくさまようその姿。全く意図を読めずして、屍怪に間違いないだろう。


「あの動きは、ハイエナですかね?」


 しかしそう言うトモキには、何か思い当たる節があるようだ。


「ああ、ハイエナっすか? 人が打っている良い台が空くのを待って、すかさず座る行為っす。天井狙いや回転率の良い台を狙うのは、期待値を追う上で当然の立ち回りっすよ」


 誰も求めていないのに専門用語を交え、トモキは得意気に語っていた。


「そんなことをして、他の客とトラブルにならないのかよ?」

「まあ、あまり露骨にやると嫌われるっすね。ほどほどにしないと、出入り禁止になることもあるっすよ」


 通常の立ち回りとは聞くものの、揉め事もあるとトモキは言う。

 ギャンブルとお金を賭けていれば、熱くなるのも当然の話。揃って好条件を求めて動けば、時に予期せぬ衝突もあるらしい。


「それで、食料があるっていう景品の置き場はどの辺なの?」

「店の一番奥っすね。でもこうも屍怪が多いと、……やっぱり無理かなぁ。なんちゃって」


 間取りについてハルノが尋ねると、トモキは頭を掻きながら笑って答えた。

 初期の意気揚々とした雰囲気から、一転して敬遠気味のトモキ。店内に屍怪がいる様子から、完全に臆しているようだ。


「さてはトモキ!! 終末の日からパチンコ店に来たのも、今回が初めてじゃねーなっ!!」


 表情や言動から悟ったようで、トミぽよは鋭く追及をして詰める。


「それはそうだけど。前に来たときも屍怪が多くて、今なら行けるかもって思ったんだよ」


 肩をすくめながら白状するトモキには、淡い期待があったのだと見て取れた。時間の経過で屍怪が離散をするのは、今や生存者なら当然に知るところ。

 しかしパチンコ店の周囲を見渡す限り、開かれている扉やドアはない。店内に閉じ込められているのならば、屍怪は去りようがないだろう。


「でも、もうこの辺りで食料がありそうな場所はないんだよな?」

「店はもちろん、民家もトモキと回ったから。それはもう、本当にマジでヤバいって感じ」


 他に心当たりある場所はないか問うても、やはり行き尽くしたとトミぽよは言う。

 周辺の探索は二人よって、概ね尽くされている。食料の確保が困難になっている現状は、どこへ行っても変わりはなしない。


「先へ進んでも、どうなっているかわからねぇし。なら、このパチンコ店でなんとかするしかない」


 腹を括って覚悟を固め決断を下せば、見つめるみんなも静かに頷いた。

 一階建てのパチンコ店を中央に、四方を三百台規模の駐車場に囲まれている。今は三十台ほどが寂しく点在するばかりで、終末の訪れを痛感させる光景だった。


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