第309話 ファッションショー
「似合っている、かしら?」
ハルノが身に纏うのは、ゼブラ柄のファージャケット。ハート模様の白いプリーツスカートと、大胆で華やかなギャル風の装いだ。
「なんか俺も、こういう服は着ないから……」
胸に大きく【S】と描かれた黒地に黄色の袖をしたスタジャンに、右足に龍の刺繍が施されたバギーパンツを履いている。普段の落ち着いた服装から一転し、ストリート系のファッションに身を包んでいた。
「ハルぴょん!! 超オシャレ!! マジヤバくね!?」
「うほぉお!! 蓮夜さんも超キマってるじゃないっすか!!」
服を提供したトミぽよとトモキは、新たな装いに目を輝かせて歓声を上げる。
「でもやっぱり、脚元が寒いというか……」
「俺もなんかダボダボして、少し動きにくい気がするぜ」
しかしハルノはスカートの露出部分に寒さを感じ、バギーパンツのゆとりに違和感を覚えていた。
「ハルぴょん。オシャレには多少の我慢は必要じゃん」
「えっーと、オシャレよりもまずは保温性や機能性を重視したいのよね」
トミぽよはオシャレを優先する一方で、ハルノは実用性を重視している。
季節に合わせた衣替えが必要な状況。我慢してまでオシャレを追求するのは、適切とは言えないと感じていた。
「これなら悪くないわね」
ハルノはオレンジのボアジャケットに、白いパンツを合わせた装いに満足げだ。
今までと変わらない色の組み合わせは、鮮やかなオレンジとクリーンな白の対比。ハルノらしいと言うか、明るく爽やかな印象を与える。
「俺としても、ここが落とし所って感じだな」
暫く続いたファッションショーの後に今回は、紺色のアウターにベージュのパンツを選んだ。
こちらも色合い変わらず、定番のスタイル。二人の所有する服には派手な物が多く、比較的して落ち着いた選択だろう。
***
「こんな廃バスっすけど、それなりに過ごしやすいんっすよ」
トモキは終末の日以降に、この場所を住処としていると語った。
廃バスの前には焚火がくべられ、料理や暖に使用するとの話。置かれる四脚の椅子に各々が座り、キャンプにでも来ている気分にさせた。
「不便とかはないのかよ?」
「不便っすか。まあ今となったら贅沢は言わないっすけど、特には風呂っすかね」
水道が使えないため入浴に、苦労しているとトモキは言う。
「近くに川があるんだけど、そこから水を汲んでドラム缶に入れるの。それで火を焚いてお湯を沸かして、それがお風呂。マジでヤバくね?」
トミぽよは生活の実態を語り、やはり万全とはいかない様子だ。
「車内に備蓄があったようには見えなかったのだけど、食料はどうなっているの?」
廃バス内を案内され確認していたようで、ハルノは気になっていたところを尋ねた。
現在の状況下では、食料の確保が重要な課題である。補給場所が確保できているのならば、少しでも分けてもらいたいところだ。
「それがあ〜、最近ヤバめなの」
「周辺のスーパーやコンビニはほとんど回りましたから。食料については今日も探していて、オレっちたちも苦労をしていたんっす」
トミぽよがため息を吐いて言えば、トモキは置かれる現状を説明した。
終末の日から時間が経過し、食料問題は生存者にとって深刻な課題となっている。初期の頃は店などで何とか補給できても、半年も経過すれば難易度は高くなってきているのだ。
「ああっ!! そう言えば!! スーパーやコンビニとは違いますけど、行きつけだった心当たりがあるっす!!」
唐突にトモキは声を上げて、説明したのは盲点となる場所。景品として食料や飲料があることは、訪れた経験から間違いないという。
「パチンコ店か。たしかにやらない人なら、行かないだろうし。穴場にはなるのか」
周辺を歩き回った二人が言うのならば、スーパーやコンビニは望み薄なのだろう。他よりも可能性があるのならば、訪れてみる価値はあるのかもしれない。
「おいっ!! トモキ!! あれだけギャンブルはやめろって言ったのに!! まだやってんのかっ!!」
「あはは、ほんの遊び!! 遊び!! それに今回はほら、行った経験が活きるって話!!」
トミぽよが厳しい口調で問い詰めると、トモキは笑いしながら言い訳をした。
二人も食料の確保には困っているらしく、パチンコ店への案内に積極的な姿勢。互いの利益が一致することから、四人で協力して向かうことになった。




