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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第四章 新たな旅立ち(下)

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第302話 函館36

 ―*―*―蓮夜視点 ―*―*―


「赤ん坊なら泣くこと。子どもなら多くを学び、身心を成長させること。大人になれば独り立ちし、自分の道を歩くこと。老いれば自身の経験を伝えて、後進の育成に尽力すること」


 聞かされた話から抜粋して、ハルノは役目につき復唱する。


「それが黒木さんの思う役目……。黒木さんには、そんな過去があったのか……」


 苛烈な少年期を生きてきたと知り、驚きの中でも話を聞き入ってしまった。

 黒木実という人間が今日まで、どんな道を歩んできたのか。人格形成の一端を覗いた感じで、置かれた環境に関わった人たち。特に恩師とされる柳岡なる人には、大きく影響を受けていたようだ。


「まあしかし、未だ全てに納得しているわけではない。特に後半。役職や立場は役目というよりも、負っているのは責任。責任を負う役目と言えば、まあそれまでの話だが」


 黒木さんはタバコを吹かしながら、淡々と己が解釈を語っていた。

 黒木さんが今回の件で果たしたのは、リーダーとして責任を負う役目。相手が故人であったとしても、それは揺るがず変わらなかったのだ。


「蓮夜。ハルノ。二人は何か大きなことを成すだろう。それが初めて会ったときの第一印象」


 かつては全面的に否定していたものを、今の黒木さんは肯定的に語っている。

 少年期には俄かに信じ難いと、切り捨てていたシックスセンス。しかし今までの経験がそうさせるのか、黒木さんは自らの言葉として口にしていた。


「自分の道って、何かしらね?」

「何だろうな。俺も歩けているのか、よくわからねぇよ」


 ふと呟くハルノと顔を見合わせ、当て嵌まる部分を考えてみる。

 大人になれば独り立ちし、自分の道を歩くこと。当時の黒木さんと比較をしても、確固たるものがあるかわからない。


「フフフ。何も慌てる必要はない。きっと時がくれば、自然と見つかるだろう」


 黒木さんは微笑みながら、タイミングと言っていた。

 不明だった意図が判明したことにより、残されていた疑問の解決をみる。東京へ向かうこと説明をして、黒木さんから受ける激励。これからは本格的に、先へ進む準備をしなくてはならない。



 ***



「にしてもみんな、あの二刀流選手が好きだよな」


 立待岬から車を走らせて、戻ってきた函館山展望台。

 函館におけるグローブの件にしても、苫小牧で出会った少女の話にしても。北海道でプレイをしていた経験もあってか、終末の日を経ても根強い人気を感じる。


「百年に一人くらいの選手ですもの。成績に加えて、性格やルックスに言動。どれを取っても一流なんだから、それは人気もするわよ」


 ハルノと語るは日本だけではなく、世界的なスーパースターの話。

 前人未到の記録を複数保持し、数々の企業の広告塔を務める。モデルのような体型に、受け答えも完璧。まさに超人と呼ぶにふさわしい選手で、圧倒的な人気の高さは今も変わらない。


「まあ、あれだけすごいと。親近感は湧かねぇけどな」

「でもそんな存在がいるからこそ、夢を見る人がいるのよ」


 天上人が如く離れた存在に思えては、ハルノはクスリと笑って応えていた。

 圧倒的な存在はときに憧れとなり、人を突き動かす原動力にもなる。終末の日を経ても大きな影響を、改めて感じさせられる一幕だった。


「ピッチャーとバッターだったら、どっちが上なんだろうな」

「よく言われていた話ね。でも実現不可能なんだから、それって議論をする価値あるの?」


 テレビやネット上で尽くされた話に、ハルノは少し呆れ気味であった。

 たしかにどんな議論をしたところで、決して叶わない対決。唯一できるとしたならば、ゲーム上での対戦くらいか。


「じゃあさ、どうやったら実際に実現できるか。そっちを論議しようぜ」

「普通には無理よ。空想的なら漫画で見た分身の術や複写とか、非合法なら違法なクローン技術でもを使用しないと」


 話を膨らませに想像を広げようと試みれば、ハルノから流れ出るのは不道徳なアイデア。


「仮に今からクローンを作ったとしても、成長速度が同じなら対決は無理じゃないか?」

「そうね。だから成長促進剤を使うとか? にしても非合法のオンパレードね」


 仮の話で一瞬だけ可能性を感じるも、やはり不道徳の色が強いとハルノは言う。

 同じ人間はこの世に、一人しか存在しない。最強の矛と盾を単身で持ったとしても、ぶつけることは叶わないのだ。


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