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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第四章 新たな旅立ち(下)

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第299話 黒木回想禄6

「黒木。久しぶりだな。オレのことを忘れたわけでもないよな?」


 赤いパーカーを着た先頭の男は、じっとこちらを睨みつけている。

 その目には明らかな敵意が宿り、どこか含みのある口ぶり。喧嘩に明け暮れていた過去を思えば、恨みを持たれていても不思議ではない。思い当たる節があるかと問われれば、星の数ほど挙げられるだろう。


「年下のお前にやられて、酷くプライドが傷つけられたぜ。やっとこの積年の恨みを、晴らせるときが来たって話だ」


 赤いパーカーの男は言いながら胸の前で拳を握り締め、背後では青と黄色のパーカーを着た二人が静かに構えている。

 どうやらこの不良たちは、公園で何度となく復讐の機会を待っていたらしい。だが最近は不定期に訪れる程度で、決まった道を通るわけでもない。今日このタイミングで遭遇したこと、奇しくも単なる偶然という話だろう。


「やれやれ。いつまでも変わらず、愚鈍なことを」


 今ではとっくの昔に、喧嘩からは足を洗っている。

 そもそも過去の喧嘩にしても、自ら申し込んだものは一つもない。吹っかけられた喧嘩を片っ端から受けて、返り討ちにしていただけだ。


「なんだとっ!! 貴様!! もう一度言ってみろっ!!」


 黄色いパーカーの男は踏み出し、高圧的な態度で拳を握り締める。


「おい、待て。ここじゃあ人目につき過ぎる。場所を変えるぞ。付いて来い」


 しかし青いパーカーの男がそれを制し、冷静に周囲を見渡した。

 二十時を過ぎた公園とはいえ、まだ完全に人通りが途絶えたわけではない。余計な目撃者を避けるためか、三人は示し合わせたように路地裏へと誘導していく。


「随分と更生したようだな、黒木」


 人相の悪い赤いパーカーの男は、嘲るように口の端を歪める。

 背後には高いフェンス、左右にはビルの壁が立ちはだかる狭い空間。ここなら誰にも邪魔されることなく、何が起きようとも外には伝わらない。すべて計画のうちといった顔で、男たちは不敵に立ち塞がった。


「喧嘩を受けていたのは、もう二年以上も昔の話。普通に生きていたならば、人は変わりますよ」


 未だ喧嘩に明け暮れていたならば、人として全く成長していないだろう。

 時の流れとともに、社会は変わっていく。今までなかった技術が生まれるように、人間とて肉体的にも精神的にも変化するもの。それでも過去に囚われる者がいること、全てを否定するつもりはない。


「オレは一度でも受けた屈辱は、どうしても晴らさないと気が済まない。ケジメはつけさせてもらうっ!!」


 赤いパーカーの男が懐から取り出したのは、切れ味が鋭そうな小型のナイフだった。

 刃物を持ち出したとなれば、ただの喧嘩では済まされない。人にナイフを向けること、戯れとは違うのだ。


「フフフッ。どんな小さな事も、一度した行動というのは取り返しがない。柳岡さんの言った通りでしたか」


 ふと脳裏に浮かんだ言葉を思い返し、自然と笑みがこぼれる。

 何気なく受け続けた喧嘩が尾を引き、今になって降りかかる復讐という火の粉。ある意味では因果応報の顛末であり、様子からしてただでは帰してくれそうにない。


「何を笑ってやがんだ!? 気持ち悪い奴だなっ!!」


 黄色いパーカーの男は、不可解な笑顔を前にして思わず一歩引いた。


「しかしまさか、このタイミングとは」

「やけにおとなしいな。諦めて観念したか?」


 身から出た錆と不運を嘆くよう呟けば、聞いて黄色いパーカーの男は勢いづく。


「観念した。と言ったら、許してくれますか?」

「んなわけねぇだろ!! お前にはこちとら、多くの苦汁を飲まされ続けているんだっ!!」


 ものは試しに問いかけてみるも、赤いパーカーの男は激昂。怒りは鎮まるどころか激しさを増し、やはりと言うか溜飲が下がる気配はない。


「フフフッ。冗談ですよ。こちらとて悪くもないのに、頭を下げる気は毛頭ないので」


 上着を脱いではゆっくりと腕を回し、臨戦態勢と喧嘩に備える。

 一方的にやられるつもりなど、最初から微塵もない。やられたらやり返すこと、自衛のためにも有効な手段。 もはや始まりのゴングは、いつ鳴らされてもおかしくない状況だった。


「待つんじゃあ!!」


 唐突に響き渡る怒声を前にして、一瞬その場の空気が凍りつく。

 割って入ったのは、小汚い服装の老人。両腕を大きく広げ喧嘩を止めようとするのは、ホームレスの柳岡さんだった。


「柳岡さん。どうしてここに?」

「黒木君!! 君は何をやっておるんじゃ!! 君はこんな所で、油を売っている場合ではないじゃろお!!」


 驚きつつ問いかければ、柳岡さんは今までになく大声を上げる。

 あとから知るところによれば、公園で見ていたホームレスから一報を受けたとの話。明日はいよいよ、プロ試験本戦の大一番。そんな大事な前日に喧嘩など、まさに言語道断と慌てて駆けつけたのだ。


「なんだっ!? この小汚いジジイはっ!? どこから現れたっ!?」


 予想外となる乱入者の登場に、赤いパーカーの男は戸惑いを隠せない。

 それは黄色いパーカーの男も、青いパーカーの男も同様だった。計画的にこの場へ呼び出したまでは順調でも、第三者が入り込んでくるとは思いもしなかったのだろう。


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