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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第四章 新たな旅立ち(下)

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第294話 黒木回想禄1

 ―*―*―黒木視点 ―*―*―


 バブル経済に沸き立つ昭和の日本。新しいビルが次々と建設され、街は煌びやかな光で彩られている。

 しかし光が強ければ強いほど、影もまた濃くなる。都内にある夜の公園の片隅には、そんな影の中で生きる者たちがいた。


「こいつが例の黒木かよ!! いつまでも調子に乗りやがって!!」


 先頭に立つ赤いパーカーの男は、吐き捨てるように言った。

 周囲をわずかに照らす街灯の下で、取り囲むように展開する不良たち。赤青黄のパーカーを着た三人は、勝ち誇ったよう軽薄な笑みを浮かべている。


「……」


 囲まれている者の名前は、黒木実と言い十四歳の少年。

 黒髪の短髪で目つきは悪くも、体格はすでに成人と遜色はない。昼間は自動車工場で働いているため、帰路の今は業務用の灰色作業着を着用している。


「なんだよ、その目は!! オレたちを舐めてんのか!!」


 ただ静かに動向を見つめていれば、黄色いパーカーの男は強い口調で前に出る。

 喧嘩を売られるのは、これが初めてではない。最初は偶然絡まれただけだったものの、返り討ちにしてからは次々と現れる挑戦者。喧嘩に明け暮れる日々は続き、四人以下なら手を出すなと噂されるほど。それでも逆に名を挙げたいと、絡んでくる者も多かった。


「フフフ。何も威勢よく吠えてばかりではなく、とっと向かってくればいいだけの話」


 小さく笑いながら挑発するよう言えば、不良たちは揃って表情を変える。

 しかしどれだけ厳しい視線を向けられても、恐れや焦りもなく興味すらない。もはや慣れ親しんだ光景は、コーヒータイムと差のないものだった。



 ***



「覚えてろよっ!!」


 不良たちは捨て台詞を残し、ふらふらと公園を去っていく。

 喧嘩に明け暮れる日々が続けば、鍛えられていく経験と腕っぷし。去り行く背を見送ることいつものことで、やはり何も感じることはなかった。


「くだらない。何をしても、同じような日々の繰り返し。てんで進歩のない愚鈍。これじゃあただ無意味に存在する、頭上にある星のようなもの」


 疲れた体を公園の芝生に投げ出し、煮え切らない思いにふける。

 昼間は自動車工場で仕事し、夜は喧嘩に明け暮れる日々。張り合いのない日常は、ストレスの根源。当て場のないフラストレーションを抱え、言うなら人生そのものに飽きていた。


「そうかな?」


 どこからか耳に届いてきた声に、発声源を探して周囲を見渡す。


「無意味に思える頭上の星も、光り輝けば誰かの心を打つかもしれんぞ」


 茂みの中から姿を現したのは、顎に白い髭を蓄えた老人だった。

 緑色のアウターに茶色のパンツ、灰色のニット帽を被っている。薄汚れた姿はどう見ても、ホームレスにしか見えない。


「酷くやられたな。相手は多勢だったろうに」


 老人は体を上から下まで眺めて、言葉を投げかけてくる。

 茂みの中と外野から、一部始終を見ていたのか。喧嘩にこそ勝ちはしたものの、無傷といかないときもある。今日も三対一と複数戦であり、それなりに相手の攻撃も受けていた。


「……」


 どんな意図で投げかけられているのか、相手に興味なければ無意味な言葉。去ろうと決めて立ち上がるも、ダメージから足元がふらついた。


「おっとと、無理はいかんぞ」


 老人はふらつく姿を前にして、どこか気遣うよう口調で言う。


「待っとれ。たいした物はないが、消毒くらいはしてやるから」


 突然の申し出に眉をひそめるも、ふらつく体では断る気も起きない。面倒だと思いつつも街灯下まで移動し、光に照らされるベンチに腰を下ろした。


「よくここで喧嘩をしとるじゃろ?」


 老人は消毒液を含ませた布を取り出し、腕の傷にそっと当てながら言う。


「血気が盛んなのは良いが、ほどほどにしないと痛い目をみるぞ。たった一度の些細な事柄でも、取り返しがつかぬものもあるからのう」

「フフフ。爺さん。初めて会った人間に説教。余計な口出しもいいところ、いらぬ世話ってもんだ」


 老人は治療を続ける中で言い、あまりの言葉に薄い笑みを浮かべてしまう。

 治療を受けているのは、単なる気まぐれ。唐突に始まった助言か説教か、どちらにせよ煩わしいもの。基本的に他人など、信用する価値に値しない。自分の体と腕のみで、生きていく力が必要。他者に寄り添うつもりなど、最初から毛頭ないからだ。



 ***



「うぉおらああっ!!」

「この野郎っ!!」


 しばらく時が経過した頃に、再び二人の不良に絡まれた。以前の相手よりも体格は良く、明らかに年上の者たちだろう。

 しかし一歩も引かなければ、拳と拳が交錯し血の匂いが夜風に乗る。結果としては勝利を収めるも、今回も代償はなかなかに大きい。またしても公園の芝生に倒れ込み、夜空を見上げる羽目となった。


「ほれ。言ったことはない。ワシの言う通りじゃったろ?」

「また爺さんか。こんな時間に。いつまでも」


 夜空を遮るように老人の髭面が現れ、またも一部始終を目撃されているようだ。


「ここらはワシらの住処じゃからな」


 ニヤリと笑う老人は再び治療をすると言い出し、ホームレスの集会所へ案内されることになった。

 雑木林を抜けた先にあったのは、連なるようにダンボールハウス。奥へ向かえば中央に円形の空間あり、焚き火を囲むように数人のホームレスが座っている。


「お主あれじゃろ。不良。学校へも行かず、悪い事をしとる口じゃろ?」


 瓶ケースにクッションを置いて腰掛け、傷口の消毒しながら老人は質問をしてくる。

 治療をすると案内をして、世間話でもしたいのか。だからと言って特に、合わせるつもりはない。


「……」

「ガハハッ!! 結構!! 結構!! そのふてぶてしい顔つき、気に入ったわい!!」


 無言のまま睨みつけていれば、老人は腹を抱えて笑い出す。

 お節介なこの老人、名を柳岡(やなおか)と言うらしい。ホームレス歴が長く顔も利くため、仲間たちの中でも一目置かれる存在のようだ。


「柳さん、その子は誰だい?」


 焚き火を囲んでいたホームレスの中から、一人の中年男が興味本位に声をかけてくる。

 ホームレスの集会所からして、唐突に現れた部外者は異物。仲間意識が高い様子であるから、警戒をされるのも無理はない。


「ガハハッ!! まあ、それは良いじゃろ!! それより、今日も打つか?」


 柳岡は答えをはぐらかしながら、碁盤と碁石の入った碁笥を持ち出した。汚れのある盤と擦り減った石は、長年の使用感を物語っている。

 柳岡は囲碁を得意としているようで、ホームレスの反応からも察せれる。二人が交互に碁石を置いていけば、盤上に黒と白の石が次々と並べられていく。しかし側から見てもルールを知らなければ、何が起きているか理解のしようもなかった。


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