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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第四章 新たな旅立ち(下)

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第291話 函館33

「黒木さんに会って話がしたい?」


 会議室を訪ねれば話し合いが行われており、終了と同時に仲村マリナへ説明する。話し合いに参加していた五名は退出し、簡潔に復唱されて理解は容易だろう。


「やっぱり、どんな意図があって黒木さんは沈黙していたのか。本人に会って直接聞いてみたいんです」


 もはや事細かな説明は、何もいらないだろう。黒木さんの居場所さえ教えてもらえれば、あとは自分たちで話をしに行くつもりだ。


「そういうことか。黒木さんならきっと、立待岬(たちまちみさき)にいるはずだ。姿の見えないときは、大抵そこにいる」


 仲村マリナは快く応じて、居るだろう場所を教えてくれた。立待岬は函館山より南に位置し、火災の影響を受けていない地域との話。近くにはかの有名な石川(いしかわ)啄木(たくぼく)の墓があり、仲間たちの弔いにも使われる場所らしい。


「黒木さんに会いに行くなら、私も一緒に行こう。函館山のこれからについて、黒木さんと話をしたいと思っていたところなんだ」


 タイミング的な重なりもあったようで、仲村マリナも同行者となることに。


「外から話は聞かせてもらった。黒木さんに会いに行くならば、ぜひとも同行させてもらえないか」


 扉を開けると廊下には、魚村海斗が立っていた。

 村井マサオとミサキを合わせた三人で、事情説明と謝罪に回っていた魚村海斗。展望台にいない者を除けば、一区切りついたとの話。仲村マリナに報告を兼ねて、会議室を訪れたと言う。


「拓海の件を含めて黒木さんには、どうしても聞きたいことがある。黒木さんとはもう一度、話さなければならないんだ」


 魚村海斗の目には迷いがなく、強い決意が宿っている。

 魚村拓海の件につき沈黙していた理由を、最も聞きたいのは兄の魚村海斗だろう。あとは窓口となる仲村マリナが、どう判断するかのみだ。


「真実を話した段階で、こうなるのは想定していた。いいだろう。魚村海斗も含めて、全員で黒木さんに会いに行こう」


 仲村マリナは微笑みながら了承し、立待岬を目指す一行が結成された。



 ***



「そう言えば一ノ瀬君と朝日奈さんは、東京を目指していたんじゃないのか?」


 運転席でハンドルを握る魚村海斗は、助手席に顔を向け問うてきた。

 立待岬へ向かうに車を使用し、助手席にて着席中。後部座席にはハルノと、仲村マリナが座っている。


「そうですけど……。函館に来てから、いろいろありすぎて。それどころじゃなかったですよ」


 函館に到着してからというもの、次々と問題が起きていた。

 屍怪との遭遇に始まり、泣き女の出現でハルノと離れ離れ。テラォード・ブッチャーとの対峙に、そして函館の街を包んだ大火災。一つ一つが命がけの出来事で、東京行きの計画を具体的に考える余裕はなかった。


「でも、そろそろ考えないとダメね。青函トンネルを使うのか、船で海を渡るのか。具体的に決めるときよ」


 後部座席で窓の外を眺めていたハルノは、話を聞いて真剣な口調で切り出す。旅の次なる課題を見据え、翠色の瞳には確固たる意志が宿っていた。


「青函トンネルは五十キロ以上の長さで、電気は通っておらず明かりもないだろう。トンネル内がどうなっているか、今は誰にもわからない」


 仲村マリナが淡々とした口調で、一つ選択肢の補足説明をする。

 終末の日から青函トンネルを通った者など、一人としていなくとも不思議はない。真っ暗なトンネル内に屍怪がいれば、はたまた途中で浸水など起きていれば。自然災害や構造的な崩壊も含め、考慮しなければならない事情は多い。


「一ノ瀬君と朝日奈さんには、本当によく世話になった。それこそ感謝をしても、言葉では表しきれないくらいだ。だからもし良ければ、船で青森まで送らせてくれないか」


 運転席でハンドルを握る魚村海斗は、真剣な口調で提案してきた。

 突然の申し出に、驚き目が丸くなる。東京を目指す身としては、これ以上にない助け船。本来ならばこちらから、お願いして相違ない立場。進んで送ってくれるなど、思ってもみなかったことだ。


「いいんですかっ!? 本当に……これで青森まで行けるぜっ!! やったな、ハルノっ!!」


 突如として降ってきた幸運に、声を弾ませられずいられなかった。

 函館までの道中は陸路でどうにかなったものの、津軽海峡を渡るのはまるでレベルの違う別問題。行き当たりばったりでは、とても進めなかっただろう。


「ええっ!! 海を渡ることこそ一番の難関だと思っていたからっ!! 本当に助かるわっ!!」


 後部座席のハルノも驚きと感激に、喜びを隠さず声を弾ませていた。

 船舶免許を所持する、漁師の魚村海斗。大火災後でも無事な船は数隻あるらしく、整備は必要でも動かすに問題ないとの話だ。


「ただ……これから黒木さんに話を聞くのと、今後の方針を決めるまで少し待ってほしい。長くても一日か二日。それで構わないだろうか?」


 魚村海斗の声には函館の街と、人々への責任感が滲んでいた。

 大火災によって街の八割が焼失し、拠点に壊滅的な被害を受けた五稜郭組。そんな状況下でも魚村海斗はリーダーとして、人々を導かなければならない立場にある。それでも旅路を支援するとの姿勢に、何よりよりも感謝の念が募った。


「もちろんですっ!! 俺たちもできる範囲で協力しますしっ!! な、ハルノ!!」


 函館がどれほどの被害を受けたか、自らの目で直視をして知るところ。

 例えば復興であろうと、荷造りであろうと。限られた時間の中でも、力を貸すのは当然のことだ。


「ええ。私たちがどう頑張ったって、二日で海を渡れるはずないもの。準備にだって時間が必要だし、正直なところ二日は理想的な期間だわ」


 同調するハルノはすでに時間の配分を考え、武器のメンテナンスや休息。与えられた僅かな時を、有意義に過ごす算段をしていた。

 待機期間は決して、無駄にはならない。むしろ次の行動に向けて、万全の準備を整える絶好の機会だ。


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