表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末の黙示録  作者: 無神 創太
第四章 新たな旅立ち(下)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

293/361

第290話 函館32

「黒木さんは本当に、犯人を知らなかったのかしら?」


 ハルノは違和感を覚えたようで、眉をひそめ沈むような口調で疑問を呈した。


「……どういうことだよ?」 


 その思考へ至る根拠につき、具体的な意見の開示を求める。


「ヤマトの祖母を探しに千歳へ行くっていうのは、黒木さんが一線を退くための理由だとしてもよ。どうしてミサキが同行者だったのかしら? 屍怪がいる世界で長距離の旅なんて、危険が付きものに決まっているじゃない。ミサキは戦いが得意ってわけでもないし、戦力として数えるのは難しいはずよ」


 ハルノが説明した疑問点には、聞けばたしかに納得できる。

 あえて戦力の劣るミサキを、同行者に選ぶ理由は不明瞭。黒木さんの考えを想像しても、どこか腑に落ちない。


「ミサキが食料盗難の犯人と通じているのは、実のところほとんどわかっていたんだ」


 不意に口を開いた仲村マリナは、冷静な声で言葉を紡ぎながら告げる。


「倉庫へ近づける立場にいる者、鍵の番号を知っていた者。そしてアリバイや動機。函館山にいる人たちも馬鹿ではないから、続ければ捕まるのは時間の問題と言えただろう」


 仲村マリナの話が本当ならば、犯人を捕まえることもできたはず。

 であるのに泳がせることをして、結局は逃がすような真似まで。果たしてそこに、どんな意図があったのか。


「動機について判断はできなかったが。それでも犯人として捕まれば、どんな目に遭っていたかわからない。当時は対立が激しくなる中で、過激な思考を持つ者もいた。それこそ酷い尋問や、粗末な扱いを受けていた可能性もある」


 リーダー代行の仲村マリナでも、制御できなかったかもしれないと言う。

 食料盗難は命に関わるもので、絶対に許されるものではない。それに何より身内にスパイがいるなど、人々を疑心暗鬼にして信頼関係に亀裂を生じさせる。犯人を捕まえて罰すること、当時は何よりの優先課題となっていたのだ。


「そんなとき黒木さんは千歳に、ミサキを連れて行くと指名をした。それは彼女を守るためでもあり、これ以上の犯行を防ぐためでもあった。黒木さんたちが旅立ってから食料盗難はなくなり、過激な思考は徐々に落ち着いていったんだ」


 仲村マリナは同行者として、選んだ理由を語る。

 自分に疑いがかかることより、結果としてミサキを守った形。陥れようとする犯人を守るなど、なかなかできることではない。これだけでも黒木さんという男の、人となりが見えるというもの。


「そういうことだったのか……」


 説明を受けて犯人を捕まえなかったこと、同行者に指名した理由を納得する。それは疑問を持ったハルノも、同様に理解を示せるものだった。


「食料盗難がなくなってからは、一段と仲間意識の向上へ動く。函館山では揃って緑のターバンが採用され、対抗するように五稜郭では白いターバンが採用されたんだ」


 仲村マリナは二人が去ってからの、二組の変遷を静かに語る。

 黒木さんの行動の裏に、隠された数々の意図。それが徐々に明らかとなり、ようやく全貌が見えつつあった。



 ***



「やっぱり黒木さんに会って、直に話を聞きたいよな」


 展望台屋上での話も一段落して、景色を眺めながら物思いに呟く。


「そうね。わかってきたことも多いけど、まだ見えていない部分もあるわ」


 二人きりとなり隣に立つハルノも、どこか物思いにふけるような表情をしている。少しずつ全容は見えつつあるもまだ、霧が晴れないような疑問が残っていた。


「魚村拓海の件を、なぜ黒木さんは黙っていたんだろうな。もしみんなに話しをしていたら、今みたいな分裂や対立は起きなかったはずだ」


 事件の詳細を語っていたならば、まだ疑問は重しのように残っている。口を閉ざした理由がわからなければ、黒木さんの真意を測ることは難しい。


「たしかにそうね。黒木さんが何を考えていたのか、私たちだけじゃ推測の域を出ないわ」


 ハルノは意見に同意をしながら、思案するよう視線を空に巡らせた。


「函館山展望台に来てから、一度も黒木さんを見ていない気がするのだけど。黒木さん、どこにいるのかしら?」


 本人に聞くべきと思ったようで、ハルノは居場所を問うてくる。

 しかし展望台に来てからというもの、黒木さんの姿を目にしたことは一度もない。まるで煙に巻かれたかのようで、正直なところ全く見当がつかない。


「黒木さんのことなら、あの人に聞くしかないな」


 師匠と弟子の関係であり、函館山組のリーダー代行。仲村マリナならば知っていると思い、ハルノと二人で再び訪ねることに決めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ