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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第四章 新たな旅立ち(下)

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第288話 函館30

「残念ですけど。黒木さん。魚村拓海は、やはり……」


 最後の言葉は濁しつつも、誰しも思っていること。

 囮となった魚村拓海は、もう戻ってこない。屍怪の群れに飲まれたのだと、全員がそう思い始めていた。


「あっ!! あそこに誰かいるぞっ!!」


 登山道の坂道を先んじて登り、高い位置から見ていた者が叫んだ。


「魚村拓海!! 無事かっ!?」


 少年の姿が前方に確認できると、真っ先に駆け寄り合流を目指す。


「ごめんなさい……屍怪に……噛まれてしまいました」


 魚村拓海は立ってはいるものの、体を揺らしながら今にも倒れそうな状態。合流するまではと耐えていたのか、村井マサオの手を掴み崩れてしまった。

 左脇腹付近は濡れており、血が付着している。返り血など外から付いたものではなく、内から滲み出ているようだった。


「……うっ、拓海……」


 支える村井マサオの目には、大粒の涙が溜まり流れている。

 屍怪に噛まれた者の末路それは、この終末の日々を生きて誰もが知る事実。魚村拓海はもう、助からないと理解していたからだ。


「……マサオ。リュックの中身を……兄ちゃんに渡してほしい。それと……ごめんなさい。ありがとうって……僕から最期のお願いだ」


 魚村拓海は弱々しい声でそう言うと、村井マサオの手をぎゅっと握っていた。目の前の少年は死を受け入れているのか、弱々しくも穏やかな表情をして見える。


「誰かっ!! 海斗君のいる函館山までっ!! 拓海を運ぶのを手伝ってっ!!」


 村井マサオは兄に合わせたいとの一心から、切迫した表情で叫び全員に訴えていた。

 屍怪に噛まれたとしても、すぐに屍怪化するわけではない。魚村拓海にはまだ、時間的な猶予があると信じたからだ。


「いや、しかし……これは……」


 衣服を捲り怪我の程度を確認してみれば、思いの外にも状態は悪く落胆する。


「……出血が酷い。長くは保たないだろう」


 左脇腹の肉は抉られて、想像していたより傷は深い。

 止めどなく溢れる血液を見て、どこでこれほどの傷を負ったのか。登山道前にたどり着けたこと、それが奇跡としか思えないほどだった。


「なんとか治療をして!! 大人なんだから、それくらいできるだろっ!?」


 村井マサオは甲高い声で、涙ながらに訴えていた。

 無理難題を押し付けるのも、絶望を振り払いたい一心。体を震わせながらも必死に、抵抗しているのがわかった。


「この場でできることと言えば、包帯を巻いて止血をするくらいだ……」


 せめてもの願いに応えてあげたいところも、医者がいなければ治療道具もない。


「だが、見ての通り魚村拓海の傷は……我々では手の施しようがない」


 たとえ背負って登山道を登ったとしても、展望台まで保つ可能性は限りなく低い。その現実だけは目を背けず、受け入れなければならないだろう。


「うっ……拓海……」

「……」


 村井マサオが見つめる中で、魚村拓海の瞳から光が消えていく。

 意識レベルが落ちているか、呼びかけにも反応しない。血の気が引いたかのよう顔色は悪く、呼吸も浅くなっている様子。全員が見守る中で目を閉じると、二度と目蓋を開けることはなかった。



 ***



「……拓海が死んだ?」


 函館山展望台へ戻り魚村海斗は、報告を受けて声を震わせていた。展望台から見える函館の街並みを背に、その表情は驚きと困惑に満ちている。


「どういうことだっ!? 黒木さん!!」


 受け入れ難い現実を前に魚村海斗は、声を荒げて詳細な説明を求めている。その瞳は怒りと悲しみで揺れ、全てを理解しようともがいているようだ。


「全ての結果は、指揮する者の責任」


 黒木さんの言葉は自身を責めるものであり、同時に追及を受け止める意思の表れ。非難の矛先を向けられてもと、覚悟にも似た雰囲気があった。


「責任だって? そんなことを聞いているんじゃない!! どうして拓海が死ななきゃならなかったんだ!?」


 魚村海斗の叫びは展望台から、空の彼方まで響き渡る。

 しかし黒木さんは詳細を語らず、黙って責めを受ける姿勢。魚村拓海がスポーツ用品店に入り、屍怪に見つかったことが発端。立体駐車場での囮役は、独断で起こした行動。全てを知っているはずも、一切を何も語りはしなかった。


「黒木さん!! 本当のことを話すべきです!!」


 展望台の内外は本件の話で持ちきりに、説明ないから憶測まで飛び交い始めている。


「なぜ魚村拓海に囮役をやらせたのかと、無責任だという声が上がっています!! このままでは黒木さんが――」


 多くの人は自発的な行動だと知らず、任命あっての話だと思い込んでいた。

 詳細を説明すれば風向きは変わるはずも、まるで動かず沈黙を貫く黒木さん。事態が複雑になっていく間も傍観し、何を考えているかわからなかった。


「マリナ、今回のことは内々に留めるように」


 言葉を発したかと思えば逆に、黒木さんから口止めをされてしまう。

 そこから黒木さんはリーダーとして、不適格な人物とされ糾弾。自ら進んでリーダーの地位を退くも、黒木さんの支持者と反発者で衝突。折り合いはつかず出ていった者で、五稜郭へ住む五稜郭組が結成されたのだ。


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