表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末の黙示録  作者: 無神 創太
第四章 新たな旅立ち(下)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

290/362

第287話 函館29

「マリナ。現場の指揮を任せる」


 黒木さんは短くそう言い放つと、意図を明かすことなく場を離れた。

 その背中を見送りながらも、何も追及はしなかった。これまでの付き合いから、無計画に動く人物でない。黒木さんならどんな窮地でも、策を見出してくれると信じたからだ。


「全て僕の責任だ。だから……僕がなんとかしないと」


 深刻そうな魚村拓海の表情は硬く、静かにして確固たる声で呟いた。何かを起こしそうな気配を醸し出し、嫌な予感を胸に歩く背を見失わぬよう続く。


「僕が屍怪を引きつけますっ!! 登山道で合流しましょう!!」


 車の出口となる場所で足を止めて、唐突に宣言をする魚村拓海。話を聞いて感化されたのか、囮役になるつもりのようだ。


「どうして拓海がっ!! 大人に任せればいいじゃないかっ!?」


 出口を監視していた村井マサオは、困惑した様子で声を荒げている。


「僕がやらないといけないんだ。マサオ、僕のリュックを頼んだよ」


 それでも魚村拓海は揺るがず、荷物を預け意志は固かった。


「待て!! 勝手に決めるな!!」


 独断での行動を制止しようと試みるも、伸ばした手は空振りに失敗。出口から一階へと向かい、魚村拓海は駆け出してしまった。


「大丈夫!! 僕は走ることに自信があるんです!!」


 魚村拓海は一度だけ振り返って見せ、力強く言い放つと再び走り出してしまう。

 スピードと体力に自信があると言うも、果たしてどれほどの裏付けがあるのか。駐車場内に響く足音が徐々に遠ざかる中、誰も彼を止めることができなかった。


「僕はこっちだ!! みんな、ついてこい!!」


 屍怪を引きつけるために、魚村拓海の挑発的な声が響く。囮役をきちんと成すため、注意を引くに余念はなかった。


「あっ!! 誰か出てきたぞ!!」


 二階から外を見張っていた者は、駆ける少年を捉えたようで叫んだ。

 駆けつければ魚村拓海の姿があり、正面道路を全力で逃げている。後ろには数えきれないほど、屍怪が追いすがっていた。



 ***



「……誰だ? あれは?」

「今回から参加した魚村拓海。海斗さんの弟。なんて勇敢な奴だ」


 魚村拓海の姿を視認した人々は、次々とその正体を口にする。

 自らを犠牲にしてでも、仲間を救おうとする姿勢。誰もが感心せざるを得ず、自然と敬意の眼差しが向けられていた。


「駐車場の一階!! 屍怪がいなくなったぞ!!」


 出口付近を見張っていた男性は、急ぎ戻ってきて報告をする。


「周りの屍怪も減っているわ!!」

「この場から逃げるには、絶好のチャンスだ!!」


 駐車場の外を確認へ動いた女性は言い、男性は千載一遇の機会と訴える。

 魚村拓海が身を挺して、作り上げたこの機会。誰もが不本意さを感じながらも、この状況を活かさない手はないだろう。


「行くぞ!! 静かにかつ、迅速に動くんだ!!」


 囮を無駄にせぬよう指揮を執り、全員に逃走の指示を出す。

 一同は荷物をまとめ、慎重に足音を殺しながら駐車場の出口へ。屍怪の注意が魚村拓海に向いている今こそ、逃れるに唯一の機会だった。


「拓海……無事でいてくれよ……」


 小さく呟く村井マサオの声は、静まり返った駐車場に微かに響いた。


「しかし……魚村拓海。勝手な行動を……」


 独断にて先行する形となり、不満が胸中で渦を巻く。

 自ら犯した不始末を、自ら尻拭いをしたいのか。それでも周りの助言を無視する行動は、人々を振り回すものでしかない。


「こうなっては仕方がない。登山道へ向かおう」


 黒木さんは淡々と短くそう言い放つも、冷静さの中に諦めが混じっているようだった。


「……盤上にて意志を持たぬ碁石と違い、人間の感情を読むのは難しい」


 歩きながら黒木さんがぼそりと呟く言葉は、内心の苛立ちを滲ませているよう思えた。いくら頭脳明晰で策略に長けても、感情という不合理な要素には手を焼くようだ。想定外の行動が続けば、どんな名将でも対応には限界がある。

 魚村拓海の無謀な行動に対する苛立ちと、それでも彼を見捨てられない思い。黒木さんの表情は崩れずとも、言葉の端々で微かに浮かんで見えた。


「もうすぐ登山道だ。どうだっ!! 魚村拓海はいるかっ!!」


 市街地を抜けて登山道の入り口を目前に、囮役を受けた者の姿を探すよう言う。

 しかしどれだけ目を凝らしても、魚村拓海の姿は発見できず。焦燥感に全員が包まれる中で、待ち続けて一時間ほど。焦りは自然と別の感情に、諦めの雰囲気へ移行しつつあった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ