第284話 函館26
―*―*―仲村マリナ視点 ―*―*―
「今日が初めての補給参加!! みなさんよろしくお願いします!!」
元気よく挨拶をして深々と頭を下げるのは、高校生二年生の男子生徒である魚村拓海。
上下きちんと整えられた黒の学生服を着こなし、短めの黒髪に清潔感のある瞳が印象的。身長は百六十五センチほどで、どこか幼さが残る顔立ち。素直さと可愛らしさに初々しさあり、人々は笑顔を浮かべてしまうくらいだ。
「……拓海。あまり良い子ぶりすぎると、外では持たないぞ」
隣に立つ村井マサオも高校二年生の男子生徒で、こちらも今回が初めての補給参加となる。表情を崩さず静かに呟き、その声はどこか冷めた感じ。二人は幼馴染の同級生との聞くも、陰と陽のよう対照的な雰囲気だ。
白いワイシャツに灰色パンツの制服を着用し、肩下まで伸びたロングヘアで前髪は左に流れる。鋭い目元に尖った顎が相まって、全体的に不安定な印象を与える。百八十センチ近い高長身であるも、手足は長く細く痩せすぎた体型。顔色もどこか青白く見えて、不健康さをさらに際立たせていた。
「あの、えーっと……二人とも、気をつけてね」
おずおずと気恥ずかしそうに声をかけるのは、こちらも幼馴染で高校二年生の女子生徒であるミサキ。
肩下まで伸びた黒髪を両サイドで三つ編みにまとめ、ピンクのカーディガンに茶色のスカートという柔らかな服装。赤縁の眼鏡をかけて、背中を丸く猫背気味の姿勢。手をモジモジと恥ずかしそうにする仕草は、彼女の内向的な性格を物語っているようだ。
「函館山展望台の敷地を出れば、今や屍怪が徘徊する終末の世界だ。勝手な行動は決してせず、何かあれば指示を仰ぐようにしてくれ」
副リーダーとしての立場もあって、注意喚起を怠るわけにいかない。
終末の日から世界に屍怪が現れ、既存の世界は失われてしまった。初の補給参加という試みもあって、警戒心が高すぎるとう話はないだろう。
「函館山を天然の要塞とするために、バリケード作りに手が離せない。二人とも言うこと聞いて、無事に帰ってくるんだぞ」
バリケード建設に現場の指揮をするのは、三十二歳の漁師である魚村海斗。
全身を小麦色に日焼けした姿で、右目下には泣き黒子が目立つ。身長は目測百七十五センチほどで、肩幅を広く筋肉質で逞しい体格。茶色の半袖シャツ中央にはサンマと、虹のイラストがプリントされている。穴の空いたダメージジーンズを穿いており、人望を厚くもう一人の副リーダー的な存在だ。
「大丈夫だよ。本当に心配性だなぁ」
第三者からも見ても不安そうな兄の姿を前に、弟の魚村拓海は笑顔を見せ応えていた。
浮かない顔をして足踏みをし、落ち着かない様子の魚村海斗。終末の日を経て初めて安全エリア外は、弟ということもあり心配は尽きないようだ。
「黒木さん、補給部隊の出発準備が整いました」
しかしみんなの準備が整えば、敷地外へ向けて出発のとき。今回の補給に関して目的地は、函館でも有名は赤レンガ倉庫。
補給部隊の大半は地元の青年会で、男女を問わず志願した若者が十五人。食料や医薬品に燃料など、必要な物資をできる限り確保するため編成された。
「フフフ。では、行こうか」
函館山展望台のリーダーとして、指揮をするのは黒木実。数多いる囲碁プロ棋士の中でも、一つ頂点とする名人の座につく。
五十八歳と白髪に年相応の肌質ながら、良い感じに歳を重ねた顔立ち。深く暗めな紫色を基調に、白い縦縞の入るスーツ。異質な冷たいオーラを纏った感じで、周囲の温度を一度は落としそうな存在感がある。
「黒木さん。弟を、マサオをお願いします」
魚村海斗は補給を指揮するリーダーに、知った二人を託すと頭を下げていた。
やはり黒木さん以上に、リーダーの適任者はいない。
今まで犠牲者なしという実績に、人格を含め胸中にて思う。卓越した判断力と冷静さに加えて、多くの人々から集められた信頼。
しかし黒木さんは当時リーダーを敬遠し、それでも頭の切れで並ぶ者はいないだろう。圧倒的な多数の意見を元に、揃ってお願いする次第となったのだ。




