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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第四章 新たな旅立ち(下)

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第283話 函館25

「おおっ!! 凄いっ!! 綺麗だのっ!!」


 ロープウェイに乗り展望台へ向かう中で、まこたんは窓に張り付き目を輝かせていた。 

 十月ともなれば日の入り時間も早くなり、十六時を過ぎれば薄暗くなり始めた空。広がるのは美しい夜景ではなく、横一線に広がる炎の帯だった。


「子どもだから、良し悪しとか。不謹慎とかの話はしないけど。……皮肉なものだよな」


 人々が作り上げた街が燃え盛り、恐ろしいほどの赤い光が函館を覆っている。無邪気な感性が光景を綺麗と表現したことで、各々の心に複雑な感情が沸き起こっていた。


「そうね。恐ろしいけど、美しい。許容できることではないんでしょうけど。完全否定できない光景ね」


 崩れゆく歴史に喪失感を覚えながら、ハルノも恐怖心の他に違う感情を持っていた。

 窓越しに炎の帯を見つめながら、この一瞬の美しさを心に刻む。成す術なく焼かれていく街を、ただ見つめる以外にできることはなかった。



 ***



 翌日の明朝に奈緒さんは、元気な男の子を出産した。

 医務室の窓から差し込む朝の陽光は、柔らかく暖かい陽だまりを作り出している。ベッドに腰を起こした奈緒さんの腕には、生まれたばかりの新生児が抱かれている。まだ頼りない小さな手は母親の手を握り、弱くも確かな命の輝きが宿っていた。


「可愛いねぇ……」


 医務室を訪れたヤマトの祖母は、穏やかな笑顔を浮かべて呟く。


「うおおおおっ!! 握ってくるのっ!!」


 まこたんが手を差し出せば、反射的にギュッと掴まれる指。

 弱く儚くも思える小さい手にも、たしかに息づく生命の力。多くの命が失われたこの終末世界でも、人の営みは変わらず新たな命が生まれる。その事実だけで人々の心に、明るい灯がともるようだった。


「函館を燃やしていた炎。やっと鎮火したみたいだな」


 函館山展望台の屋上から街を眺めて、脳裏に残る映像と比べて感傷的になってしまう。函館の街を覆った炎は昼夜を問わず三日三晩を通して燃え、実にその八割以上が焼け落ちてしまった。

 黒木さんたちが打ち壊し、防火活動を行った区域。南側はかろうじて原型を留めているも、他は焦土と化し黒い大地が広がっている。


「あれだけの大火災。これから先の函館山は、どうなるのかしら?」


 ハルノは函館に住む人たちを、今後の事を気に心配していた。

 終末の日を過ぎ日常を失っても、街には多くの物資あり活用されていた。大火災のあとで残されたのは、街のほんの一部と焼け焦げた土地。今まで通りの生活は、とても困難になるはずだ。


「それでも人間はしぶとい。何がなくなろうとも、あるもので生き抜いていくもんさ」


 函館山展望台の屋上に現れた魚村海斗は、腹を括っている様子で街の景色を眺めていた。


「五稜郭は火災で焼け落ちて、住める場所はないですよね? これからどうするんですか?」


 五稜郭組が生活の拠点としていた五稜郭は、大火災により焼失してもうない。函館に残るか去るかを含め、生活を根本から見直さねばならないだろう。


「ならば以前までのように、この函館山展望台に戻ってくればよい。部屋の数に問題がないことは、以前に住んでいたから知っているだろう」


 次に函館山展望台の屋上を訪れたのは、函館山組リーダー代行をしていた仲村マリナ。

 現在の四人のみ集まり話をするのは、合同会議が開催されるより前。運が良いのか悪いのか、函館でブッチャーと再開したとき以来だ。


「……オレはどうしても、弟のことが納得できない。だからどうしても、黒木さんを許すことができない」


 魚村海斗は苦しそうに、声を絞り出し言った。その瞳には怒りや後悔か、そして深い悲しみが混ざり合って見える。


「黒木さんはあなたが思っているような、人を犠牲にして良いと考える人間ではない。そう言っていましたよね? 本当は、そのとき何があったんですか?」


 以前の発言に引っかかっていた部分あり、教えてもらうに良い機会だと質問した。魚村海斗の弟が犠牲になった背景には、何か理由があるはずだと思ったからだ。


「黒木さんに口止めをされていたが。もうこれ以上は我々の間で、分断は……望ましくないか」


 僅かな沈黙のあとで仲村マリナは、真実を話すという所作を見せ始める。

 拳を握りしめたまま、視線を逸さぬ魚村海斗。そして仲村マリナはついに、事件当時の真相を語り始めた。


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