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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第四章 新たな旅立ち(下)

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第281話 函館23

「凄かったぜ、ブッチャー。多くの人たちを相手に、たった一体で戦って……」


 目前で佇む巨体と向き合いながら、今までの経緯や戦いを回想して思う。

 新千歳空港に函館と場所を変えても、孤独に戦いを続けてきたブッチャー。その圧倒的な脅威性と存在感は、他を寄せつけず比類なきもの。相手が化物であってもその戦いぶりに、ある種の敬意を抱かざるを得ない。


「グルゥ……」


 歯を食いしばり抵抗するブッチャーは、まだ戦意を失っていない執念が滲んでいる。

 右腕も巻き込み全身を鎖で拘束され、身動きの取れぬブッチャー。今や脱出はほぼ不可能と言える状態も、向き合う姿勢から前へ進む意志は消えていない。


「力一杯で引け――――っ!!」


 緑のターバンをする者は掛け声を、息を合わせて引かれていく鎖。ピンと張った中でもブッチャーは抵抗し、さすがにそれでもついに片膝をついた。


「一刀理心流。(ホムラ)剛昌斬(ゴウショウザン)


 最終局面との判断をしては、深く息を吸い込み全身に力を。

 血液が酸素を運んで体中を駆け巡り、筋肉が肥大し鋼のように硬直していく感覚。赤く染まった黒夜刀を天高く、動きの一つ一つに最大限の力を込めた。


「グルゥ……」


 片膝をつくブッチャーは抵抗し、頭を突き出す形になっている。それは頭部を斬ってくださいと、献上しているかのよう姿勢だった。



 ***



「なぜっ? なぜ、頭を狙うんだっ!?」


 仲村マリナは振り下ろされた刃の先を見て、戸惑いと驚きの声を上げていた。

 黒夜刀を向けた場所は、頭部を覆う銀色に輝く堅牢な兜。強化加工品と幾度も銃弾を弾き、ブッチャーからして急所を守る最後の砦。


「フフフ。求めたのは、確実性か」


 黒木さんは胸中を読むように、言いたいことを代弁していた。


 海に沈めても、万が一。億が一でも戻ってくれば、再び悲劇は繰り返されちまうっ!! 

 だからここはなんとしても、急所の頭を潰す必要があるんだっ!!


「うおおおおおっ!!」


 たしかに頭部を守る銀の兜を避ければ、どこかしら確実にダメージを与えられるだろう。

 それでも確実性を求めるなら、やはり急所となる頭部。頭を破壊して動いていた屍怪など、例外なく今まで一度も存在していない。


「砕けろぉおおお!!」


 強化加工された銀の兜と、高熱を纏った黒夜刀の激突。全身全霊を惜しむことなく注ぎ、火花が散るよう熱い戦いが輝き続く。


「キ――ン!!」


 銀の兜が溶けて窪んだかと思えば、周囲に金属の悲鳴かと思う声が響く。

 両の腕にてサポートする力を緩めず、ついに裂けて敗れる銀の兜。ポスターで見た頭とはまた異なる、禿げた頭が隠されることなく露わになった。


「これで……本当に終わりだっ!!」


 一度は振り切った黒夜刀を再び天に高く、露わになった急所の頭部へ振り下ろす。

 両膝をついたブッチャーは顔を上げ、腫れた目蓋に向けられる瞳。削がれた鼻は平べったく、上がった歯茎は尋常ならざるもの。生前の姿はほとんど見る影も無くなり、終わりという慈悲を求めているようだった。


 アリ……ガ…………トウ。


 本当に聞こえたのか、もしくはただの幻聴か。ブッチャーの頭を両断したとき、たしかな声を頭の中で聴いた気がした。


「船が動き出したぞっ!! 巻き込まれないように、みんな気をつけろっ!!」


 白いターバンを巻いた男性は叫び、海に向かって引きずられていく鎖。時が静止したかの如く動かぬブッチャーを、巨体に巻きついた鎖が海へ導いていく。

 ジャラジャラと鎖は地面を擦り、やがては青き海から暗き海底へ。抗うことなく静かなブッチャーは、水中へ引き込まれ光の届かぬ世界へ消えていった。


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