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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第四章 新たな旅立ち(下)

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第278話 函館20

「ここで戦うのは得策ではない! 函館山へ向かわせないように、赤レンガ倉庫の方まで誘導するぞっ!!」


 迅速に指示を出す仲村マリナには、迷いなく覚悟は固まっているようだった。

 函館山展望台にブッチャーが向かえば、避難している家族や仲間が危険に晒される。函館山組と五稜郭組それぞれのメンバーは一致団結し、指示通り赤レンガ倉庫へ誘導することに決定した。


「ブッチャーが来る前に作戦の確認だ」


 誘導は別働隊に任せることになり、仲村マリナは赤レンガ倉庫へ歩く中で言う。

 もはや戦闘は避けられなくなり、ブッチャーへの対応は必須。会議こそ開催されたものの決められた事なく、今や仲村マリナの策のみしか案はない。


「船を係留するための鎖。それをブッチャーの体に巻きつけ、船で引いて海へ沈める」


 仲村マリナが考えていた策というのは、函館という立地を活かしたもの。

 赤レンガ倉庫のすぐ隣は海であり、今も多くの船が停泊している。船を停泊させるに陸地と繋げる鎖を、ブッチャー退治に利用するという作戦だ。


「本当に……あのブッチャーに鎖を巻けますかね?」


 緑のターバンを巻いた男性は声を小さく、全員が危惧していた不安を吐露する。

 海に沈めるというのは合理的に思えるも、問題は体に鎖を巻きつけるという行為。常に立ち止まっている相手でなければ、巨体な上に力は尋常ならざるもの。ブッチャーの抵抗を想定して、話はまとまりを欠いたのだ。


「スムーズにいかない場合は、全員で少しずつ弱らせるしかない。そして最終的には、鎖を巻きつけるんだ」


 仲村マリナが提案した作戦には、意外と大箱な部分があった。ブッチャーの抵抗には力業で制圧と、そこを突かれる形で議論が噴出していたのだ。


「仮定はともかく海に沈めるって言うのは、函館ならでは面白いと思ったんだよな。千歳とか内陸なら、できない策だと思うし」


 作戦を聞きつつ並走する中で、初めて思った感想を述べる。

 身長を高く銀の兜を被り、容易に頭を狙えぬブッチャー。海に沈めることさえできれば、急所に固執する必要性もない。


「……オマエ。……本気で言っているのか? その仮定こそ、……問題なんじゃないか」


 隣から消え入りそうな声で異論を唱えるは、身長百八十センチはあろう村井マサオ。白のワイシャツと灰色のパンツは、至って普通の制服と呼べるもの。

 肩下まで伸びるロングヘアは、前髪を左に流して跳ねる。面長な顔立ちに、鋭く尖った顎。向けられる瞳は暗く落ちているようで、陰湿さ不気味さを感じる。


「失敗したら、……どうなるか。ここにいるみんな、……屍怪に食われてお陀仏さ」


 村井マサオは鈍い光を目に宿らせ、策に関して否定的だった。


 見た目や言い方はともかく、言っていることには正論もあるんだよな。


 函館山展望台での事前会議でも同じ問題が指摘され、鎖を巻くことが最大の課題として挙げられていた。作戦を遂行する上で懸念点として、追求を受けるのは仕方がない話だ。


「でもここまで来たなら、もうやるしかない。代わりとなる策がない以上、この作戦に賭けるべきだ」


 五稜郭組リーダーの魚村海斗は、鶴の一声と決定打を放った。策に関して否定的な意見があるのは承知も、かと言って代替案がないのも事実。

 漁師である魚村海斗は船に乗り、操縦の担当に決まっている。海まで僅か五メートルほど赤レンガ倉庫隣に位置して、コンクリートタイルの敷き詰められた広場。決戦の舞台としてはうってつけで、全員が役割を確認しながら士気を高めていく。海風が潮の香りを運んで肌を刺すように、ブッチャーとの決戦は目前に迫っていた。



 ***



「ブッチャーが来たぞぉ!!」


 緑のターバンを被った誘導役が叫び、ついに広場へブッチャーが姿を現す。

 二メートルを有に超える巨体を揺らし、無造作に歩みを進める姿は圧巻。右には緑のターバンを巻いた十名が鎖を持ち、左には白いターバンを巻いた十名が控えている。ブッチャーの動きを封じるため、総出で取り囲み捕らえる作戦だ。


「今だっ!! かかれえっ!!」

「うおおお――――っ!!」


 仲村マリナは声を張り上げ、両陣営が一斉に動き出す。

 両メンバーはブッチャーの周囲を遠巻きに、グルグルと巻かれていく鎖。危惧していた不安は杞憂であったと、事は成されると思うところであった。


「うおっ!!」

「うわっ!!」


 緑のターバンを巻いた者は尻餅をつき、白いターバンを巻いた者は前のめりに転倒する。

 ブッチャーは鎖から逃れようと、腕を広げて力を入れた瞬間。体制は整っておらず結果として、完全に力負けとなるものだった。


「ほらっ!! 見ろっ!! 失敗じゃないかっ!!」


 村井マサオは眉を吊り上げ、忌々しげに声を上げる。

 ブッチャーの巨体を前にして、恐怖と混乱が広がっていく。策を聞いて危惧していた点は、不安が見事に的中。多くの人間を要したものの、動きを封じることはできなかった。


「……やはり、上手くいかないか」


 誰もが策の失敗を認めざるを得ない状況に、仲村マリナは小さく息を吐いた。

 周囲から非難の目が向けられても、仲村マリナは動じていない。敵を見据える眼差しはなお鋭く、次の状況を見据えていたからだ。


「弱らせてから、もう一度チャレンジだっ!!」


 仲村マリナは次なる号令を出して、猟銃部隊は展開を始める。


「みんなっ!! 離れろっ!!」


 緑のターバンをする者は叫び、片膝つく前列五人と後列五人という隊形。

 人々が射線上から離れたことを確認し、標的は広場に鎮座するブッチャー。相手が蜂の巣にならんが如く、熾烈かつ苛烈な発砲が開始された。


「いけるっ!! やれるぜっ!!」


 銃弾の嵐が飛び交う中で、期待感に胸が躍る。

 発砲が開始されてからブッチャーは、腕を顔の付近に上げて防御姿勢。動くことなく立ち止まり、避けられるはずのない銃弾。それは強固な腹筋であっても、脚であろうと風穴を開けていた。


「……でも、倒れないわよ」


 無数の銃弾を受けても崩れぬ姿に、ハルノは声を震わせ畏怖している。

 銃弾は体の至る所に命中しているも、急所には一度も当たっていない。その理由は頭部を守る銀の兜であり、強化加工品らしく突破をより困難にさせていた。


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