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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第四章 新たな旅立ち(下)

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第277話 函館19

「ハルノ、何をしてんだよ? なんでまだ撃たねぇんだ?」


 準備は全て整っているよう思え、矢を射ぬことに焦燥感を覚える。

 目の前には燃え盛る炎を背景に、前進を続ける屍怪たち。その中でひときわ異様な動きを見せる泣き女は、肩を上下させながら狂ったようなリズムを刻む。パレードを後方から指揮するよう、不気味な存在感を放っていた。


「うるさいわねっ!! 風の向きや相手の動き、全てを読まなきゃならないのよ!! 黙って見てなさい!!」


 しかしハルノには計り事あったようで、強気な口調に集中力を乱さぬよう口を閉じた。やはり弓の事に関しては、余計な口出しは野暮だったか。

 国道に視線を向ければ、函館山組と五稜郭組。人々が槍や猟銃を使用して、屍怪を相手に奮戦している。それでも倒して倒しても集まり、一向に数が減っているよう見えぬ屍たち。じわじわであるも確実に、前戦は押し下げられていることわかる。


「……頼むぜ」


 ただ信じて待つ他にできることなく、声を小さく呟き期待して待つ。

 泣き女を倒すには遠距離攻撃しか方法あらず、状況的にもハルノ以外に実行できる者はいない。窓際にて真剣な表情で弦を引き、コンパウンドボウを構えるハルノ。矢は何度も使い回されて劣化し、僅かな風でも直線的に飛ばないはずだ。約六十メートルの距離を確実に、一射で射抜く精密なコントロールが求められる。


 一射目で気づかれたら、二度目はないかもしれない。

 チャンスはきっと、この一度だけ。頼むぜ、ハルノ。


 胸中でエールを送りながら、邪魔をせぬよう時を待つ。

 静まり返った雑居ビルの空間に、ピリピリと集中する気配が漂う。視線は泣き女へと完全にロックされ、ほとんど正面の位置関係となったとき。


「ギャ!! ギャ!! ギ」


 手をブラブラと足を止めて、天へ叫ぼうとする泣き女。

 ハルノに視線を向ければ弦を引き、ついに放たれる高速の弓矢。風を裂き音をも裂いて全てを置き去りに、その軌道は正確無比に泣き女へ向かっていく。無音に近しいその狙撃は、サイレントアローと呼んで相違ない。


「ギアッ……」


 大きな鳴き声が発せられようする直前に、矢は泣き女のこめかみ付近に命中したか。

 受けた泣き女は衝撃に体を一回転させ、舞台上の俳優のように膝から倒れ込む。顔を地面にペタリと崩れ落ちたとき、こめかみ付近に刺さるは放たれた矢。ハルノの放った一撃は寸分も狂わず標的を捉え、見事にミッションを完了させたのだ。



 ***



「どう? 上手くやったで――」


 ハルノはコンパウンドボウを下ろし、達成感に満ちた顔で振り返る。


「ああっ!! すげーよっ!! 一射で命中させるなんて、マジでハルノは射撃の天才だなっ!!」


 しかし言葉を最後まで言い切る前に、歓喜に手を掴み称賛を浴びせた。

 勢いよく興奮の収まらぬ対応は、ハルノからして予想外だったか。思いの外にも塩らしく、呆気に取られ目を丸くしている。


「ここまでお膳立てしてもらったんだの。結果としては、……当然よ」


 わずかに頬を染めたハルノは、どこかやはり嬉しそうだった。


「当然じゃねぇよ!! ハルノだからできたんだっ!! っつーかどうやったら、あんなに上手く命中できるんだよっ!?」


 未だ興奮は冷めやらず、射撃のコツを尋ねる。

 外せない場面で事を成すとは、とても容易でない話。ハルノ自身は謙遜していても、尊敬できることに変わりはない。


「何より経験ね。知っているでしょ? 私は子どもの頃からやっているんだから」


 ハルノは自信を秘めた微笑みを浮かべて、積み重ねてきた努力の重みが宿っていた。

 ハルノが培った技術は、一朝一夕で得られるものではない。時間をかけ磨いてきた技術とともに、積み上げてきた実績が背景となっているのだ。


「それにね、見ていて気づいたのよ。泣き女が鳴き叫ぶとき、必ず足を止めてからだったわ。だから、あえて鳴き叫ぶ直前に狙いを定めたの」


 淡々と語るハルノは冷静に、分析をも怠ってはいなかった。


「実際に見たのは二、三度だろ。気づかなかったぜ。やっぱり射撃に関しては、ハルノの右に出る者はいないな」


 技術はもちろん分析力にも関心し、敬意を持ちつつ改めて思う。

 射撃の腕に関してはやはり、ハルノの実力は秀でている。ハルノ以上に頼れる存在は、いないとさえ思った。


「二人とも、無事に戻ったようだなっ!!」


 最前戦へ戻れば仲間たちと合流し、仲村マリナに安否を問われる。


「泣き女を倒すなんて、本当に凄いの一言だっ!! おかげでこっちの戦況も随分と楽になった!!」


 討伐したことは知れ渡っているようで、仲村マリナも一段と称賛をしていた。

 泣き女が鳴くことなければ、屍怪の集まりも鈍る。函館山組と五稜郭組の奮戦により、ほとんどの屍怪は撃退されつつあった。


「一旦、赤レンガ倉庫に戻ろう。これで少しは状況を整理できる」


 函館山展望台への避難もほぼ完了したと報告が入り、仲村マリナは戦況が一段落できるかもと思ったとき。


「大変だっ!! ブッチャーだっ!! テラォード・ブッチャーが現れたっ!!」


 緑のターバンを巻いた男性が叫び、燃え盛る街を背景に立つ巨大な影。

 それはかつて北欧の巨人と称され、プロレスラーだった大男。頭部には銀の丸い兜を被って、他の屍怪と異なり弱点なし。腕力や耐久力も一線を画す存在で、テラォード・ブッチャーに間違いなかった。


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