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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第四章 新たな旅立ち(下)

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第269話 函館11

 薄曇りの空が函館の街を静かに覆う中、緊迫した空気の中で歩みを進める。

 隣を歩くハルノの表情は険しく、仲村マリナは一歩下がった位置にて続く。函館山へ向かう中でも周囲に注意を払い、時おり足を止めかけては黙々と進んでいた。


「魚村さんが五稜郭へ戻る間に、俺たちは函館山に着かねぇと」


 体制を立て直して状況を伝えるため、明日に備える意味でも帰還こそ第一。


「とにかく今は、目的地を見失わずに進むだけよ」


 視線の先に函館山を捉えていれば、ハルノは向かうことに集中していた。


「いつまた、屍怪が現れるかわからないしな。屍怪の動きも以前とは、少し違ってきている気がするし」


 今までなら生きている者を狙い、ただ闇雲に追ってきていた屍の怪物たち。

 しかし最近ではテラォード・ブッチャーに、泣き女と異端と呼べる個体も。走る屍怪も何度か目撃され、少しずつ確実に状況は変わってきている。


「……ハルノ。今、何か聞こえなかったか?」


 空を見つめ低く垂れ込む雲を見上げる中で、風に乗って耳に音が響いてきた気がする。


「そう? 特に何も聞こえなかったと思うけど」


 ハルノは立ち止まり耳を澄ませるも、音はしないとの見解を示す。

 しかし違和感を持ったままでは再び、仲村マリナも揃って三人で聞き耳に集中。するとやはりどこからか、不気味な嗚咽が聞こえてくる。


「……」


 不気味な気配に緊迫感が増してくる中で、三十メートルほど離れた位置に姿を現した女性。ホラー映画風の長い黒髪に白服を纏い、存在を認識するに時間は必要なかった。


「ギャ!! ギャ!! ギャアア――――ッ!!」


 泣き女だと認識した頃には、すでに叫びは発せられていた。

 背筋の凍りつくよう叫びに、動けず立ち尽くす三人。狂気と悲しみを合わせた声は、人の心を貫くようであった。


「まずいぞっ!! 屍怪が集まってくるっ!!」


 仲村マリナが注意を促したときには、すでに前方で屍怪の集団が迫りつつあった。


「逃げましょう!! まともに戦える数じゃないわっ!!」

「左へ行こうっ!!」


 数の把握さえ困難なればハルノは声を上げ、もちろん異論などなく即時撤退へ移る。大きな通りから細い路地へと逸れ、背後を気にしつつもただ前へ。


「屍怪を山麗駅へ連れていくわけにはいかないっ!! どこかで屍怪を撒くか、登山道へ向かうかだっ!!」


 仲村マリナはこれからの行動につき、選択肢を挙げて意見を求めてくる。

 山麗駅とは函館山とロープウェイにて繋がる地上の拠点で、絶対に守らなければならない要所と聞くところ。登山道はバリケードで塞がれるも、生者ならば乗り越えられるとの話だ。


「登山道で函館山へ向かって、追ってくる屍怪は大丈夫なのっ!?」

「函館山は天然の要塞になっているらしいけど。って言っても、俺も聞いただけだからっ!! 実際はわからねぇよっ!!」


 ハルノから状況について問われるも、見ていなければ本当のところわからない。

 バリケードはどのような感じで、登山道がどう整備されているか。斜面の角度はどの程度あり、果たして屍怪は登れないのか。頼れるのは仲村マリナの他いなく、今は判断を委ねるしかない。


「……」


 サッカーシューズや野球グローブが残り、小規模な個人経営のスポーツ用品店。


「アガァァア!!」


 店内から追っ手たる屍怪の動向を探れば、大口を開けて手をブラブラと去っていく。


「……行ったか?」

「もう大丈夫そうね」


 脅威が去って乱れた鼓動は収まり、ハルノも息を吐き安堵している。

 現在は函館でも民家や商店と、比較的に建物の多い場所。姿を隠せる場が至る所にあれば、地形的な有利を活かさぬ手はない。


「にしてもあの、泣き女って屍怪。どうして近寄ってこずに、大きな声で叫ぶんだよ」


 今まで出会った屍の怪物たちは、生者を獲物とばかりに追ってきた。

 しかしこの泣き女と呼ばれる屍怪は、行動の全てがイレギュラー的な存在。今までの経験は活かせず、臨機応変に対応しなくてはならない。


「泣き女が叫ぶのは、屍怪を呼びせるためだ。仲間の屍怪が獲物を捕らえたあとに、食事にありつく姿が目撃されている」


 いわゆる普通とは異なると、仲村マリナは説明していた。


「泣き女を狙おうとしても逃げしまい、見つかれば他の屍怪を呼ばれる。倒すことができなければ、非常に厄介な相手なんだ」


 特徴を知る仲村マリナは教えてくれ、やはり普通とは一線を画す個体だと言う。

 自ら手を汚すことしない上に、安全を確保してからの食事。さらに保身に対して意識が強いのか、距離を縮めることすら至難との話だ。


「ハルノ。コンパウンドボウがあれば、仕留められないか?」


 近づくこと難しいならば、遠くから狙う他ない。

 それには武器に技術と揃い、狙撃に強く自信ある者。倒せる可能性があるとしたら、ハルノくらいしかいないだろう。


「絶対とは言えないけど。さっきくらいの距離ならやれると思うわ」


 先ほどとは三十メートルくらい離れた位置で、条件が揃えばとハルノは微かな自信を見せていた。


「泣き女もブッチャーと同じように、できれば倒したい相手だ。泣き女がいなくなるだけでも、犠牲者は格段に減るだろう」


 機会があるなら対応をしたいと、仲村マリナは真っ直ぐに語っていた。

 普通の屍怪でも厄介なのに、ブッチャーや泣き女と異端種。イレギュラーな存在は際立ち、優先して倒したい筆頭であるのだ。


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