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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第四章 新たな旅立ち(下)

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第258話 悪い兆候

「大丈夫ですか? 手を貸しますよ」

「ありがとう。感謝するよ」


 車からレストランへの移動を手伝い、妊婦の奈緒(なお)さんに礼を言われた。夫の名前は三橋(みはし)勇気(ゆうき)と言い、函館へ向かうに新たに加わった同行者だ。


「空気を良くするために、少しだけ窓を開けるわね」


 ハルノは風の通り道を作るため、正面にある窓の右端を開けた。

 レストラン正面には大きな三つ窓があり、駐車場に止めた車とバイクが見える。視界良好と何か異変があれば、すぐに気づくことできるだろう。


「窓を開けたからには、音に注意をしないとだけど。言っても近くに建物はあまりないし。馬鹿騒ぎでもしなければ、特に問題はないか」


 音は屍怪を呼びせるため、常に警戒が必要な事項。

 しかし大きな街と比較して、建物自体が非常に少ない町。生者を追う屍怪の性質を考えれば、遭遇確率はとても低いと言えるだろう。


「人がいなくなって長いのか、埃が酷いね。一日と僅かな時間とはいえ、少し掃除をしたほうが良さそうだ」


 奈緒さんは人差し指で長机をなぞり、付着した汚れを見て言った。

 一見して明らかに埃が積もっており、吸い込めば鼻水にくしゃみや鼻づまり。目のかゆみや咳など、アレルギー症状が出ても不思議ない。


「奈緒は休んでいてくれ。掃除は僕がやるから」

「大丈夫。わたしも手伝いたいんだ。無理をしないから、それじゃあダメだろうか?」


 箒を渡して欲しいと頼む勇気さんに、奈緒さんは凛とした振る舞いで打診していた。

 最低限の生活環境に届いていないと判断し、全員が揃って掃除を行うことにした。机や椅子は布巾で拭き、畳や廊下は箒での掃き掃除だ。


「なかなか見せつけてくれるわね」


 暫し見つめ合う二人の姿を、側から眺めてハルノは言う。

 周りに人がいようとも関係なく、二人の世界に浸るよう両者。互いを思いやり大切にしているのは、第三者視点でもヒシヒシと伝わってくる。


「えーっと、少しだけ。羨ましいです」


 どこか物欲しそうな顔をして、ミサキはボソッと呟いた。

 珍しく大体な発言と思えば、本人も気づいたのか。耳を赤く恥ずかしそうに、長机を拭く掃除へ戻っていった。



 ***



「ふぁああ……」


 周囲が見えるほど明るくなった中で、欠伸をしながらトイレに向かう。尿意を催しては我慢できず、起床を余儀なくされた次第だ。


 今は……何時くらいだ? まだ少し暗いから、五時とか六時くらいか?


 眠気が強く目蓋はほとんど開かず、足取りも頼りなく少しフラつく。それでも寝床とした畳みあるレストランへ戻れば、自然と窓から外の景色が目に入ってくる。


 ……霧が凄いな。……海が近いからか?


 二度寝を企んでいたところであるも、外の景色が一変しており足を止める。

 レストランの周囲に発生していたのは、白く深く立ち込める霧。車とバイクの存在こそ見えるものの、ナンバープレートなど詳細は確認できない。


 ……なかなかに濃いな。……んっ?


 気になったのは車やバイクの後ろで、昨日も使用していた函館へ続く国道。


 ……気のせいか。


 二メートルはあろう影が映った気がしたものの、凝視をしても確認できねば見間違えか。


 ……寝よう。


 そして向かうは畳みの上と、みんなが眠っている和室。再び横になっては目を瞑り、音のない世界へ落ちていった。



 ***



「寝ていたんだから、わかるはずないわよ。本当にいたの?」


 明朝のことをハルノに話してみるも、気づくはずないと一蹴されてしまう。


「うーん。半分は寝ていたようなものだから、絶対と言い切れる自信はない」


 頭が回転しない間の出来事であるから、夢か現実か判断し難いところはあった。

 夢かと問われれば、完全には否定できない。そのくらい曖昧で、確信の持てない記憶である。


「蓮夜の早起きなんて、悪いことが起きる前触れよ。なかったことにしましょう」


 ハルノからすれば起床時間が早いこと、悪い兆候であると第六感が働いたようだ。


「言っても二度寝をしたから、起きたのはみんなと同じくらいだろ」


 しかし一時的な起床であるから、二度目こそ真の起床と言い訳をする。

 結局は二度寝をしてしまったので、一度目は実なくノーカウント。完全覚醒に至った二度目こそ、起床としてカウントすべきだ。


「いや、最後よ。少し話を盛らないでくれる?」


 しかしハルノに指摘されるは、比較して遅いとされる起床時間。

 みんなと同じくらいと言ったものの、実際は起きたときに全員が起床済み。すなわち目を覚ましたのは、最後というのはその通りなのである。


「ほんの数分くらいだろっ!! 少し細かすぎないかっ!?」

「二十分くらいよ。蓮夜こそ大まかなのよ」


 僅かな差ならば同じに相違ないと思うも、時間を挙げてハルノはシビアだった。

 通勤通学で時間を縛られては、朝の二十分は非常に大事なもの。それでも終末世界と規則はないから、多少の誤差は大目にみてほしいものだ。


「今日はついに北海道で西の大都市。函館に着くな」


 リュックを背負いレストランから出て、駐車場から進行方向の国道を見据える。

 上空にある白い雲はモコモコとした羊か、ふんわり軽さ柔らかさある綿飴の様子。それでも青く広がる空は遥か彼方まで続き、気持ちを自由に解放感の増す進路だった。


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