第245話 サービスエリア
「ここがその、サービスエリアか」
高速道路を走って到着したのは、有珠山サービスエリア。
ミサキの言った通りに、前方は灰色の街と青き海。後方には緑の山が広がって、とても開放的な場所である。
「車もそこそこ残っているわね」
駐車場に残る車両を見て、ハルノは確認するように言う。
五十台以上は止められそうな、中規模クラスの駐車場。三列で構成された前列には、軽自動車や乗用車にワゴン車。後方へ行けばワンボックスカーや観光バスあり、他にもトラックと二十台ほどは残されている。
「とりあえずは、中の安全確認だな。すぐに始めようぜ」
車両ない後方端にて車を止め、【有珠山】と書かれた白い建物。民家二軒を連結させたくらいの広さで、左側は二階建てで右側は平屋の構造。左右ともに入口があって、どちらからも入ること可能。
駐車場と建物の境界には、横に広がって三十近くの白いポール。過ぎた先には赤色や灰色に、黒色とランダムで足元にタイル。一部の場所では魚が描かれて、上手い配置で並べられている。
「……誰もいないな」
先頭で右の建物へ入って、売店と思わしき空間。左手には飲料を並べる冷蔵庫あり、中央に置かれるは三台の商品台。右手の商品棚は壁と一体型で、五段のものが四区画。入口前に立って全容はほぼ把握でき、店内はそれほど広くはない。
「商品が全く無ければ、お金も全く残ってないし。残されているのは、キーホルダーくらいか」
奥へ進みながら探索を続けると、最奥にて開いたままあるレジ。無理やりこじ開けた形跡あり、人力で破壊されたのは間違いない。
終末の日より混沌となり、生者が持ち去ったのだろう。右手のお土産コーナーに残るは、有珠山の形を模したキーホルダー。それも多くは盗まれたようで、僅かに二つしか残っていない。
「蓮夜。左側に食堂があるわ」
まだ見ぬ所へ視線を向けて、ハルノは確認のため促す。
売店を出て廊下を進めば、左に三台の自動販売機。右に男女別のトイレがあって、さらに奥は食堂と券売機が置かれる。テーブルに椅子と四十席はあり、完全な空席と少し物悲しい雰囲気だ。
「厨房とトイレを、見回ったほうがいいわよね」
「カレーにラーメン。どっちも美味そうだな」
緩みなくハルノが警戒する中で、目に留まったメニュー表。
写真として載る料理は、どれも目を惹き魅力的。カレーやラーメンに加えて、天ぷら蕎麦に魚の定食。全て終末の日を境に、拝むこと難しくなった品々。目の前に提供されること想像すれば、今にも席に着いて食したくなる。
「黒木さんたちは、トイレを確認しているようね。私も見てくるわ」
トイレは男女別にあるため、人手が足りぬとハルノは向かっていく。
サービスエリアのトイレは、大人数が使用可と大規模。見る所が多いとなれば、加勢へ向かった次第だろう。
「なら俺は、厨房を見るか。せめて何か、使える食材が残されていれば。……って言っても、賞味期限は過ぎているよな」
独り言を呟き勝手に納得して、食堂内右の受付と配膳台の隣。
奥へ進めば調理機器や、冷蔵庫と残る厨房。ステンレス製品が多く、全体的に銀で包まれた空間だ。
「屍怪はいなさそうだし。冷蔵庫の中は……」
一通り確認して見るも、誰もいなければ物色。
しかし冷蔵庫を開けてみても、上段となる広い冷蔵室。中段の冷凍室に下段の野菜室も、何一つ物は残されていなかった。
「売店にも残されていなかったし。まぁ、あるわけないか」
先人がいたこと明白であるから、食料は全て持ち去られたか。期待はほとんどしていなかったので、未練もなく早々に諦めがついた。
「一通りは見たはずだし。あとはハルノたちだな」
ひとまずは合流をするため、厨房を出ようとするときだった。
「……うおっ!!」
不意に左側で顔を会わすは、音もなく近寄ってきた存在。
一通り安全確認を終え、心はゆとりと緩んだ状態。突如として出現した者に、一瞬にして心臓は止まりそうになった。
「……ちょっと。何を驚いているのよ」
一連の出来事を見ていたハルノは、状況に戸惑っているようだった。
左側の壁に取り付けられていたのは、二メートルはあろう大きな鏡。食堂に入ってすぐの場所にあり、動きもなければ見落としていたのだ。




