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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第四章 新たな旅立ち(下)

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第244話 進む速度

「わかっていたけど、車を使うと時間もスピードも全く違うな。外の景色を見ているだけなんて、何もしなくて楽ちんだぜ」


 共通の目的地である函館を目指す一行は、車に乗って高速道路を走っていた。

 運転席の背後である後部座席に座り、窓を開けて風を感じながら眺める景色。右手に聳え立つ山は圧倒的な存在感を放ち、手前に広がる木々の緑は鮮やかで美しい。広々とした開放的な風景は、気分を幾分か清々しくさせた。


「蓮夜の右側と比較しても、左側の景色も負けてないわよ」


 隣の後部座席に座るは、幼馴染の朝日奈(あさひな)ハルノ。札幌から岩見沢と今に至るまで、行動を一緒にする旅の同行者。

 オレンジ色に近い明るい髪を、高い位置で結んだポニーテール。母親が日本人で父親が外国人と、ハーフで綺麗な翠色の瞳が特徴的。オレンジ色のブラウスに、白いパンツを着用している。


「海が近いはずだしな。少し見せてくれよ」

「ちょっと、押さないでよ」


 景色を見ようと身を乗り出せば、ハルノに接触して苦言を呈される。

 左側の景色は手前に街が広がって、青い空と広大な海が美しい。高速道路と高い位置を走れば、左は基本的に低い土地。全体を見渡せる絶好の場所なれば、たしかにこちらも見劣りしない。


「えっ、えーっと。しばらく行った先に、サービスエリアがあるはずなので。きっとそこからなら、いい景色が眺められると思います」


 振り向き気恥ずかしそうに言うのは、助手席に座る十七歳の女子高生であるミサキ。人見知りということで、自己主張が弱く物静と聞くところ。

 赤縁のメガネをかけて、姿勢はやや猫背気味。肩下まで伸びた黒髪を、両サイドへ結んだ三つ編み。白いシャツの上にピンクのカーディガンを羽織って、膝上と短い茶色のスカートを着用している。


「フフフッ。景色なんてものは、どこへ逃げることもない。何も言い争ったり、慌てる必要もない話」


 僅かながら呆れ気味に言うのは、運転手でもある黒木(くろき)(みのる)。五十八歳の囲碁棋士であり、終末以前は名人のタイトルを保持。とても頭が切れて対応力も高い反面で、単独行動を好み協調性はやや欠ける印象。

 白髪の髪と年相応の肌質ながら、良い感じに歳を重ねた顔立ち。深く暗めな紫色を基調に、白い縦縞の入るスーツ。異質な冷たいオーラを纏った感じで、周囲の温度を一度は落としそうな存在感。一見しては鋭さと危うさあるも、根は決して悪人ではない。


「にしても、黒木さんにミサキも。道に詳しいんですね。俺たちなんか地図を見ても全くで、曖昧なまま進んでいる感じでしたよ」


 函館を目指すのに、詳しい仲間たち。東京までの中継地点であるも、向かう先を同じくして頼もしい。


「あっ。……黒木さん」


 話を途中に神妙な表情をして、ミサキは前方を見て訴える。


「フフフッ。速度が出ていれば、襲われることはない。仮に接触しても、潰れるのは相手のみだろう」


 黒木さんも何かを捉えた様子も、問題なしと不敵に笑っていた。


「アガアアッ……」


 車の通り過ぎる横に立っていたのは、陥没した鼻に肌色を灰色にした屍怪(シカイ)。屍の怪物と称されて、元は人間であった者の姿。動いていれば生死の境界は曖昧で、生きているか死んでいるかも怪しき存在。

 終末の日と呼ばれるときから、突如として出現した人類への脅威。噛まれるなどにより感染をすれば、治療方法もないまま最悪の結末へ。変貌をすれば人間ではなく、屍怪の仲間となってしまうのだ。


「そう言えば二人は、なぜ屍怪が出現したとか。今回の経緯について、何か知っていることはないですか? どんな些細なことでも、僅かな情報でもいいんです」


 過ぎ去っていく屍を無視して、問いかけるは終末の日へ遡る。

 札幌駅前の上空に、現れた飛翔体。地下シェルターから出た後は、何もかも世界は一変していた。


「戦争による生物兵器に、研究所から漏れた未知のウイルス。隕石の落下よる天災や、永久凍土から溶けた細菌。自然界から自然発生した可能性もあり、例を挙げ続ければキリがない。しかしどれも証拠をなくして、全て根拠の乏しい推測の域。噂のレベルを脱していなければ、全くわからないと言って相違ない」


 運転をしながら黒木さんは話し、活かせる情報はないと言う。

 しかしそれも、仕方のない話。これほど大きな問題となれば個人や団体の力量で、対処できるレベルではない。それこそ頼りになるのは強力な国や、際立つ知識を持つ専門家たち。だからこそ巨大な富と権力あり、多くの専門家も抱えるジェネシス社。身近に頼れる存在がいて、東京へ向かっているのだ。


「まあ、仕方ないよな。何か知っている情報でもあれば、役立つかもと思ったんだけど」


 何か手がかりでもあれば、進展を求められた可能性。

 しかし丸い円を走っているようなもので、どんなに思案をしても最後は行き詰まり。まさに進歩をなくして、計らずも元の位置へ戻ってしまうのだ。


「いくらジェネシス社と言っても、材料なくして解決はできないわよね」

「ああ。だから俺たちの方でも、情報を掴めればと思ったんだけど。まぁやっぱり、簡単な話じゃないよな」


 何もなくして好転は厳しいとハルノは言い、同意をして考え動いていたこと。

 事態の解決を図り東京を目指すも、ただ漫然と向かっているわけではない。どうして屍怪は出現し、何か治療方法はあるのか。活動さえしていればジェネシス社も、間違いなく動いているだろう。それでも着いたとき情報あれば、活かせる可能性も広がるからだ。


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