第239話 地獄の谷22
「ウガアアッ!!」
火山が噴火するよう出現したのは、首から黄色いヘルメットを垂らした屍怪。土砂に埋もれていたせいで、灰色の作業着は土まみれだ。
「屍怪だっ!! 土砂の中に埋まっているぞっ!!」
最初の一体を手始めに、後続も出現し三体。まだまだ土砂に埋もれている可能性あり、作業の根幹を揺るがす緊急事態だった。
「なろおっ!!」
歩み寄ってくる屍怪を退治と、黒夜刀を振るっての応戦。
土砂に埋まっていた影響か、比較して動きの遅い屍怪。黒夜刀にて揺るがぬ連斬を放ち、二体の首を落として最後は頭へ斬りつける。
「聞いてないぞっ!! 土砂の中に屍怪がいるなんてっ!!」
運転席から降りた拓郎さんは、烈火の如く苦言を呈している。
倒れた屍怪の様子を見れば、頬はこけ酷く痩せた姿。腕も棒のように細くなって、動けること不思議なくらいだ。
「やれやれ。やはり待てずに、始めていたか」
遅れつつも呆れた感じで、待ち人きたると黒木さん登場。持っているのは双眼鏡と、高台から探りを入れていたのだ。
「土砂の中に、屍怪が埋まっているか。それに土砂崩れの先も、決して良い状況ではない」
黒木さんが高台から双眼鏡にて、確認のため見てきた現実。
土砂崩れの影響もあって、屍怪の少なかった登別と地獄谷。蓋をした瓶の中にいるようなもので、外には数多の屍怪が待ち構えているとの話だ。
「どう対処すればよいか、考える必要がありそうだな」
土砂に屍怪が埋まっていれば、困難になった排除作業。先ほどは三体と少数であるから、不意の対処も可能であった。
しかし埋まっている上に、先でも待ち構えているとの話。屍怪がいるとなれば、状況は全て複雑になる。
「しかし高台から見て、道の開通は間近。距離は僅かで、ほどなく開通できるだろう」
ライターで煙草に火を点け、白煙を散らし黒木さんは言う。
先ほどまで土砂排除は順調に進み、開通まで残り十メートルほどと目測。一点突破で進むとしたならば、時間もそう必要ないとの見解だ。
「十メートルくらいなら。埋まっている屍怪は、なんとかなるにしても。本当に問題となるのは、待ち構えている屍怪だよな」
数多が待ち構えているとなれば、開通後のほうこそ大問題。
土砂の排除と同時に、流れ込む屍の怪物たち。濁流のように侵入してきては、命を危険に晒すだけである。
「強硬策で突破しよう」
拓郎さんはショベルカーで轢くと、真っ先に強引な方法を提案した。
「数が多ければきっと、すぐに動けなるはずだ。そうなったら屍怪に囲まれ、間違いなく逃げられなくなるぜ」
押し潰し轢き殺す方法を選んでも、容易に突破はできないだろう。
対抗できる可能性があるとすれば、ブルドーザーや戦車か。ショベルカーでは屍怪に乗り上げ、動けなくなればデッドエンド。車内にて耐えることも、窓を割られれば不可能だろう。
「ショベルカーなら土砂を排除しても、急いで後ろへ逃げるしかない」
「土砂の排除後に出てくる屍怪を、どうするかが問題ね」
想定される事態から対応策を考え、核となる問題点をハルノが指摘する。
土砂の排除と同時に、出てくるだろう屍怪。登別と地獄谷までの道は、観光通りを除きほとんど一本道。
「ならいっそ、地獄谷へ誘導したらどうかな? 地獄谷へ落としてしまえば、簡単には出られないと思うの」
全員が集まり話を進める中で、エマは口を開き提案をする。
地獄谷はたしかに底が深く、屍怪では登れぬだろう。千は落とせそうであるから、広さとしても十分だ。
「遊歩道から見た感じ。いけなくもないか」
「観光通りに流れないよう、対策を打つ必要がありそうね」
一見した雰囲気から可能性を追い、ハルノも前向きに検討を始める。
「車を横並びに、道を塞ぐのはどうデスカ!? 行き場を失くせばきっと、地獄谷へ向かうはずデス!!」
ウィルも考えて提案をし、見え始める微かな光明。
「黒木さん。使える車はありますか?」
提案に沿うよう問題を整理し、話をより具体的な方向へ。
「整備という点では問題ない」
車は確保できていると黒木さんは言い、事を進めるに材料が揃い始める。
いきなりの事態であったものの、他に策はないとスピード決着。土砂を排除してから屍怪を、地獄谷へ導くことに決まった。




