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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第四章 新たな旅立ち(中)

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第237話 地獄の谷20

「あなたが黒木さんだったんですね。崖から落ちた際には、助けてもらいありがとうございます」


 遅ればせながら会うことできては、やっとの機会に頭を下げて感謝を示す。

 男の名前は黒木(くろき)(みのる)と言い、五十八歳の囲碁棋士。名人のという大きなタイトルを保持し、プロの中でも最高位に君臨する人物とのことだ。


「外の景色を眺めて、本当に偶然の発見。運が良かったね。兄ちゃん」


 煙草を一吸いしては白煙を吐き、黒木さんはタイミングと言っていた。

 屍怪に追われて崖から転落し、雨の降る路上で気絶。脳震盪とまともに動けずいたから、助けをなくしてどうなっていたか。襲われる可能性もあって、行動には全て感謝しかない。


「あの、……黒木さん。探していた物は、見つかったんですか?」


 問いかけるのは同行者と聞く、ミサキという十七歳の高校生。

 食堂の隅にてひっそりと座り、物静かにしていた女性。肩下まで伸びた黒髪を、両サイドへ結んだ三つ編み。赤縁の眼鏡をかけており、赤色ジャージと以前も見たまま。


「フフフッ。それが見つかったのさ。ソファの隣に置かれる、黒い機器が求めていたソレだ」


 黒木さんはライターを持ち出して、新たな煙草に火を点けて言う。

 待合室に移動し人が集まる中で、ソファの隣に置かれる物。四角い黒箱の機械は、ポータブル電源である。


「ポータブル電源があれば、バッテリー復旧も可能。修理は明日までにも、終わらせられる見通し」


 黒木さんがショベルカーを整備すれば、土砂に埋もれた道の開通も間近。立ち止まっていた日々も終わり、東京への旅路も再開できるだろう。


「黒木。運転できるのデスカ?」


 ウィルが問いかけるのは、素朴に思えても重要事項。

 普通自動車であっても、運転不安しかない者たち。特殊車両であるショベルカーを、運転できるかは疑問でしかない。


「……」

「あの、えーっと。……黒木さん。……できませんよね? そもそも車の修理だって、昔に軽くって言っていましたし」


 沈黙したまま煙草を吸う黒木さんに、ミサキは事前情報を元にして言う。

 普通免許を所持しても、勝手の違うショベルカー。運転経験のある者など、そう多くはいないだろう。


「大型特殊免許なら、オレが持っている」


 現れたのは引きこもりの息子で、髪は短髪となり剃られた髭。指紋に汚れていた眼鏡のレンズも、拭かれたのか光を反射しピカピカと綺麗。

 服装を上下の灰色スウェットから、白と黒のストライプ半袖シャツ。深緑色のパンツになって、爽やかな見た目に変化している。


「これって、……どう言うことなんだよ」


 唐突な思い切りある変化に、驚きと動揺が交錯する。

 黒木さんとの口論を経て、完全に言葉を失った拓郎。落ち着きを取り戻したところで、女将さんと話す機会を設けようとの決定。小一時間ほどしての登場は、自ら進んでの自主的な行動か。引きこもっていたときより、内面にも大きな変化があったようだ。


「……任せられるか?」


 揺るがぬ視線を向けて問う黒木さんに、凛とした顔つきで拓郎は頷く。


「拓郎。いきなり無理をして、頑張らなくていいのよ」


 今までのことを反省してか、気を遣って言う女将さん。

 しかし黒木さんとの口論を経て、顔つきはまるで別人。息子である拓郎は自らの意志を明確に、進んでの協力姿勢を翻すことなかった。


「ショベルカーの修理は、明日までに終えておこう。その後に、土砂を排除する作業。その旨それぞれに、忘れず準備をしてほしい」


 話は決まったと黒木さんは立ち上がり、ポータブル電源を持ち外へ出ていった。



 ***



「女将さんと拓郎さん。話し合いを経て、和解したらしいわ」


 ハルノと二人で部屋へ向かう中で、聞いた話と情報を教えてくれる。


「顔つきも変わった感じだったからな。残された時間は長くないはずだし。最期は歪み合うことなく、悔いのない時間を過ごしてほしいぜ」


 根治できる方法なければ、時期に訪れるだろう最悪。避けられぬ結末が見えていれば、言葉を交わせる時間も僅かだろう。


「今はウィルにエマと三人で、女将さんを見ているから。時間になったら、交代へ向かいましょう」


 二人にすること危険と判断しては、ハルノは決定した話を改めて言う。

 民宿の一室にて体を休めるため、過ごすことに決まった女将さん。息子である拓郎さんはもちろん、ウィルにエマも障子を挟んでの付き添い。万が一の事態に備えて、人数を揃えての看病となった。


「症状や感染の進行速度は、個人差があると思うけど。でも結局は、変わらない話よね」


 結果が予測できる事柄なれば、ハルノも打開策なく困っていた。

 いつ屍怪と化すかわからねば、気の抜くことできない看病。時と場合によっては、眠れぬ夜になるだろう。


「最期は女将さん本人と、拓郎さんが決めたことだ。こればかりは俺たちでも、どうにもできねぇよ」


 悔しさに下唇を噛むも、どうしようもない現実。

 みんなのため精力的に働き、貢献をしていた女将さん。屍怪に噛まれ打つ手なしとは、不条理さに憤りを感じずいられない。


「どう転んでも、覚悟は必要ね。何が起きても動揺しないように、気持ちだけは強く持ちましょう」


 培った経験からハルノは、揺るがぬ姿勢を見せていた。

 屍怪と対峙し慌てふためいては、事態をより悪化させることに。想定できる話であれば、たしかに覚悟は必要だ。


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