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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第四章 新たな旅立ち(中)

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第236話 地獄の谷19

「女将さんがどうして、同行する決断をしたのか。人一倍に働いた上で、人並み以上に無理をしたか。その気持ちを、考えたことはないのかよっ!?」


 誰も強要していなければ、あくまでの自己責任との主張。

 決断に至る背景を、完全に無視。事の本質から目を背けては、他人の気持ちを考える能力の欠如。短絡的な物の見方をせず、他へ寄り添う姿勢を見せてほしかった。


「水や食料の確保だって、今は簡単な話じゃない。みんな生きるために、相応の行動や決断。屍怪との遭遇リスクを、常に背負っているんだ」


 利益を享受するだけの立場なら、好き勝手な事を自由に言えよう。

 部屋に引きこもり、食事を受け取る日々。世間一般が母親でもなければ、施しは当然の話ではない。


「女将さんは二人分の仕事をして、ひそかに食事を運ぶ日々。全ては息子であるアンタを守り、追求の矛先を向けさせないためだっ!!」


 表立って誰も言わなかったことを、ここぞの機会と直接に指摘。

 民宿にいる全員が理解しても、女将さんに免じて言わなかったこと。あまりに身勝手な発言に、もはや黙ってはいられなかった。


「……拓郎。知っていると思うけど。屍怪に噛まれたの。もう食事や洗濯の世話も、できなくなると思うから。生きていくためには、自ら頑張るしかないのよ」


 死期を悟っている女将さんは、向き合うべき現実を告げる。

 四十を超えても親に守られ、逃げてきた現実という世界。誰も面倒を見なくなれば、自ら動いて生きていく他ない。


「本当に……コイツは、いつもいつも。頑張れ頑張れって、毎度うるせぇんだよっ!! 大学受験のときもっ!! 就職試験のときもっ!! 人の気も知らず、馬鹿の一つ覚えみたいにっ!! オレはオレなりに、いつも……頑張っているんだよ」


 逆上したかと思えば尻すぼみに、声を小さく手で顔を覆う拓郎。

 頑張れという言葉を、キッカケにしてか。どうやら過去を思い返して、トラウマがあるようだ。



 ***



「フフフッ。それは物事を単純に、見過ぎってもんだ」


 言い合いの最中で背後に立っていたのは、白髪で肌質から五・六十代ほどの男性。

 深く暗めな紫色を基調に、白い縦縞の入るスーツ。右手に持つは火のついた煙草で、左手で床を突くのは木刀か。異質な冷たいオーラを纏った感じで、周囲の温度を一度は落としそうな存在感。一見しては鋭さと危うさあり、とても一般人とは思えない。


「単純だって!? 頑張れと言われれば、もっと努力しろってことだろっ!? プレッシャーをかける以外に、どんな意味があるって言うんだっ!?」


 本来ならば尻込みしてしまいそうな相手も、逆上し感情的になる拓郎は止まらない。そして語るは引きこもるに、至るとなった大きな要因。大学受験の失敗に始まり、就職試験にも落ちたことキッカケ。

 何度も女将さんから、受けた頑張れの言葉。結果が出ずしてネガティブに、プレッシャーと捉え心を閉ざしたのだと言う。


「物事を単一的な見方。凝り固まった思考。視野が狭くなり、柔軟性の欠如。今回のは、まさにそれだ」


 煙草をひと吸いしては白煙を吐き、悟った様子で男は指摘をする。


「馬鹿にするなっ!! なら、どういう意味かを説明しろっ!!」


 蔑まれたと感じた様子で、拓郎は声を大にして説明を求める。


「頑張れを、努力しろって見方。それ以外に、できないかってことさ」

「それのどこが間違ってるんだっ!? 頑張れって言ったら、結果が伴っていないっ!! だからまだまだ、努力しろってことだろ!?」


 他にも解釈の余地があるという男に、拓郎は正論だと食ってかかる。


「フフフッ。捉え方の一つとしては、あながち間違っているわけでもない」


 不適な笑みを浮かべ男は、今度は肯定的な意見を述べた。


「そうさっ!! アイツはいつも、プレッシャーをかけることしかしなかったんだ!!」


 それ見たことかと激情を露わに、拓郎は女将さんへ向け指を差す。

 あくまで悪いのは自分でなく、プレッシャーをかけた女将さん。同意の意見をそれ加勢に、責任の根本であると追求を始めた。


「でも……それだけじゃあないってことさ」

「なんだと!?」


 しかし切り返し意見を言う男に対して、拓郎は裏切りとの視線を向ける。


「頑張れと言うのは、結局のところ激励。とどのつまりは、単なる応援。それは結果が出れば良い。自分の力を発揮できれば良いだったり、考えようによって様々さ」


 捉え方によって意味は異なると、男は例を述べ見解を示していた。

 頑張れと言う言葉は、本来ネガティブなものではない。プレッシャーを与える意図というより、単純な応援として使われるほうが多いだろう。


「しかし考え方によっては、努力しろと……解釈できなくもない。それでも言ってしまえば、頑張れを悪いように捉えるのは卑屈。病気は例外としても、被害者意識は弊害さ」  


 静かに語る男の見解を、みな沈黙し聞き入っていた。

 最初に言った単一と比較し、様々な可能性を追う多角的な思考。意図を深く掘り下げて見なければ、容易な解釈は誤解を招く可能性もある。


「言葉なんて結局のところ、良いように解釈すればいいのさ。そうすれば大概の事には、目を瞑れるってもんだ」


 発言に対してどう受け取るかは、自分次第であると男は言う。

 SNSなど発言に対して、過度に注目される世の中。気をつけても問題視される場面はあり、時に言葉狩りとされる場面も多々。一部を注視せず前後の脈絡に気をつけて、文言から伝えたいことを考察すること。

 受け手が都合よく解釈できれば、図らずも個人の利益に。最悪のところ無視すればよいから、変な執着心を持たぬも寛容。人間同士のコミュニケーションだから、卑屈な精神は弊害でしかないと言っていた。


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