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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第四章 新たな旅立ち(中)

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第235話 地獄の谷18

「急げっ!! 早く女将さんを、ソファに座らせるんだっ!!」


 民宿まで戻ってきてすぐに、待合室は騒然と慌ただしい雰囲気に包まれた。

 ホテルの地下駐車場にて、手を噛まれた女将さん。自力でこそ歩けてはいるものの、寒気を訴え低体温症の兆候。顕著に症状は現れ始め、感染に関し疑う余地なかった。


「これから、……どうすればいいんだよ」


 ひとまずはソファに寝かせて、布団を掛けて思考を巡らす。

 屍怪に襲われて噛まれ、感染してしまった者の運命。有効な治療方法は存在せず、最期は最悪へ行きつく他ない。


「残されている時間はもう、……あまり長くないわよね」


 逃れられぬ現実を受け入れながらも、ハルノは冷静に思考を巡らせていた。

 終末世界を今まで、生きてきた経験。解決方法を探る時間なくして、予測できる未来はきっと変えられない。


「今のうちに、できることを。……か。俺たちに、何ができるんだよ」


 寒さを和らげるなら、対処方法は可能だろう。

 しかし根本的解決でなければ、迫りくる時間というリミット。できることと言えば、女将さんの意志を尊重。可能な限りで力を貸し、支援を行うことくらいだ。


「あんな人でも、息子だもの。やっぱり、伝えたほうがいいわよね?」


 ハルノが気にかけた者は、腐っても子に当たる存在。

 常習的な暴力があった可能性あるも、女将さんが常に気にかけていた息子。どんな人物であれ事実を知らせぬは、蚊帳の外となってあまりに酷だ。


「……そうだな。何も事情を知らず、最期になるなんて。きっと女将さんも、望まないだろうし。言葉を交わさずの別れなんて、とても悲しすぎるぜ」


 重く告げ難い話であるも、残された時間は僅か。

 民宿の二階にある一室にて、引きこもりを続ける息子。事情が大事ともなれば、全てを伝えにいくことを決めた。



 ***



「大事な話があるんだ。扉を開けてくれないか?」


 対面にて伝えるべきと判断し、ノックをして訴える。

 しかし一向に反応を示すことなく、扉が開く気配はない。引きこもりを続ける姿勢から、そもそも対応をするつもりないようだ。


「おいっ!! 聞こえているんだろっ!! 一大事なんだっ!! 扉を開けろよっ!!」


 あまりに無礼というか、無神経というか。

 女将さんが噛まれたと言うのに、失礼の極まりない態度。最初こそ丁寧かつ冷静に対応するつもりも、声のトーンが上がること避けられなかった。


「開ける気がないならっ!! 扉越しにでも説明するからなっ!! 一言一句を逃さないよう、集中して聞けよっ!!」


 何はさておき室内にいるなら、話を伝えるため唯一の方法。部屋の前から声を大きく、事実を発信する他なかった。


「女将さんが屍怪に噛まれたんだっ!! 今はウィルとエマが、二人で様子を見守っているけど。感染は間違いないから、もうあまり……時間は残されていない」


 物音一つとてしなくとも、室内に声は届いているだろう。

 母親である女将さんが噛まれ、どんな心境に至るのか。今のまま引きこもっていれば、最期の対面すら叶わない。


「いいのかよっ!? このまま引きこもっていたら、会えず終わりになるんだぞっ!!」


 部屋の前にて訴えるも、虚しく響き渡る声。

 返ってくる言葉なくして、口を閉じれば静寂。もはやこの息子には、何を言ってもダメかもしれない。


「ガチャ!!」


 全てを諦めかけていたとき、部屋の扉が解錠する音。

 ゆっくりと開いていく扉の向こうには、上下に灰色のスウェットを着た男。下っ腹がポッコリと出て、客観的に小太りと言える体型。髪は長くボサボサであり、剃り残しの目立つ鼻下や顎髭。眼鏡のレンズは指紋で汚れ、第一印象から清潔感は全くない。


「女将さんが大変なんだっ!! 早く会いにいったほうがいいっ!!」


 今までの対応にこそ不満はあるも、時間が限られ急がねばならない。

 感染した者の行く末を考えれば、残されている時間は僅か。お互いに顔を合わせて、伝えたいこと。最期となれば本当に、悔いのない対応をしてもらいたい。


「……チッ!! うるせぇな」


 しかし男は舌打ちをして、不穏な空気が漂う。腹を掻きながらやる気をなさそうに、露骨に面倒くさそうな顔をしていた。


「……アイツが勝手に、ミスをしただけだろ」


 壁と明後日の方向を見ながら、ボソッと呟く女将さんの息子。全て自己責任であるから、自分には一切の関係はない。

 苦虫を噛み潰したよう嫌な表情に、思いやりなき不遜な対応。心配する言動が一切なくては、態度が人間性を物語っていた。


「それが親に対する……態度かよっ!? 女将さんはみんなのために、食事を作ったり洗濯をしたり。今回だって道を開通するため、バッテリー探しに……協力してくれた結果だっ!!」


 目に余る言動の数々に、自然と声は大きくなる。

 人格者である女将さんに対し、真逆とも思える息子の態度。本当に血の繋がりあるのか、疑ってしまうくらい違いがあった。


「そもそも道の開通なんて、どうでもいい話。バッテリー探しも、基本的に興味ない。協力ってそもそも、お前らのためだろ。行く必要がないのに駆り出したなら、後押ししたお前らに責任があるんじゃないか?」


 責任の根本はこちらにあると、男は独自の理屈を立て追求してきた。


「拓郎!! なんてことを言うのっ!!」


 言葉を失ってしまいそうな返しに、登場したのは女将さん本人。名を呼んだことにより、花村(はなむら)拓郎(たくろう)と名前は判明。

 ウィルが手を貸すようにして、隣にはエマも同行しての登場。目を覚ました女将さんは息子の元へ行ったと聞き、事情を知って自ら乗り出してきたのだ。


「今回の事は、全てわたしの責任。バッテリー探しには、誰にも誘われていないし。自ら声を上げて、参加を決めたの」


 感染の影響か青白くなった顔で、訴えを始める女将さん。

 自分で考えて、下した決断。何もかも起きた結果を、自己責任と責任転嫁をしなかった。


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