第233話 地獄の谷16
「きゃあああっ!!」
最高の発見に胸が高鳴るも束の間、突如として女性の叫び声が響いてきた。
ハルノと組んで二組に分かれ、動く車両を探していた時間。二列目の中央地点から左右へ向かい、移動をしては三十メートルほど離れたか。叫び声の上がった三人の方向に、何かあったのは間違いない。
「エマ!! 何があったっ!?」
ポータブル電源を片手に持ち、通路で立ち尽くす姿に問いかける。
「車内に……屍怪がいたみたい」
不安そうにエマが見つめる先では、前後方でドアの開いた乗用車。
空車となる隣にて、置かれるランタン。頭部にクワが突き刺さって倒れる屍怪と、肩を上下に呼吸を荒くするウィル。背後には蹲る女将さんの姿があり、エマは呆気に取られている雰囲気だ。
「……屍怪がいたのか。でも問題なく、倒せたみたいだな」
慌てて合流したものの、すでに脅威は排除済み。頭部を破壊された屍怪は大の字に倒れ、ピクリとも動かず反応はない。
「蓮夜!! ハルノ!! それどころでは、ありまセン!! 女将が……。女将さんが噛まれマシタ!!」
問題はないかと思っていたところに、ウィルが告げるのは最悪と呼べる凶報。
手慣れた感じで探索をしては、車内の後部座席に隠れていた者。暗いところ床に伏せていたようで、どうにも気づかなかったらしい。
「ごめんなさい。迷惑をかけて」
女将さんは自身の怪我より、何より優先と謝罪をしていた。
「んなことを、言ってる場合じゃないですよっ!! 怪我を見せてくださいっ!!」
探索をしに車内で手を伸ばしていたから、噛まれてしまったのは右手。
親指から人差し指の間にかけて、皮膚が裂かれて酷く流血。ランタンで照らす暗い中でも、決して良くなさそうであった。
「とりあえずは、止血をしましょう。蓮夜。タオルを貸して」
ハルノは冷静かつ迅速に、怪我の処置を始めた。
怪我の状態を見て息を飲み、動揺してしまった事実。今までの経験からきっと、感染は避けられないだろう。
***
「ねぇ? これは何?」
エマは持ってきた四角い黒箱を見て、どんな物かと用途を問う。
「ポータブル電源。車の救急車があって、車内で見つけたんだ。触れたら反応あったし。動くと思うから、もう車を探す必要はないと思うぜ」
吉報と凶報が織り混ざって、感情は複雑を極まる。
しかしそれでも何より、噛まれた女将さんが心配。ハルノが応急処置を済ませたら、即座に撤退をすべきだろう。
「みんな!! 見てくだサイ!!」
ウィルは声を上げて訴え、慌てて視線を向ける先。
悲鳴を聞き騒動を知り集まったのか、駐車場の奥からゾロゾロと出てくるは屍怪。右目の眼球をなくして鼻は削がれ、黒いスーツを着用してはホテルマン風な男。左足を変形させ甲をつけて歩くは、白の料理着とシェフ風な女。
「結局は……他にもいたのかよ。急いで退がるぞっ!! じゃねぇと、囲まれちまうっ!!」
車の合間を縫って来たり、どこからか出現した屍たち。十か二十か全てこちらへ向かい、すでに標的とロックオンされているようだ。
「女将さん。立てますか?」
「ええ。大丈夫よ」
ハルノは気遣い声をかけて、応じて動き出す女将さん。
怪我の状態は最悪と言えるものの、意識はハッキリとまだまだ動ける。他人の助けも必要なければ、逃げるに問題はないだろう。
「ランタンと!! 誰かポータブル電源を持ってくれっ!!」
黒夜刀を抜いて敵へ向かい構え、撤退に必要な準備と伝える。
ランタンをなくして、周囲の把握は困難。そして何よりポータブル電源を持ち帰らねば、何をしに地下駐車場まで来たかわかりはしない。
「片手でも、ランタンなら持てるわ」
「エマも持つよ」
健在な左手を使用して女将さんは言い、エマも続いて周囲を照らす役目。
「いいわよっ!! 蓮夜!! 退がりましょう!!」
最後にハルノはポータブル電源を持ち、地下駐車場からの撤退を開始。
「一刀理心流。蛟龍連撃」
先行して近づいてきた屍怪に、寄るなと拒絶の意味を込めた振り下ろし。顔に鮮明な斬り傷を与えるも、浅く急所へ届かず行動に変化はなし。
しかしここは一斬のみならず、連撃と二斬目を本命に。下段から切り返す刃は顎から、さらに上へと頭部を破壊。屍怪は足元から力を失い、前のめりに崩れ地に伏した。




