第231話 地獄の谷14
「地下駐車場。行ってみる価値はありそうね」
結局のところハルノたちも、成果なくしての帰還。
合流してからは地下駐車場の話をして、微かに見え始めた一縷の希望。他に期待の持てる場所もなくては、揃って食いつきは良かった。
「ボクたちもホテルや、地下の駐車場。行ったことはないデス」
ウィルたちは食料を確保するにつき、コンビニやドラッグストアを優先。
ホテルの建物内は広く不透明な所あり、実態の把握も困難なれば敬遠。今はまだ時ではないと、ほとんどノータッチらしい。
「地下駐車場がありそうなホテルは、地図上で六ヶ所くらいか。ホテル内に入らないとしても、屍怪がいる可能性は無視できない」
仮に出入口が二ヶ所か、それ以上あろうとも。完全な開放空間でなければ、若干の閉鎖的な空間。
考えることに関しては、疎そうである屍怪。知能が低いが故に出られず、留まっている可能性は否定できないだろう。
「ねぇ? 結局のところバッテリー復活には、何が必要なわけ?」
車関係の話には疎いようで、ハルノは詳細な説明を求めた。
「動く車のバッテリーと、ケーブルを繋げて復活させるんだよな? 他にも道具とか、あった気がするけど。あまり興味なかったから、俺も詳しくはわからないな」
しかし車に関しては、走ればそれでいい。そういう趣向のためハルノと差異なく、同程度の知識しか持ち合わせていない。
「バッテリーの復活には、大きく二つの方法がありマス。救援車から電力を受け取る方法。ポータブル電源や、モバイルバッテリーを使う方法デス」
代わりに知識を持つウィルは、方法の詳細を教えてくれる。
「駐車場にポータブル電源や、モバイルバッテリーなんてないわよね。メモに残されていた通り。動く車を見つけるほうが良さそうね」
ハルノは最も現実的と思えるところを、重点的に探すべきと判断していた。
車の専門店でもなければ、ポータブル電源やモバイルバッテリー。簡単に見つかるはずなく、メモにすら記載しなかったのだろう。
「でも動く車を見つけたとして、民宿まで走らせる必要があるよな。俺はやってやれないこと、ないとは思うけど。みんなは、どんな感じだ?」
地下駐車場で車を発見したとして、運転をして移動をさせなければならない。
今まで歩き回った範囲なら屍怪も少なく、安全面はギリギリ許容範囲。それでも未知の所へ行くならば、迅速な行動が必要になるかもしれない。
「言っても、無免許よね? ウィルとエマはどう?」
資格を取得していなければ、ハルノは不安と他へ打診。
「エマはないよ。運転しないもん」
「免許は持ってイマス。でも全く運転しないので、とても不安しかないデス」
エマはそもそも資格をなくして、ウィルはペーパードライバー。
加えてウィルに関しては、交通ルールの違う異国。運転席の位置であったり、左右による通行方向の違い。頼りとするには心許なく、適した人物と言えなかった。
「運転免許証は持っているわ。買い出しに行く必要あるから、それなりに運転はしているの」
最後に発言をするのは、民宿の経営者である女将さん。
料理を振る舞うにも、必要となる買い出し。今いる五人の中で、最も頼れるのは女将さんだった。
「ここは手分けをして探すより、みんなで動いたほうが良さそうね」
二組に分けての探索を白紙に、ハルノは揃っての行動を提案。
運転手たる者が一人ならば、バラバラになること無用。全員で動くことこそ、効率的との判断だった。
「そうだな。なら車を発見した場合、運転は女将さんに任せよう。まずは近くにあるホテルから、しらみ潰しに行こうぜ」
バッテリー復活のために、探索は次なる段階へ。登別と地獄谷周辺から出るには、ショベルカーの使用が必須なのだ。
***
「真っ暗ってわけではないけど。かなり暗そうだな」
十階ほどの高さを誇るホテルを前にして、横へ逸れて地下へ向かう坂道。
【宿泊者専用、高さ制限2.2m】と、建物上部に注意書きが掲示。近くには黄色い発券機と精算機が左右に、車が進めぬように遮断機が降りている。
「ランタンで照らして、進むしかないわね」
「準備できたのは、全部で二個か。あとは懐中電灯だから、警戒と注意を強くしないとな」
塞がった右手を前に出してハルノは言い、地下駐車場へ行くと想定し持ってきた物。
周囲を広く照らせるランタンは、ハルノとウィルが持ち二個。残る三人は懐中電灯であり、狭くも照らして進むことなる。
「みんな、準備はいいよな?」
地下駐車場のような窓のない閉鎖的な場所では、気持ち的にも余裕なく装備的にも予断を許さない。
ハルノはサバイバルナイフを補助武器に、主武器と携えるはコンパウンドボウ。ウィルが持つ先端が四つ又となるクワは、農業用として基本的に使われる代物。エマは空手と武器は持たず、女将さんが持つは独自の創作品。一メートルほどの物干し竿に包丁を、先端にテープで巻き付け作った即席の槍だ。
「よし!! 行こうぜっ!!」
先頭に立っては懐中電灯で先を照らし、坂道を下って地下駐車場へ向かう。
進むほどに外の光は弱くなり、空気も重く滞留している感覚。一歩ずつ暗闇に飲まれているようで、自然と不安や恐怖は増していった。




