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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第四章 新たな旅立ち(中)

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第229話 地獄の谷12

「なんだよっ!? あれっ!? あんなの、母親に対する態度じゃねぇ!!」


 見ていられぬほどの暴挙に、自分事のよう怒りが湧き上がる。

 引きこもっている息子を尻目に、人の二倍以上を働く女将さん。庇いつつも食事を運ぶ母親に対し、暴力を振るとは一体どういう案件だろうか。


「エマの知っている限り、前にも同じようなことあったよ」


 廊下を歩き現場から撤退する中で、エマはさらに驚きの事実を話した。

 一度きりの出来事でなければ、もはや常習的な犯行か。生活を支えている母親に対し、引きこもる息子からの暴力。側から見ても許容できる話ではなく、恩を仇で返すとはまさにこの事だ。


「それより、みんな。黒木さんからのメモを見た? 今回はみんなと一緒に、バッテリー探しを手伝うわ」


 唐突に話題を変える女将さんは、先導して同行の意志を示す。

 女将さんが息子を庇っているのは、逐一の行動から明白な話。これ以上に責めを受けぬよう、意図的に逸らしているのは間違いない。


「女将さんが庇う姿勢を見せているから、これ以上の追求は難しそうね。仮に責めたとしても、女将さんがツラくなるだけよ」


 母親の心情を察するハルノは、耳元で呟き気を遣っている。

 どんなに悪いことをしても、やはりお腹を痛めて産んだ子か。外野から見て明らかに異常な行動でも、被害者が了承すれば言えることは少ない。


「家族の問題か。難しい話なんだろうけど、やっぱり納得はできねぇよ」


 未だ溜飲は下がらずとも、当人が望まずして打つ手なし。

 他者からの望まぬ介入は、ただ問題を複雑化するだけ。安易に手を貸すことできねば、憤りを残すのみとなった。



 ***



「太陽が真上にくる頃。一度みんな、民宿に戻って来ようぜ」


 ショベルカーを復活させるため、二手に分かれてバッテリー探し。

 当初は四人と話していたものの、女将さんが加わり合計五人。土地勘と戦力均衡を保つ形で、今回はエマと組んでの探索になる。


「エマたちはニセコに向かって、旅をしている途中だったよな?」


 二人は北海道へ観光旅行に来て、終末の日が訪れたとの話。


「うん。そうだよ」

「遠い異国の地で、家族と離れ離れか。心配だったり、寂しくはなかったのかよ?」


 あっけらかんとした顔で応えるエマに、問いかけるは心情と過ごす日々。


「心配は心配だけど。なるようにしかならないし。ウィルがいるから、寂しくはなかったよ」


 両手を広げてバランスを取り、縁石の上を歩き始めるエマ。

 完全なる天然なのか、それともかなりの大物か。弱音を吐くことなければ、肝の太さを肌身で感じる。


「ニセコには親戚がいるんだよな。ってかニセコへ向かうのに、地獄谷へ来る必要性はあったのか? たしか海岸沿いとか国道を歩けば、最短ルートになると思ったけど」


 地図を見て道を確認していたから、気づいた目的地との矛盾点。

 登別と地獄谷周辺は、内陸にある観光地。ニセコへ向かうだけならば、通る必要性はないはずだ。


「ただ帰るだけなら、楽しくないもん。せっかくの機会だから、帰り道でも観光をしようって決めているの」


 屍の怪物が彷徨う終末世界で観光とは、エマの考え方には度肝を抜かされた。

 今まで出会った人たちは基本的に、日々を生きるために四苦八苦。住処や水に食料など、何かしらの苦労と戦っていた気がする。


「蓮夜とハルノは東京まで、一緒に旅をしているんだよね? それならもっと全てを、楽しんだほうがいいと思うの」


 エマから受ける助言は忘れていたことであり、盲点と一つ認識を大きく覆すものだった。

 長く険しい旅でも常に、楽しみを持って進むこと。きっと東京へ向かう中でも、何か見つかる新たな発見。それは頭から足先と全身で触れた経験となり、苦しいだけの時間とはならないはずだ。


「……ああ。そうだな!! 昨日の温泉や卓球だって、みんなで遊べて楽しかったしっ!! これから先の旅路を、楽しみを持って進むっ!! 今回のように新しい発見や、きっと良いことだってある気がするぜ!!」


 助言を素直に受け止めて、気持ちを新たにバッテリー探しへ。

 苦労や大変が先行して、忘れていた気持ち。考え方や着眼点の変化は、久方ぶりに成長と呼べる気。新たな側面に気づき発見をし、まだまだ伸び代は無限大に思えた。


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