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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第四章 新たな旅立ち(中)

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第227話 地獄の谷10

 温泉から上がり新しい甚平に着替え、脱衣所を出て四人が休憩場にて集合。

 ウィルは白地に青い線の入った浴衣で、ハルノとエマは赤い線の入った浴衣を着用。休憩場の台にランタンを置けば、周囲が一気に明るくなった。


「えいっ!!」


 ラケットを握るエマは力強くサーブを放ち、ピンポン玉は曲がりながらネット越える。


「甘いわっ!!」


 ハルノはラケットでピンポン玉を返し、再びネットを越えて相手側の面に。お遊びとはいえ勝負事となれば、負けん気の強さは人一倍だ。


「負けまセンヨっ!!」


 白線に乗り弾むピンポン玉を、ウィルが返してラリーは続く。

 温泉を楽しんでは休憩場にて、自然と始まった卓球対決。ウィルとエマのペアに対し、ハルノと組んでのダブルス。攻防は一進一退を極め、同点のままマッチポイントとなっていた。


「決めるぜっ!!」


 僅かに高く浮き上がったと判断しては、狙いを定めてのスマッシュ。

 ラケットの中心より上部にて、完璧に捉えるピンポン玉。レーザービームのような鋭い角度で、スピードを増して相手側の面へ着弾。


「……」

「おわっ!!」


 エマは目を見開いたまま動けず、ウィルは反応するも空を切るラケット。次第に弾みが弱くなって、床に転がるピンポン玉。

 入浴後に始まった卓球対決は、接戦となるもついに決着。ウィルとエマのペアを、ハルノと一緒に下したのだ。


「思った以上に盛り上がったわね」

「ああ。卓球なんて、久しぶりだったな」


 ハルノと一緒にラケットを置き、ともに喜びを分かち合う。


「蓮夜とハルノ。とても強いデスネ。ボクとエマは、ピンポンをしていたのにデス」

「二人とも本当に、運動神経が良いよね」


 激戦を繰り広げたウィルに、引けを取らなかったエマ。互いの力を認め合っては、リスペクトを忘れはしなかった。


「ギリギリのところだったわ。ウィルとエマ。二人とも上手くて、かなり驚いたわよ」

「だな。エマがカットマンと技巧派で、ウィルも粘ってよく拾うし。結果は勝てたけど、本当にいい勝負だったぜ」


 ハルノと激戦を振り返りながら、互いを讃え合っての感想戦。

 勝負は一セットのみであり、次があればどう転ぶか。鎬を削り合う接戦となれば、時の運と結果はわからないだろう。


「ねぇ。ねぇ。次は部屋に戻って、トランプをしようよ」


 ランタンを持ち廊下を歩く中で、エマは次なる提案をした。


「っと、その前に。黒木って人は、帰ってないかな? 女将さんに会って、確認をしようぜ」


 助けてもらった礼を言ってなければ、未だ会うことさえできていない人物。温泉へ浸かり空も暗くなり、今なら戻っていても不思議ない。


「黒木さん? それがまだ、帰っていないの」


 食事場を訪ねて女将さんに聞くも、まだ戻ってはいないとのこと。


「黒木はとても自由人デス。でも必ず、無事に戻ってきマス」


 絶対の信頼を置くウィルは、心配無用と変わらぬ立場。


「帰っていないなら、仕方ないな。俺たちも部屋へ戻るか」


 今から探しにいくのは遅く、必要性もないとの話。

 ならば今日のところ、できることは何もない。部屋へ戻って休む他に、やることもありはしないだろう。


「そう言えば、一ノ瀬君。着替えを預かって、洗濯をしているの。今日やれば明日には乾くと思うから、みんなも洗濯物を出して置いてね」


 去り際に女将さんは言うと、食器を洗い始めた。

 初めて目を覚ましたとき、部屋になかった衣服。汚れが目立ち女将さんが回収して、善意で洗濯をしてくれたのだ。



 ***



「ありがたい話だけど。女将さんはやっぱり、働きすぎだよな」


 食事場を出て廊下を歩き、部屋へ戻る中もしみじみ思う。

 相応の料金を支払っていなければ、本来なら受けられぬサービス。女将さん本人が進んで行っても、見返りは少なく体の酷使は明らかだった。


「手伝うって言っても、大丈夫って遠慮をしているから。本人が受けなければ、協力もできないわよ」


 見かねて助力に回ろうとするハルノも、容認なければお手上げ状態と嘆く。


「ボクたちも言いマシタ。でも女将さんは、休もうともシマセン」


 ウィルも同様の意見を持っており、以前に問題を指摘済みとの話。


「女将さんが無理をして、頑張っているの。引きこもっている、息子のためだよ」


 エマが告げるのは、働くための理由。


「何もしない息子を、邪険にさせないため。人の二倍は働かないと、立場がないと思っているの」


 エマが女将さんから聞いたという話は、全て我が子を思っての親心。

 全く働かずタダ飯食らいでも、親からすれば愛情を注いだ子。食料の確保すら難しく、屍怪の徘徊する終末世界。文句を言われぬよう倍以上に仕事をし、懸命に立場を守っているとの話だ。


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