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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第四章 新たな旅立ち(中)

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第222話 地獄の谷5

 食事場での休憩を経て、体調は動けるほど回復。ウィルとエマは民宿を案内すると言い、まずは出入口となる玄関へ向かうことになった。

 引き戸が四枚と一般家庭の倍はあろう広い玄関に、縦五列に横八列で計四十足の下駄箱。フローリングの床は使い込まれた感じで、濃い茶色が印象的。顔を斜めにした後方には、二階へ繋がるやや急な階段があった。


「全体に古風な雰囲気で、なんか歴史を感じるな」

「昭和か明治か大正か。少なくとも、そのくらいの歴史はありそうね」


 内装から感じる印象を、ハルノと共有して待合室へ。左手には二人掛けソファが二台あり、静かなテレビと自動販売機も備えられている。

 右手にある受付台は思ったよりも狭く、一人が座れるスペースだろう。台には笑顔で左手を挙げる白い招き猫と、初めて目にするダイヤル式の黒電話。使い込まれた木柱は趣があり、壁は触れるとザラザラした触感。和の雰囲気を漂わせる空間は、古き時代の名残を思い出させる。


「この民宿には温泉がありマス!!」

「源泉掛け流しで、今も使えるんだよ」


 ウィルが次に向かうは浴場であり、エマは明るく補足情報を加えた。

 温かいお湯が出るなど、今ではもう希少なこと。温泉へ向かう途中には休憩場あり、マッサージ機と卓球台が用意されている。ラケットにピンポン玉も置かれ、すぐに遊ぶこともできそうだ。


「あっ!! 女将サンっ!!」


 四人で廊下を歩く途中にて、ウィルが呼びかける先。

 両手に布団を抱え運ぶのは、白い割烹着を着た女性。一見して推察される年齢は、五十代後半から六十代。白髪の混じったショートヘアに、目尻に細いシワあり肌の張りも年相応。どこか顔はやつれ気味であり、雰囲気から疲れが見え隠れしている。


「ウィル。エマ。それにあなたたち、昨日の人たちかしら?」


 女将さんと呼ばれる人物にも、すでに事情は知られているようだ。


「はい。俺は一ノ瀬蓮夜って言います」

「朝日奈ハルノです」


 初対面の人なれば自己紹介をし、ハルノも続けて会釈。


「わたしは花村(はなむら)園子(そのこ)。民宿の経営者で詳しいから、何か困り事があったら気軽に聞いてね」


 表情を穏やかにしながら、女将さんの対応はとても柔らかいものだった。

 それでもなお何か忙しそうな様子で、布団を抱えたまま移動を開始。民宿の掃除をしているらしく、すぐにどこかへ姿を消してしまった。


「なんか、苦労人って感じだったな」

「そうね。手は細く荒れていて、疲れて見えたわ」


 視点こそ異なるものの、ハルノも同様の印象。


「女将さんは民宿を、一人で経営してマス。それに、子どもが一人イマス」

「子どもって言っても、四十歳を超えたおじさん」


 ウィルが説明してくれた情報に、エマは補足と言葉を付け加える。


「部屋に引きこもっているようで、姿は一度も見たことないデス」

「全く働かず、親の脛かじり。社会のゴミだねっ!!」


 ウィルのさらなる補足情報に、エマも笑顔で上乗せと付け加え。

 エマは口が悪いというわけではないものの、良い意味で素直すぎる性格。おっとり天然系な印象も、発言は芯を食って毒舌な部分もあった。



 ***



「ここが地獄谷か。モクモクと立ち昇る煙に、鼻をつく硫黄の臭い。初めて来たけど、圧巻というか凄いな」


 体の休みに一日を丸ごと費やし、ほぼ万全と呼べるまで回復。登別と地獄谷周辺から脱出できぬと聞き、外へ繰り出しては全容把握へ探索。

 最初に訪れたのは、観光名所でもある地獄谷。入口となる場所には大きく、【登別地獄谷】と横文字で看板。遊歩道には転落防止の木柵あり、観光をしながら散策できる。


「地面はとても脆そうだから、登れそうにないわね」


 ハルノは地獄谷の山肌を見て、険しい顔をしていた。

 円形に窪んだ土地となるは、登別の地獄谷。元から谷は急な斜面と聞くも、地震の影響あって勾配は増したか。

 垂直とまでは言わずも、七十度はあろう角度。高層ビルと比較しても劣らぬ、二十メートル近くある高さ。山肌が露出して土は乾燥し、触れればボロボロと崩れそうなもの。無理に登ろうとすれば、滑落は避けられないだろう。土砂崩れが誘発される可能性もあり、なれば生き埋めになる危険も否定できない。


「地震の影響で、起きた土砂崩れか。こんな感じの山肌が、一帯を囲っているわけか」


 本来ならば山であった場所も、災害の影響で地形に変化。

 今では地獄谷のみならず、登別の観光地を囲む谷。出口ない釜底にいるようなもので、脱出は非常に困難という話だった。


「落ちた場所が柔らかい土の上だったから、運よく軽傷で済んだのね」


 ハルノは落下した当時のことを、思い出して振り返る。谷から転がり落ちた場は、花村荘の裏手となる道路上。主要な観光ホテルや施設ある所から外れ、一帯を見渡せる景観の良き高台。

 柔らかな土の上を転がり、山積した土砂の上に落下。直接アスファルトに衝突なれば、とても無事とはならなかったろう。最悪とよべる展開の中でも、運は一つ残った形だ。


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