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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第四章 新たな旅立ち(中)

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第217話 港ある街16

「足元に気をつけて。もう少しで、出口に着くはずです」


 全体をコンクリートで固められ、円形の形で伸びる地下水路。

 道案内と先頭を歩く渚は、進行方向を懐中電灯で照らす。続く老人に老婆をサポートしながら、市外となる出口へ向かっていた。


「お疲れさま。手を貸すわ」


 光の入るマンホールと地上にて、顔を覗かせているのはハルノ。先んじてマンホールの蓋を開け、出口となる周辺の安全を確認する役。待っていましたと、みんなに手を差し伸べている。

 ハルノと渚に三人で動き、すべて事前に下見済み。地下水路の中でも通る経路を決め、ロスなく最短で地上へ出られただろう。


「二人を頼む。俺も後ろから支えるよ」


 足腰の悪い二人を先に、サポートしての地上へ。

 二人にとって久方ぶりの遠出は、相当に大変なものだったろう。屍怪という脅威を恐れて、銀行の金庫内に引きこもり。加齢に加えて運動不足も重なり、筋力に体力低下は顕著だった。


「屍怪の姿も見えないし。少し休憩してから行こう」


 地下と暗く空気の悪い世界から、梯子を上って再び地上に。息の上がっている老婆と老人は、縁石に座って休んでいる。


「まさか、こんな大変な思いをするとわねっ!!」

「すまんのう。渚。苦労をかけて」


 酷使であると老婆は愚痴を吐き、老人は手を借りて謝罪していた。


「大丈夫だから。体を休めて」


 渚は特に気を病む必要ないと、心配り気遣いしていた。


「慌てずに、ゆっくりでいいぜ。周囲に屍怪はいないし。現れたとしても、俺たちが対処するからな」


 地下水路から出口と決めた所は、見通しの良き開けた場所。

 一本長く遠くへ続く国道に、光の灯らぬ静かな信号機。左手には緑の木々と自然があって、離れた所に海と海岸線。後方となる市内に建物は多くも、前方となればガソリンスタンドのみ。今もささやかに海風が吹いては、磯の匂いが周囲に漂ってくる。


「さすがに詳しいって、言うだけのことはあったよな。渚がいなければ、簡単な話じゃなかったぜ」


 地下水路は迷路のよう複雑な部分もあり、案内役をなくして行くは困難。目的地を定めたとて、容易にたどり着けなかっただろう。



 ***



「これは、なんと……」


 坂を登って民家の前へ着き、老人は驚きに言葉を失っている。


「俺たちも着いたのは、二日前なんですけど。ねっ!? 凄いでしょ!?」


 民家を含めた庭など敷地全体を囲むように、展開されるは数多の刺がついた有刺鉄線。二メートル以上の高さあり、身長を優に超えるは圧巻。

 初見にて驚きのリアクションは、想像をしていたところ。想定通りの反応なれば、自然と笑顔になってしまう。


「家の中にはメモがあって。自由に使って良いそうです」


 説明をしては間もなく、敷地内へ入る一家の三人。

 老人は目を輝かせ、家庭菜園の方向に。老婆は家内がどのような状況か、訝しそうな顔で拝見している。


「荷物も運んできたし。俺たちができるのは、このくらいで限界だ」


 自転車に荷を乗せて運んでは、最低限の物もあるだろう。

 敷地内の隅に、止めた自転車。瓦礫と廃材で足場の悪い海岸線より、津波被害の少ない内陸を走り戻ってきた。


「大丈夫。あとのことは、自分たちでなんとかするから」


 移動を終え向き合う少女の渚は、少し穏やかな表情となり言っていた。飲料水や安全な住処を確保できても、食料など多分に問題はあるだろう。

 それでも東京へ向かっているから、手を貸せるのはここまで。これから先のことは、自分たちで解決してもらう他ない。


「ありがとう。これからはワシらも、渚に負けずできることしよう。庭で野菜を育て、食料の確保。冬に向かうとなれば、とても忙しくなりそうじゃ」


 家庭菜園のある庭を見てから、老人の覇気は以前と別もの。積極的な発言に目は輝き、性格すら変わって思える。

 生きるだけの日々を送る祖父母に、渚が願っていた張りのある生活や生き甲斐。銀行から避難をしたことで、一つ目標を達成できたようだ。


「それじゃあ、俺たちは行くよ」


 避難を完了させたとなれば、また東京という目的地へ。


「渚。二人と元気でね」


 ハルノも別れ際に抱き合って、健康と安全を祈っていた。


「人はまだ信用できる証明。嫌っていた人間も、捨てたものではなかったですよね?」

「……ふん。そうかもね」


 見送りにきていたところで目が合い、老婆は恥ずかしそうに顔を逸らしていた。


「近く寄ったら、顔を出してね」


 渚はいつもローテンションで、小さく手を振り見送っている。


「ああ。元気でな」


 自転車に乗って手を振り返し、東京へ向かって出発。

 銀行の金庫内から移動し、市外の民家にて新生活。きっと三人で協力し合い、上手く生活を築けるはずだ。


「市外へ向かうだけでも、かなり厳しそうだったもの。函館へ向かうのは、とても無理だったと思うわ」


 今回における移動の大変さから、ハルノは当時の人たちの心中を考察する。

 『すまない』。とても苦しそうな顔をして、去っていく者たちの背中。終末の日から相応の時間を過ごし、元々は面倒見の良かった人たち。見送る側となった渚も、本意でないと恨みなど持ってはいなかった。


「無理をして連れて行っても、逆に苦しめるだけ。函館へ向かった人からして、やむを得ない決断か。余裕を失った終末世界が故に、悲しいすれ違いだったのかもしれないな」


 それでも残された側からすれば、見捨てられたと感じて不思議ないところ。

 とは言え一蓮托生と残っても、ゆっくりと締められる首。全員が救われる完璧な答えなく、都合の良い綺麗事を並べられない。正論を理解しても正確なく、優しさ思いやりで救えぬ現実があった。


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