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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第四章 新たな旅立ち(中)

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第209話 港ある街8

「婆ちゃん。爺ちゃん。さっきの人たち。話があるっていうから、もう一度だけ機会を設けさせてよ」


 金庫室前にて待たされる中で、渚は先んじて説得にあたる。

 先ほどのよう激情に駆られては、ヒステリックで話にならならい。まずは何より落ち着いて話せる場を、整えてもらうことが寛容だった。


「はぁ。少しだけなら、なんとか良いって」


 ゲッソリ疲弊して見える渚の顔から、説得の困難具合が見て取れる。

 ヒステリックとなった老婆の口撃は、まさに弾切れのないマシンガン。それでもハルノが言うに、渚は落ち着いたダウナー系。他人の心境にも影響を与えたようで、上手く了承を得て戻ってきた。


「何さね。話しがあるなら、早く言っとくれ」


 言葉こそ高圧的なものの、老婆は落ち着きある態度。

 声を荒げ感情を昂らせるにも、相応のエネルギーが必要。直前にて大きく発散させたこと、図らずして功を奏したのかもしれない。


「渚君から話を聞きました。今に至る経緯も、街に物資が乏しいことも」


 本題へ移る前の前置きを、黙って静かに聞く姿勢。

 老婆に老人も訝しい顔で、眉一つ動かさぬ対応。人を信じぬ疑いの眼差しを、ずっと向けられている感覚だった。


「苫小牧から市外へ離れて、三十分ほどの場所。敷地を鉄柵に囲まれ、家庭菜園ができる庭。飲み水も確保できている、比較的に安全な民家があるんです」


 金庫室にはないもの全て、昨日までの家にならある。

 渚の祖父母はともに、家庭菜園が趣味。敷地内でもできること増え、今より充実した生活が送れるはず。


「……だから、何だっていうんだい?」


 声のトーンを低く探るように、懐疑的な目を向ける老婆。

 話の前置きから先の提案は、きっと読めているだろう。それでも決定的な発言を、引き出そうとしているよう思えた。


「俺たちも協力をしますから、その民家まで移動をしませんか? 移動をすればきっと、今より良い生活ができると思うんですっ!!」


 駆け引きをする必要性なければ、偽りなき直球を投げて本題。相手の顔色に左右される話など、最初から持ってきてはいない。


「……渚っ!! なんだいっ!? コイツはっ!? どういう意図で言ってんだいっ!?」


 提案を不思議に全く読めぬと、老婆は声を荒らげ問い詰めた。

 側から見れば一方的に負担を背負い、渚と祖父母にメリットの多い話。見返りなくして老婆には、何か裏があると疑いを持ったのだ。


「俺たちは屍怪に襲われ危ないところを、渚君の助言で逃げ助けられました。だからその、恩返しというか。街を出たほうが安全に過ごせると思って、協力しようとしただけなんですっ!!」


 手を貸す理由が知りたいなら、ありのまま真実を伝えよう。

 できる限り屍怪との距離を遠く、できる限り人間らしい生活を。ただその一点だけを考え、提案した次第である。


「今のワシらの人生はもう、暗いトンネルを進むようなもの。何をしたって、お先真っ暗なんじゃ」


 行動を起こす前に最初から、老人は全てに悲観的な考え。

 終末の日から屍怪が出現し、家族とも離ればなれ。大きく文明が後退した世界で、頼りにしていた者からの裏切り。暗い気持ちになってしまうのも、理解の及ばぬところではない。


「それでも暗いトンネルだって、光で照らせば進める。未来は確定していなければ、百パーセントの希望。百パーセントの絶望だって、きっと存在しない。あとは本人がどう考え、動くかって話のはずだっ!!」


 顔を下に向けていては、決して見えない世界。確定した過去は変えられずとも、未来は自らの行動で変えられる。

 しかし全て諦めてしまえば、あとは時に流されるのみ。何を思い考えていても、行動なくして変化はない。


「キッー!! 勝手なことはがり言いよってっ! そもそも人間の社会に、光なんてあるわけないっ!! あるのは嘘や無慈悲!! どうせ危険を感じたら、ワタシらを切り捨て逃げるのさっ!! ありもしない希望を、持たせるような発言は控えておくれっ!!」


 老婆は立ち上がり感情を激しく、鬼の形相で反論してきた。

 人間を嫌い不信になったところ、簡単に思考を切り替えられずか。それでも頭ごなしに全否定されては、まともに話をすることすら難しい。


「俺は嘘をついてないし!! 逃げたりもしねぇよ!! どうしたら信じてくれるんだよっ!?」


 たしかに数多いる人間の中には、嘘をつき無慈悲な者もいるだろう。

 しかし全ての人間が決して、悪い人物というわけではない。終末の日から札幌のシェルターに、同心北高校や陵王高校。そして直近では新千歳空港にて、出会った多くの人々。全て関わりあった人がいなければ、ここまでたどり着けなかっただろう。


「そうさねっ!! それなら、銀婚式に貰ったプレゼント!! 思い出のオルゴールを持ち帰ったら、アンタらを信用しようじゃないかっ!!」


 互いに声が大きくなる中で、老婆が提示する条件。

 門前払いであった扉を前に、微かに生まれた隙間。開いて信用を勝ち取るには、条件をクリアする他ない。


「いいぜっ! やってやるよっ! その代わりオルゴールを持ち帰ったら、人はまだ信用できる証明。俺たちと一緒に、民家まで避難してもらうからなっ!」


 売り言葉に買い言葉と、即座に条件を受ける決断。

 根底から人は信用できぬと、啖呵を切り続ける老婆。それは今まで出会った人たちを、馬鹿にされている印象。決して許すことできず、検討すら不用の決断だった。


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