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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第四章 新たな旅立ち(中)

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第205話 港ある街4

「懐中電灯を持ってきて、正解だったわね」


 一足早く底へ着いたハルノは、懐中電灯で周囲を照らしている。

 マンホールの蓋を閉じれば、光の届かぬ暗き地下世界。明かりを無くして前も後も、自分の姿さえ見えなかっただろう。


「ハルノ。所持品は?」


 地下の水路に足を着けたところで、問うのは持ち物と所有物。


「ナイフと銃を除けば、この懐中電灯だけよ」


 ハルノが所有する物は基本的に、常態化して身につけていた物。護身用としてのサバイバルナイフに、一般人では入手の厳しいハンドガン。

 ハンドガンは新千歳空港を出発するとき、餞別品と自衛隊員から譲り受けた物だ。


「そういう蓮夜は、どうなの?」

「時間がなかったからな。俺もこの刀だけだ」


 質問返しとハルノに聞かれるも、持ってきたのは背負う黒夜刀のみ。黒色の鞘には銀で二本線が走り、ソーラーシートが埋め込まれる。抜き差し口となる場所では、台形状に厚みある機械装置。迫力ある獅子の姿が描かれ、発熱機能と蓄電機能を有す。短時間であれば漆黒の刃を、赤く高熱を宿せる特異な刀だ。

 東京を目指すため、準備万端だった荷物。弾薬に限りあるハンドガンは、万が一の使用と補助武器。ハルノに至っては主武器である、コンパウンドボウも地上に。他にも水や食料と多くを失い、唐突に心許ない装備となってしまった。


「どこまで続いているのかしら?」


 懐中電灯を持つハルノは、全体把握のため周囲を照らす。

 地上から十メートル近くは、降りてきただろう地下水路。意外にも広く二人で揃い並んでも、余裕あり頭上も圧迫感ない造り。円形の形をしてコンクリートで固められ、行く先は吸い込まれそうな暗闇が続く。


「わからないけど。必ずどこかに、出口はあるはずだ」


 地下へ降りてきたからには、地上へ昇れる場所もある。

 閉鎖的で僅かに水臭さあり、暗く光の届かぬ地下水路。現状を打開するにはまず、出口を探さねばならない。



 ***



「蓮夜。前から光」


 出口を探し歩き始めたところ、前方の異変にハルノは言う。


「ハルノ。念のため、警戒を忘れず行こうぜ」


 光が何度も上下左右に揺れては、相手が持つのも懐中電灯か。こちらへ向かってきているようで、人が近づいて来るのは明らかだった。


「了解」


 緊張感ある面持ちでハルノは応え、警戒心を持って身構える姿勢。

 相手が生者といっても、良い人とは限らない。暴力的であったり、物取りであったり。どんな目的で近づいてくるのか、わからねば気を許せぬ話。


「良かったね。上手く逃げ切れて」


 懐中電灯を片手に現れたのは、某メジャー球団の赤い帽子を被った少年か。身長は百五十センチほどで、全体的に細身であり小柄。

 テンション低めな対応をする中でも、幼さある声は高めな印象。長袖で無地の黒色パーカーに、膝上丈でベージュ色の短パンを着用している。


「えっーと。声を上げてくれたのは、……君?」


 事情を知っているとなれば、助言をくれたのは彼だろう。

 現れたのが大人ではなく、子どもであったことに驚き。それでも少年の声がなければ、退路に気づかなかった可能性。となればもしかしたら、最悪の事態になっていたかもしれない。


「ビルの高い位置から、全て見ていたんだ。見つけたのは偶然だから、運が良かったね」


 常にテンションを低く対応するから、少年からは気怠そうな印象を受ける。

 それでも声を上げてくれたのは、やはりこの少年。屍怪に追われアドバイスから、命の恩人であるに違いはない。


「何はともあれ、まずはありがとう。叫びがなければ、気づかなかったかもだし。声を上げてくれ、助かったぜ」


 大きな声を発することは、当然に高いリスク。屍怪は音にも集まってくるから、できる限り避けたい話だろう。

 それでも大きな声で叫び、マンホールと逃げ道を示した少年。窮地を助けられた身として、最初に感謝の意を伝えたい。


「いいよ。別に。ただ、見捨てられなかっただけだから」


 暗く互いに顔が見え難い中でも、少年は常にテンションが低い。

 己が身にリスクを背負って、他人を助けるという行為。それは終末の日から、以前までの世界でも。簡単に思えても実行するとなれば、とても容易にできるものではない。


「こんな水路にまで、迎えに来てくれたの?」


 次にハルノが問いかけるは、地下水路を訪れた理由。

 偶然に訪れたとは、考え難い場所。意図して来なければ、たどり着ける場でもない。


「声をかけた手前。放っておくのは、気がかりだったから。それに苫小牧は長いから、地上も地下も詳しいんだ」


 少年は苫小牧に住み長いようで、土地勘あれば色々と詳しい様子。

 マンホールの蓋が開いていたのは、地下水路の使用に意図してとのこと。閉じていれば内から開けること難しく、意図的にズラしていたらしい。


「それより二人とも、見ない顔だけど。こんな何もない場所を、なぜウロチョロしていたのさ?」


 地下水路を歩き先頭を行く少年から、唐突に投げかけられた質問。


「俺たちは東京を目指して、旅をしているんだ。苫小牧に寄ったのは、船が使えないかと思って」


 終末の日から屍怪が現れ、すでに半年ほど経過。生存者は人口の少ない地方に引き篭もるか、コミュニティを作り共同生活をしているか。どちらにせよ旅をしている者など、ごく僅かなレアケースだろう。


「ははっ。正気? あんたら、何も知らないんだね」


 説明をしたところでなぜか、少年に鼻で笑われてしまう。

 東京を目指すこと、無謀との判断か。それでも知らないというのは、一体全体どういうことであろうか。


「着いたよ。ここが出口」


 梯子を前に少年は頭上を見上げ、円形の空に入ってくる光。

 少年に続いて梯子を上り、マンホールから地上。出た場所は苫小牧駅北口の通りと、駅前大通りから裏手となる所。線路は挟み四百メートルほど前方には、先ほどまでの高層ビルが変わらず見える。


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