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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第四章 新たな旅立ち(中)

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第201話 分身の術

「休むにしては、少し早かったかな?」


 日がまだ高い位置にあっては、まだ先へ進めそうな時間帯。

 自転車がパンクをして、予期せぬトラブルはあった。それでも問題を解決済みなれば、先へ進むに障害はすでにない。


「地図を見て。苫小牧市まで、もうそう遠くないわ。大きな街だから、先読みも難しくなると思うの」


 ハルノは地図を広げて示し、考えられる問題点。

 街の人口比率に応じて、屍怪は増える傾向。苫小牧市は北海道でも、五指に入る大きな市。札幌と比較しては断然少なくも、岩見沢よりは間違いなく多い。


「苫小牧クラスなら、屍怪がいる可能性は高いもんな」


 大きな街へ入るとなれば、人一倍の警戒が必要。 

 屍怪と化した者いれば、常に命の危険性。田舎にいるよりきっと、神経を擦り減らすことになる。


「寝床の確保も、きっと大変よ。今日まで二日も続けて、バスで座って眠ったのよ。落ち着ける環境で、久しぶりに足を伸ばしたいじゃない」


 発言をしたハルノからは、本音が見え隠れする。

 目的地を急ぎ目指すよりも、まずは目先の睡眠。たしかにバスに座っての就寝は、疲れが残りそうな環境だった。


 俺は大丈夫だったけど。疲れを残したら、パフォーマンスを落としそうだしな。


 どこでも眠れる能力なければ、比較して一般的な感性のハルノ。

 現在の民家は有刺鉄線に囲まれ、警戒を薄く眠れる環境。先へ進んでも今以上を求めるは、間違いなく難しいだろう。ならば少し早くとも、心身を考え休みでよいと思った。



 ***



「ねぇ。分身って記憶の共有はしていないの? 本体が知っていることを、分身は知らない。逆もまた然りなら二人は、別の人間といえるんじゃないかしら?」


 コミックス『忍者の魂』を読むハルノは、使用される忍術に疑問を呈している。

 有刺鉄線に囲まれる民家にて、自転車の修理を経て一泊の予定。珍しく時間的な余裕ができ、二階の本棚にて見つけたコミック。週刊少年ショックに連載される、七十巻を超える大作。愛読するところの作品であれば、試しにとオススメしたのだ。


「どうだろうな? でも二人は同じ目的で戦い、倒されれば一人の体に戻るぜ?」


 忍者の魂に出てくるのは、メジャーといえる分身の術。

 主人公が戦闘時に使用するため、頻繁に出てくる得意な術。体を二つに分けて、各々に考えを持ち動くのだ。


「基本的に倒されているのは、いつも分身の方よね? 本体が先に倒されたなら、分身の方はどうなるのかしら?」


 忍者の魂を読むハルノは独自の視点で、設定につき突き詰めを行う。

 作品にハマり没入するほど、詳細を解こうとするは読者の心理。すでに思考が解読の境地に至っては、ハルノもすっかり愛読者といえるだろう。


「普通に考えれば、消えるんじゃないか? 本体が倒されて、残る道理はないだろ」


 術者が倒されれば、術が解けるは当然。本体が倒れれば、分身が消えるは普通。


「でも、戦闘シーンでこの描写。主人公は右側に立って、分身は左側で構えている。手裏剣が飛んできて倒されているのは、右側にいる主人公で本体よ」


 ハルノが指摘するところを見れば、たしかに本体が倒されている印象。

 そして倒された本体は、分身へ戻り一つの体に。以降は一人の忍者として、普通に戦いへ戻っている。


「あくまで創作上の物語だから、配置や作画のミスとか? まあどうなっても、主人公が倒されるわけにはいかないだろ」


 以降の戦闘シーンを見返しても、先に倒れているは分身。たった一度の話ならば、差ほど気にするところでもない。


「それより、こう考えるほうが普通じゃない? 分身の術を使ってから戻るまでは、どちらも本体。それならどちらか先に倒れても、残ったほうが意志を引き継げるわ」


 ハルノが考察するところは、筋が通り面白いところ。

 しかし本体が倒れているのに、分身が消えぬとは外道。それはもはや分身の術にあらず、分裂と言って相違ない。



 ***



「こちら函館山展望台!! こちら函館山展望台!! 現在の函館山には、多数の生存者ありっ!!」


 忍者の魂と読書を楽しんでいたところ、唐突に響くは軽快な女性の声。


「なんだっ!?」


 予期せず慌てる事態なれば、本を閉じて周囲の確認。

 驚きよりも何より、最初に持つのは警戒心。終末の日よりサプライズは、悪いことのほうが多い。


「ラジオよっ!! ラジオっ!! 付けっぱなしだったみたいっ!!」


 テーブルの上に視線を飛ばし、ハルノは声の発生源を特定する。

 砂嵐も聞こえぬ周波数なれば、無音と気にならなかったところ。電源を落とさず放置していたようで、今になって電波を受信したようだ。


「助けてもらいたい人も、助けてくれる人もっ!! みんな函館山に集合!!」


 まるで番組の企画か何かよう、明るい声にてラジオは切れた。


「なんか少し、……馬鹿っぽかったわね」


 あまりに素直な感想を言うハルノは、珍しく歯に衣着せぬ物言い。


「でもだからか、悪意は感じられなかったな」


 アイドルが放送をするよう重さなく、ラジオを流す目的も掴めない。

 それでも生存者がいて、集まっている兆し。ラジオを放送できるほど、文明が回復している現実。大規模な人々で生活をしているなら、新しい社会の形が形成されているかもしれない。


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