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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第四章 新たな旅立ち(中)

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第200話 メッセージ

【我が家を訪れた人へ。私たち一家は新天地を目指し出発するため、家は自由に使ってくれて構いません。野菜が生育しているかわかりませんが、大きくなっていたら収穫もどうぞ。玄関とは反対方向となる側面には、汲み取り式のポンプがあります。汲み上げれば地下水を、飲むことができるでしょう】


 家主と思われる人物から、記されたメッセージ。何者かが家を訪ねて来ること想定し、意図して残された書き置き。


「これだけ厳重な対策があれば、屍怪を十分に防げていたはずだけど。それに水もあるっていうし。かなり恵まれた環境を、なんで放棄したんだ?」


 安全地帯と呼べる場所は、少なくなった終末世界。

 地下から飲料水の確保ができており、有刺鉄線により守られる敷地。これだけ恵まれている環境を捨てるなど、思い切った行動で不可解にすら思える。


「メッセージには続きがあるわ。疑問についての答えは、先に書かれているかも」


 ハルノは手帳を次のページは捲り、家主のメッセージは続く。


「私たち家族が家を捨てる決断をした理由は、大きく分けて二つです。一つは日々を生きるための、食料が完全に不足していたこと」


 家主の記した大きな問題点は、終末の日から誰しもぶつかるもの。

 終末の日から望まなくとも、強制参加のサバイバル。以前までの物流という概念なければ、日々の食料は自ら確保しなければならない。


「二つ目はラジオから、流れてきたメッセージ。函館山に生存者がいると知り、向かうことに決めたからです」


 家主が行動を起こすに、決め手となった出来事。

 函館山には夜景を見渡すため、ロープウェイや展望台。他にも隣となる場所に、テレビやラジオの電波を飛ばす送信所がある。


「ラジオって、これか」


 ちゃぶ台の横に置かれているは、アンテナの付いたオレンジ色の機械。


「太陽光と手回しで、充電できるらしいわ。この上ない親切ね。わざわざ残していったみたい」


 ハルノはメモ帳を読み、補足情報を口にする。終末の日から車や電子機器など、修理なくして基本は動かぬ世界。

 ソーラーパネルが上部にあって、横には回転式のレバー。訪ねてきた者もラジオを聴き、情報を入手しろと促しているようだ。


「ダメだな。どことも繋がっていない」


 しかしスイッチを入れ、周波数を合わせても。聴こえてくるのは砂嵐音と、何も音なき無音の世界。

 家主が聞いたとされるメッセージは、どこを彷徨い飛び交っているのか。何度か試しても努力の甲斐なく、音声は一度も受信できなかった。



 ***



「何はともあれ、自転車の修理だな」


 目先の問題を解決しようと思い、立ち上がったタイミング。


「少し早い気もするけど。今日はここまでにする?」


 時期尚早に思える時間であるから、ハルノは確認の意味も込め問うてきた。


「そうだな。この家なら警戒とかで、神経を使わなくて済みそうだし」


 終末の日から日常生活において、気を緩められる場所は少ない。

 食事にしろ、トイレしろ、睡眠にしろ。常に屍怪の存在を意識しては、一定の緊張感を持ち過ごしている。


「決まりね。なら蓮夜は、自転車の修理。野菜を使っていいって話だから、私は収穫して食事の準備をするわ」


 ハルノは家庭菜園へ向かって動き、縁側前へ自転車を移動させ修理を始める。

 メモ帳に書かれていた通り家の側面には、赤い汲み取り式のポンプ。上下に押し引きを繰り返し、バケツに注がれていく地下水。


「地下から吸い上げているから、それなりに冷たいな」


 手に触れて感じる温度に、納得感と気持ち良さ。混じりっ気なく澄んだ水は、己が顔すら映す透明感。

 他者は童顔と言われる、お馴染みの顔立ち。染めずして茶色味ある地毛の髪に、頑なに跳ね続けているトップのアンテナ。立ち上がれば紺色のカーディガンと、ベージュのパンツまで映っている。


「これでパンク場所が、判別できればよいけど」


 チューブを水中に沈めて見れば、プクプクと浮き上がってくる気泡。

 となればパンク場所など、一目瞭然なもの。修理キットを使用し即座に、穴を塞ぐ行動に着手した。


「ふぅ。これで良さそうだな」


 穴が塞がれば空気は微塵も抜けず、パンパンに張りを取り戻したタイヤ。

 修理に要した時間は、一時間ほどと及第点。対策と教えが活きたことにより、自転車は走れる状態に回復した。


「トウモロコシを茹でたの。蓮夜も食べるでしょ?」


 早くも収穫した実りを、調理したというハルノ。

 鍋にて湯を沸かしては、トウモロコシを投入。塩を少し混ぜて、ほんのり味付け。定番かつシンプルで、王道をいく食べ方の一つだ。


「ああ。すぐに手を洗ってくるよ」


 修理に際して使用した軍手を脱ぎ、庭を前にした縁側へ戻って着席。

 ハルノが持ってくるトウモロコシは、黄色と白の粒が金色に光る美しさ。弾けんばかりに張りがあり、全てが凝縮し詰められている感じ。


「うまっ!! 甘さから食感まで、全て段違いだぜっ!!」


 歯を突き立ててれば粒が弾け、溢れでるは脳を至福へ導くもの。

 舌を通じ伝わってくる甘さに、鼻腔を通って感じる匂い。久方ぶりの鮮度あるトウモロコシは、視覚から味覚に嗅覚と五感を刺激。美味しい物を食べるというのは、人間の根底にある幸せの一つだ。


「残していってくれた家主に、心から感謝ね。新鮮な野菜を食べられる機会なんて、終末の日から滅多にないもの」


 食事を進める中でもハルノは、ありがたみと礼節を忘れない。

 主食が即席のカップ麺や缶詰と、幅の狭まっていた今日この頃。鮮度を保つ必要性ある生鮮食品は悲しくも、肉類から魚類や野菜と全てレア物になった現状だ。


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