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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第四章 新たな旅立ち(上)

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第197話 空の玄関口58

「屍怪が行進して来る前って、どんな話をしていたかしら?」


 折りたたみ椅子に座るハルノは、しみじみ出来事を振り返っていた。

 時刻はすでに夜へ向かいつつ、空も暗く陰り始めた頃。折りたたみ椅子を五席で、円形に囲むよう配置。中央には薪が積まれ、焚き火がユラユラと燃える。時おり聞こえるはパチパチと、耳に心地よい木の弾ける音。今まであった緊張感は完全に解かれ、とてもリラックスできる環境だった。


「屍怪が行進して来る前って、地震が起きていたよな?」


 ほんの数時間前の事であるのに、遠くに感じられる出来事。今日という一日はとても様々なことがあり、どこを切り抜いても凝縮された濃密な時間。

 時間を前へ遡るほど、曖昧になっても仕方ない。


「上村隊長は大きな地震を二度も経過しているから、多少のことでは取り乱し動揺しないって話よ」


 隣で焚き火を見つめるサチは、淡々とした口調で変わらずクール。

 焚き火を囲むのは時計回りに、サチからフレッドに上村隊長とハルノ。現在地はキャンプ地の中でも、自衛隊が拠点とする場所だ。


「そうだ。上村隊長は道央地震を経験しているって言うから、ヤマトを知っているかと思ったんだ」


 陵王高校にて過ごしているとき、出会った一人の仲間。

 青年自衛官ヤマトは就職つき、道を定めるに至った契機。道央地震という災害は、人生でも最大クラスの分岐点だったと言う。


「誰だ? そのヤマトって?」


 当然に何も知らないフレッドは、人物像を把握しようと問う。

 懐かしきは我が学び舎と、避難所になった陵王高校。ヤマトを含む自衛官三人が主軸となり、日々の生活を送っているはずだ。


「ほぉ。ヤマトか。懐かしいなぁ。以前に千歳基地で、会って以来か。今も無事に、元気でやっているのか?」


 深く説明せずとも名前のみで、心当たりありそうな上村隊長。

 何を隠そう道央地震において、ヤマト少年を助けた人物こそ上村隊長。ヤマトが自衛官になってから再会し、終末の日まで交流はあったらしい。


「なるほど。自衛官としての役目を果たすため、陵王高校を離れられないか。真面目なヤマトらしいなぁ」


 思考や性格を知る上村隊長は、期待通りと笑顔を浮かべていた。


「あっ!! そのヤマトって名前!! どこかで聞いたと思ったら、あの時かっ!!」


 偶然にも通りがかった自衛隊員は、引っ掛かりを覚えたようで声を上げた。

 焚き火を五人で囲んでいるも、自衛隊が拠点とするキャンプ地。時おり背後で動く自衛隊員いれば、自然と耳に入ってしまうのも無理はない。


「何か問題でも?」

「いえ、その以前。フードコートにいた男から、ヤマトという自衛官がいないかと。他の隊員も含め、何度か尋ねられたんです」


 間を置かぬ上村隊長の問いかけに、率直に応える自衛隊員。

 フードコートにいた男とは、娯楽に囲碁を教えていた人物。見た目の年齢は、五・六十代ほどで白髪。暗めの紫色ベースをしたスーツに、縦縞が何本も入った服装。常に煙草を所持しており、周囲と一度は温度が違う異質さ。鋭さあり危うさが同居している雰囲気から、堅気の人間ではなく筋者との噂が流れていたらしい。


「俺が聞いた話では、ヤマトの家族は祖母のみ。他の家族は道央地震で、亡くなったって話だから。祖父とかではないはずだぜ」


 考えたところで情報は少なく、実体はとても掴めなかった。

 同行者に若い女性が一人いたと聞くも、新千歳空港へ来る前に出発済みとの話。なぜヤマトを探していたのか、その本質に迫ることは叶わず。一つ小さな疑問として、胸中に残ってしまった。



 ***



 太陽は高くなり朝食を終え、時刻にてして午前九時頃。

 キャンプ地に張ったテントは片付けられ、牧場から離れるための荷造り。区切りがついたところで、墓前に多くの人が集まった。


「亡くなった方々は犠牲ではなく、我々を守った英雄です」


 弔いの言葉を述べる山際所長に、感銘を受けて涙を流す者も。墓前には牧場の近くで摘んだ、黄色と白の名もわからぬ野花。

 集まった人々は亡くなった者たちの死を悼み、墓前で手を合わせ静かに黙祷。新たな旅立ちを前にして、等しく無念と感謝を伝えていた。


「俺たちはもう行くよ。ここまで送ってくれて、サンキューなフレッド」


 新千歳空港をジープで迂回し、苫小牧方面となる国道にて。

 ジープから降ろされるは、ご愛用のツーリング自転車。青とオレンジのフォルム二台は、自衛隊員が騒動を機に確保していた。


「……蓮夜。ジョシュは最後に、何か言っていたか?」


 フレッドは最後の機会となり、別れを前に問うてきた。

 ジョシュと二人で話していたことは、現場にいた者を含めフレッドも知っている。仲間であり友人でもあったことから、会話の内容に興味があるようだ。


「フレッドは誰より仲間思いと言って、とても信頼している感じだったぜ」


 いつもの癖あるラップ口調ではなく、悠長な日本語で伝えられた言葉。

 故にとても真剣であり、本音を語る雰囲気。ジョシュのフレッドに対する気持ちは、肌身に伝わる場面だった。


「そうか。なら、もういいんだ」


 フレッドは首を上下に頷き、振り返って背を向けた。

 僅かに揺れ続ける肩に、震えて聞こえた声。フレッドの悲しみは背中から、ひしひしと伝わってくる。


「サチもありがとう。今日までたくさん、語れないほど助けられたわ」

「こちらこそよ。蓮夜と二人で、これからも頑張って」


 ハルノとサチは別れに際して、肩を寄せ合いハグをしていた。


「無事を祈っているわ」

「こちらこそ。……みんなとお元気でっ!!」


 続きサチから手を差し伸べられ、名残惜しくも握手を交わし出発。

 先を見据えればまたも、果てしなく続く長い道。それでも向かうべきは東京と、決意を新たにしてペダルを踏み出した。


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