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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第四章 新たな旅立ち(上)

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第195話 空の玄関口56

 自衛隊に自警団と避難者たちは、今日一日のみ体を休める休息日。

 居住地である新千歳空港を失い、仲間を失った者も当然に多い。明日から千歳市郊外のホテルへ向かうため、心身を休ませ英気を養う一日だ。


「何をしているんですか?」


 キャンプ地から人のいない所へ僅かに離れ、青々とした牧草が生える放牧地にて。

 スコップを使用し何度も、土を掘り起こす者あり。会談に立ち会っていただろう、五十歳ほどの見た目をした男性。


「自衛隊に自警団の人たちは、みんなの事を考え忙しいはずだからね。余裕があるわけではないから、仕方ない話なんだろうけど。人の気持ちって言うのは、いつも前を向いているわけじゃない。今回の一件では、仲間や友人。それに家族を失った人もいるから、控えめにも弔ったほうがいいと思ったんだ」


 男性が一人で作っていたのは、死者を悼むための墓標。

 そこに遺骨や遺品がなくとも、残された者の気持ちを整理させるため。弔いは一つの区切りとなり、前を向くために必要な行為。死者のためでもあり生者のために、急造でも墓を掘っていたのだ。


「そういうことなら、俺も手伝いますよ。何をすればいいですか?」


 言われたことに共感しては、スコップを借りて助力へ。

 墓を掘る中で気づけば、自然に加わってくる人々。家族や知人に友人の死を弔うならば、積極的に参加する姿勢は年齢性別を問わず。土をならし平らにした場所にて、木版に故人の名を書き墓標を建てた。


「なんだかんだで、結構な人数が亡くなったんだな」


 ある程度の犠牲は避けられないと理解していたものの、建てられた墓標の数に突きつけられる現実。

 自衛隊員や自警団員が七割を占めるも、民間人にも避けられなかった犠牲。屍怪の行進は新千歳空港を襲撃し、実に六十二名の命を奪ったのだ。


「山際所長が協力関係を、提案する理由の一つね」


 ハルノが持ち出した話しは、会談にて言われていたこと。

 自衛隊と自警団は今回の一件により、人員に武器と住処まで失い損失は甚大。今や両組織を合わせて五十名以下まで減り、権力闘争と互いに反発している場合でない。


「互いに反目し合っていたら、みんなを守る以前の問題だもんな」


 自衛隊と自警団の五十以下という人数に対し、非武装の民家人は二百五十近くいる。

 両組織とも今までは、倍近くいた人数。数が減ればそれだけ負担は大きく、できることも自然と限られてしまう。


「必要なのは、人の数という力。話が上手くまとまって、一緒に歩けたら良いのにな」


 互いに窮地を乗り越えたからこそ、新たに気づき見出せたこともある。

 アルバートが死に際に言ったことこそ、最たる例で大きな可能性。武器や立場という力を、互いに放棄し一度は平らに。同じ目線で物事を見られたなら、一緒に過ごす新たな未来を想像できるはすだ。



 ***



「その一緒に歩くって話。大枠では、もう決まりそうだ」


 墓前にて人々が手を合わす中、背後を歩いてくるのはフレッド。


「フレッド!! ってことは処分について、話し合いは終わったのかよっ!?」


 当事者に関係者と決定権を持つ者を集め、レストランにて行われていた再びの会談。

 フレッドが目の前にいるということは、話が終わったということ。それは処分についての決定も、下されたということなる。


「ふん。蓮夜や隊員の何人かが、余計なことを言ったみたいだからか。話が大きくなって、大変だったさ」


 フレッドが語るはレストランでの、会談内容と話の顛末。


「事態が発生していなければ、裁く道理は存在しない。山際所長がそう主張して、誰も裁かれることはなくなった」


 フレッドが話す処分の内容は、天地をひっくり返すよう一転していた。本来テロやクーデターは起こらずとも、計画していた段階で罪に問われるもの。


「そんな話の決定で、みんな納得したのかよ?」


 自衛隊側はともかく、問題は自警団側。反目する関係にあったため、簡単には承服しなさそうなところ。


「納得していたとは思えない。小言で未遂だって罪。そう言っていた者もいた。それでも山際所長が御し、場を納めていたんだ」


 フレッドが語る会談の映像は、頭の中で想像できる。

 未遂だって罪というのも、心情はもちろん。法規的に見ても、筋は通っているのだ。


「それでもクーデターに関係していた者は、上村隊長の命令で謹慎処分になると思う。騒動を起こそうとしたことは、事実として揺るがない。追放されなかっただけ、御の字とありがたい話さ」


 両組織としての裁きなくとも、自衛隊としての処分とフレッド。

 上村隊長が関係者に対し、下した謹慎処分。一つ事態を収拾するため、ケジメと落とし所を示した形だ。


「なぁフレッド。なんで上村隊長に、最初から相談しなかったんだよ?」


 兼ねてから抱いていたのは、トップに話を通さぬところ。

 自衛隊トップとなるは、経験豊富な上村隊長。相談すれば何かしらの知恵を、授けてくれても不思議はない。


「上村隊長は自衛隊と自警団。二つの組織を繋ぐ、架け橋となれる人だ。そんな人をオレたちが原因の騒動に、巻き込むわけにはいかない」


 フレッドは負い目を一手に、黙って引き受ける覚悟だった。

 全ては上村隊長を信じ、責任を果たすため。言えば渦中の人間になるため、話すことを躊躇したらしい。


「山際所長もきっと、先の関係を考え決めたんだろうな」


 ともに多くの人材を失い、立て直しを図る両組織。頭を下げた自衛隊員たちを無下に、断罪しては関係改善も難しいか。

 それでも上村隊長が下した処分により、罪には罰をと体裁も守られる。今回の一件は良い塩梅での落とし所と、一応の決着と幕引きになったようだ。


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