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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第四章 新たな旅立ち(上)

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第193話 空の玄関口54

「ここからはお互いに嘘なく、文字通り腹を割って話をしましょう。フレッドさん。単刀直入に聞きます。あなたは自衛隊員を扇動し、クーデターを起こそうとしていましたか?」


 山際所長は兼ねてからの疑問を、ついに口へ出し直接の追求をした。


「……だったら、なんだって言うんだ」


 最初の言葉に間が生まれるも、フレッドはあくまで頑なな姿勢。

 自衛隊員の座る方向へ視線を向けては、顔色を変えて目を泳がす者が二名。他にも体を揺らし貧乏ゆすりと、明らかに態度へ出ている者が一名。少なくとも三名ほど、関与している雰囲気が出ていた。


「同じ空間で同じ時間を生きる以上、治安と秩序の維持は大前提です。何かにつけて不満あれば、すぐに実力行使と暴力に訴える者。そのような考えを持つ人は、とても容認できぬという話です」


 山際所長は新千歳空港で過ごすときから、人々の命運を握る存在といって過言はない。人の上に立つ者なれば、側から見れば羨ましいもの。

 しかしその実を見てみれば、問われるのは上に立つ資質。人々の声に耳を傾ける柔軟性に、ときには大体であれと行動力。他にも決定権を持ち責任あれば、負担は人並み以上だったはずだ。


「上村隊長。以前に話していた通りです。暴力で事を訴えるなど、決して許されず言語道断。断固とした処分を求めるつもりですが、問題はないですか?」


 そんな山際所長が何より赴きを置いたのは、人々を安心させるため治安と秩序の維持。

 犯した罪には、揺るがぬ罰を。終末の日まで活きていた法律ならば、クーデター計画は内乱罪と言ったところか。


「具体的には、どのような処分を?」


 上村隊長は罰に対し異議なくとも、その内容につき確認を求める。

 自衛隊と自警団が対立しようとも、トップ同士に連携はあった関係。今にして思えば初めに、斡旋された見回りや調達。繋がりあった様子は、随所で確認できただろう。


「そうですね。またクーデターを計画されては、溜まったものではありません。関わった者にも、もちろん。首謀者ともなれば、より重い罰を。追放は免れないでしょう」


 山際所長が突きつける処分は、中々に重くシビアなもの。

 屍怪が存在する世界において、安全と呼べる場所は少ない。そして一人で生きるとなれば、共同体で過ごす以上の大変さ。寝床はもちろん食料確保など、多分の苦労を背負うことになる。


「何も、そこまでしなくても。もう少し、なんとかなりませんか?」


 上村隊長は下手に出る対応で、処分の減刑を求めている。

 直属の部下ともなれば、守らねばならぬ立場。事が大きくなっただけに、無罪とはいかずとも。互いに納得のできる、妥協点を探しているようだ。


「ふん。その程度か。それで気が済むのなら、甘んじて受けさせてもらう。ただし、計画したのは一人だ。罪は全て、オレ一人にある」


 しかしフレッドは擁護の甲斐も無く、素直に処分を受け入れる姿勢。それどころか一人で全てを背負い、仲間を守る気概の様子だ。


 本当にこんな決着で、みんな良いのかよ。


 自衛隊員の方へ視線を送れば、下を向き沈黙する姿。ジョシュの話から知ったるは、首謀者ではなくブレーキ役。真実を公表すれば、話は違う方向へ転がるだろう。

 しかしそれはきっと、フレッドが望むところではない。泥を被っても仲間を守る姿勢に、どう対応して良いかわからず。自衛隊員たちと同様に、押し黙る他になかった。



 ***



 フレッドの処分が決まったところで、次はどこへ向かうか話し合い。

 自衛隊に自警団や民間人を含め、人数は三百ほどの大所帯。並大抵の場所では収容できず、キャパシティオーバーになるのは明白。


「自衛隊が安全地帯と、ストックしていた場所。千歳市郊外のホテルに、向かうことで決まったみたいだな」

「いろいろあったけど。明日でみんなとお別れね」


 話に大枠の結論が出たところで、ハルノとレストランから先んじて退店。

 二人で向かっているのは、ジェネシス社ある東京。千歳市郊外のホテルに向かう一団と、目的が異なれば同行するのは今日まで。明日からはまた再び、長き旅の始まりとなる。


「詳細を詰めるのも、終わったみたいね」


 レストラン前にて立ち話をしていると、退店してくる人々に気づきハルノ。続々と外へ出てくる者の中には、体格の良い側近二人と山際所長の姿。


「悪い。ハルノ。先にキャンプ地へ戻っていてくれ。俺は山際所長と少し、話したいことがあるんだ」


 真実を知る者からして、どうしても伝えたいこと。

 この機を逃しては、全て誤解したまま。フレッドを追放する前に、知る義務があると思った。


「山際所長!! 少し話をいいですかっ!?」


 キャンプ地へ向かうところを引き留め、話す機会を求めて取りつく。


「どうしましたか? 一ノ瀬君?」


 近くの側近二人が最初に顔を向け、山際所長も足を止め対応してくれた。


「あの……できれば二人だけで、話したい事があるんですけど。クーデターの件でどうしても、山際所長に伝えたいことがあって」


 会談の際にも公表せず、隠された嘘なき真実。

 フレッドが仲間を庇うため、一人で引き受けた悪役。勝手に伝えるのはどうかと思うも、トップの山際所長には知ってほしい話。


「なんだ? オレたちは聞かせられないのか?」


 側近二人を蚊帳の外に追いやる発言は、心外であると明らかな不満を買ってしまう。

 しかし真実を白昼の元で晒しては、フレッドの守りたかった仲間も裁かれる可能性。勝手な行動はできるだけ、最小限にして避けたいところ。今はまだ話のわかりそうな山際所長にだけ、秘密裏に知ってもらいたい話だ。


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