第192話 空の玄関口53
入口上部には【boot hill】と、店内が記載された看板。真下にはカウボーイハットを被った、牛の頭蓋骨が装飾品として展示。
木造の建物はレトロ感あり、外観から中世西部を再現しているようだ。
「本格的だな」
「きっと、ファンだったんでしょうね」
レストランを前に感想を言い合い、スイングドアを押してハルノと店内へ。
中央には長い木製の、ダイニングテーブル。左右に八脚ずつ椅子があり、十六人が着席可能と特注品。
「店内もやっぱり、なかなかに雰囲気あるな」
頭上にはシャンデリアがあり、中央に大型で左右に小型。
ダイニングテーブルを中央に、左右には丸テーブルが六卓ずつ。奥にはバーカウンターがあって、ガンマンが酒でも頼んでいそうな雰囲気。木の造りはレトロ感を際立たせ、中世西部の世界に迷い込んだ感覚。
「まだ始まってないみたいね」
「間に合ったみたいだな」
ハルノと一緒に店内を進んで空席を探し、特等席と思えるバーカウンター前を確保。振り返れば店内の全容が見える、店の中でも完全に中央位置。丸テーブルには自衛隊員に自警団員と、民間人も増えて立ち見もチラホラ。体格の良い強面もいては、空気の流れ悪く仰々しい雰囲気。
自分から見えるというのは、相手からも見えるということ。少し目立つ位置となっては、誰しも敬遠したのかもしれない。
「でも、凝っているよな。メニュー表。写真の下は懸賞金風で、ほとんど手配書だぜ」
牧場が経営するレストランだけあり、基本は牛とステーキやハンバーグがメイン。
「インテリアもなかなかね。酒樽にサボテン。レプリカでしょうけど、ライフルまで飾られているわ」
ハルノも店内の装飾品に関心を示しつつ、ダイニングテーブル左側中央。
ストライプ調のグレースーツに、上向きにカールされた前髪。整えられた身なりの人物が立ち上がり、両組織の集まった会談のときはきたる。
「人は揃いましたね。それでは今回の件につき、まずは互いに詳細を報告。次に先のことについて、話し合いを始めましょう」
会談につき司会進行を行うのは、新千歳空港の長で自警団トップの山際所長。
左側に座るは黒いパンツに、白のアウターを着用する者たち。【自警団】と書かれた緑の腕章をし、表情は硬く緊張感ある面持ちだ。
「まずは初めに。今回の一件では、多数の負傷者。犠牲者が出てしまったことに、力不足と残念に思う」
右側中央の席にて沈痛の言葉を述べるは、迷彩服を着た自衛隊トップの上村隊長。年齢は六十歳と、すでに還暦。額は広く白髪も目立ち、肌はたるみ目尻には細いシワ。左目の上部には震災で負ったという、南極大陸に似た火傷跡がある。
自警団が左側に陣取れば、自衛隊は対面の右側に着席。上村隊長を中央に置いて、脇を固める迷彩服の者たち。短いブロンド髪の白人フレッドは、青い瞳に鼻は高く整った顔立ち。ピンク色の髪にゴーグルをしたサチは、二重まぶたにハッキリとした面持ち。日本人と離れた容姿が多数いるのは、外国の血が混じるハーフが多いためだ。
「自警団側も同様です。これからは人々を守るのも、より大変になること間違いないでしょう」
応じて返すのは山際所長と、最初はトップ同士のやり取り。
新千歳空港は多数の屍怪に侵入され、それに伴い出てしまった死傷者。民間人の被害は、もちろん。自衛隊に自警団も損失が大きく、両組織とも戦力は半減と言えるだろう。
「どうでしょうか? 過去のしがらみや遺恨は、言わずも互いにあるはずです。それでもこれからは、クリーンで未来的な関係を。自衛隊と自警団。組織の垣根を越え、協力し合いませんか?」
先に歩みよる姿勢を見せたのは、予想外にも自警団と山際所長からだった。
フレッドをクーデターの首謀者と、疑いの目を向けていた山際所長。以前と比べ態度の軟化は、火を見るより明らかだった。
「どういう意図だ? 何を企んでいる?」
次席に座るフレッドは眼光を鋭く、疑いの目を向け外さない。
自衛隊に自警団と両組織は、反目しあっていた関係。フレッドから見て信頼できぬのも、無理ない話なのかもしれない。
「人の数こそ、力。私が常日頃から、言っていた言葉です。それに今回の件で、アルバートさんから聞かされた話。心を動かされなかったと言えば、それこそ嘘になるでしょう」
新千歳空港に屍怪が侵入し、籠城を余儀なくされた山際所長。ハルノやサチにアルバートと、不在の新千歳空港で起きた話。
対等な力関係と立場を持って、今までにない対等な関係を築く。自衛隊に自警団と互いの非を認め合い、未来に新たな可能性を感じたという。




