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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第四章 新たな旅立ち(上)

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第191話 空の玄関口52

「さあ、みんなも入って」


 一面は暗くライトに照らされる中で、サチは観光バスの前へ出て鉄柵を引く。

 現在地は新千歳空港から郊外に遠くへ離れ、サッカーコート三面分の土地を有する牧場。森を隣に舗装なき砂利道を揺られて走り、民家にレストランと牛舎三棟が出現。


「牧場は自衛隊が安全地帯として、確保していた場所らしいわ」


 先に駐車する観光バスの隣で止まり、ハルノは聞いたという話を情報として落とす。

 自衛隊は万が一の事態に備え、避難先となる場所を複数確保。今回の牧場は車が二十台は止められるという、一般家庭では考えられない広さの駐車場。これは牧場主が直営のレストランを経営と、客を呼び込むため整備された賜物である。


「外は暗く視界が悪い夜のため、今日は牧場の駐車場で一泊。以降のことは明日にでも、話し合いの場を設け決める予定です」


 駐車場に止まる観光バスへ出向き、上村隊長は直近の状況を説明し回っていた。

 避難者たちは他に選択肢なく、一応に黙って一夜を耐える態勢。外にはライトの微かな光あり、自衛隊と自警団が見張りを行っている。


「今にしてみれば、よく生き残れたよな」


 屍怪の行進があってから、僅か一日の出来事。自衛隊に自警団や民間人と、各所で死者や負傷者は出てしまった。


「そうね。でもこれがきっと、終末世界の日常なのよ」


 観光バス前列にて、隣の席に座るハルノ。人々に暖を取るための寝具は少なく、各々に予備の衣服などを肌にかけている。

 乗車する観光バスの座席は、八割ほどが埋まっている感じ。空席と呼べる場所も、幼児が横になって二席分。残るは子どもから大人まで、リクライニングを傾けての就寝だ。


「でも本当に、大変な一日だったな。これ以上ないってくらい疲れたのに、まだ目が冴えて寝れねぇよ」


 全身は疲労感に包まれているのに、神経が過敏になっているのか入眠できない。

 無理矢理に目を閉じてみても、目蓋の裏に蘇るは今日の出来事。新千歳空港へ侵入していく屍怪に、アウトレットモールで対峙した屍怪犬。連絡通路で迎え撃ったブッチャーに、ジョシュやアルバートと亡くなった仲間たちの顔。


「壮絶な一日だったもの。多くの屍怪に囲まれ、侵入を許した新千歳空港。蓮夜の方はどうだったの?」


 ハルノと離れ別々の場所にて、異なる問題に対応した今日。互いの記憶を共有するべく、一日を振り返って話をした。

 中でも一番に心を打ったのは、アルバートによる最期の言葉。対等な力関係と、対等な立場。自衛隊と自警団も互いに、向き合えば良い方向へ転がるかもしれない。



 ***



 東の彼方から太陽が顔を出し、眩い光が降り注ぐ朝。

 朝露に窓ガラスは濡れ、早朝なれば気温も低下。少し肌寒く感じる中でも、一夜を静かに耐え忍んだ。


「蓮夜。起きて。もう大人たちは、動き出しているわよ」


 窓から外の様子を確認して、ハルノは軽く肩を揺らす。

 眠りが僅かに浅くなろうとも、まだまだ眠気が勝る今日この頃。さらにまだ朝も早いとなれば、すぐ動く気にもなれなかった。


「何をしているのかしら? 荷物を運んで。私たちも手伝いに行きましょう」


 いつまでも守られる立場ではないと、ハルノは率先して動く姿勢を見せる。

 観光バス内では今もまだ、子どもや大人も就寝中。それでも動き出す者いれば、甘んじている立場ではない。ハルノに強く促されては、起床し外へ出る他なかった。


「昨日は暗くてよく見えなかったけど。牧場はこんな感じになっているんだな」


 外へ出ては澄み切った空気を吸い、駐車場から見渡す周辺の状況。

 三角屋根の二階建て民家を左側に、隣の木造平屋はレトロ感あるレストラン。カマボコ型の倉庫が三棟あり、全て牛を飼うための牛舎である。


「話は聞いているよ。みんなを守るために、大活躍だったって」

「朝食ができるまで、休んでいても良かったのに」


 人が集まる放牧地へ向かっては、二人の婦人に対面し言われる。

 青々とした草が生え、解放感ある放牧地。サッカーコート一面分はあるだろう広さに、一帯は木柵で囲われ肩ほどの高さと百五十センチ以上。木柱が等間隔に配置され、木板が三枚ほど張り付けられる。屍怪が来たとしても即座に、侵入される可能性は低いだろう。


「キャンプをすることになったんだな」


 今後の方針が一日で決まるか、不透明であったことも要因。民家やレストランに人は収まり切らず、牛舎で過ごすのはとても無理。

 男性は骨組みからテントを設営し、女性も手伝いつつ朝食の準備。バーベキューコンロに木炭を入れ、火を焚きお湯も沸かされている。


「朝食をどうぞ」

「ありがとうございます」


 配給をする婦人から豚汁を受け取り、簡易的に設けられたベンチへ着席。人々が安心して食事ができるのは、見張りをする者の存在が大きいだろう。

 見張りをするのは、自衛隊と自警団。両組織の隊員が交互に、休憩を挟みつつ行われていた。


「上村隊長や山際所長が参加する会談は、朝食後の九時頃だったよな?」

「ええ。もちろん私たちも、立ち会うわよね?」


 曖昧な点を確定させるため問うと、ハルノは自信を持って裏付けしてくれる。

 そして確認をするのは、会談への参加意志。参加するのは自衛隊に自警団のトップと、幹部と呼ばれるポジションの人たち。


「もちろんだ。行こうぜ」


 参加者が限定されていなければ、非公開と密室で行われるわけでもない。

 今後の方針や会談の内容ついて、誰しも知りたいところだろう。民間人からも参加者いれば、後ろに続き会談場所へ向かった。


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