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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第四章 新たな旅立ち(上)

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第190話 空の玄関口51

「これから先は、ソロドライブ!! 車を走らせ、ロードオープン!!」


 ラップ口調と変わらぬジョシュの前には、燃料の積まれたタンクローリー。

 自衛隊車両のジープと比較し、全長は二倍ほどあるだろう。運転席と助手席を除けば、長き楕円形のタンク。燃料を含め二十トンはあろう重量は、屍怪を前にしても簡単に止まらないだろう。


「ジョシュ。今までありがとう」


 結末を前に先んじて上村隊長は、礼を言って手を差し出す。

 これからジョシュが行うは、命を賭けて退路を開くこと。タンクローリーを走らせ屍怪を轢き、一手に注意を集めて数を減らすというものだ。


「上村隊長。フレッドを、みんなを頼みます」


 両手で手を握るジョシュは、真剣な表情で僅かに頭を下げていた。

 作戦が成功しても失敗でも、ジョシュは屍怪に噛まれた身。これがきっと最後の機会で、別れのときとなるだろう。


「ジョシュの覚悟と決意。最後まで目を逸らさず、真っ直ぐ見届けさせてもらうわ」


 サチも揺るがぬ姿勢で、送り出す対応だった。

 これからジョシュに訪れるのは、逃れられぬ確実な死。仲間の死期を悟っても、毅然とした態度。根底から意識と覚悟の違う、さすがは自衛隊員といったところか。


「命を賭けた、ミッション!! 最善を尽くす、コンディション!!」


 応えるジョシュはラップ口調に戻り、最後まで己の個性を貫く姿勢だ。

 しかし屍怪に噛まれ、低体温症を発症。ジョシュはコンディションもう、間違いなく最悪だろう。


「……ジョシュ」


 最後となること意識しては、フレッドも浮かない表情である。

 アウトレットモールで襲われ、ジョシュに助けられた形。自責の念がないかと問われれば、きっとないは嘘になるだろう。


「誰が悪いことない、ディスティニー!! これが最後の、フェスティバル!!」


 ジョシュは誰を責めることなく、終始一貫の対応であった。

 命の灯火は燃え尽き、消えようとするとき。他者を責めず弱音を吐かず、懐を広く強さを堅持した形だ。


「蓮夜にフレッドは、ハートオープン!! 理解し合えば、ベストフレンド!!」


 ジョシュは肩に手を置いて言い、踊ってタンクローリーに乗車。

 最後の役目となるは、逃げるため退路を確保。命を犠牲に望む姿勢なれば、全てを信じ期待するしかない。



 ***



「ジョシュ。首尾に問題はないか?」


 トランシーバーを使用して、上村隊長は状況の確認を行う。


「屍怪が多くても、ノープログレム!! 車で突撃、ノックアウト!!」


 ジョシュが運転するタンクローリーは、行く手を阻む屍怪を轢いてひた走る。

 タンクローリーが照らすライトにより、遠目にも確認できる状況。新千歳空港へ戻ってきた屍怪は、すでに多くその数は五百か千か。それでもジョシュは一直線に、全てを蹴散らし走らせていた。


「いつでも出発できるよう、我々も速やかに乗車。蓮夜たちも観光バスへ乗り、みんなと一緒に避難へ備えてくれ」


 上村隊長に促されては、先頭に止められる観光バスへ。

 ほとんど満席の観光バスには、とても不安気な顔をする人々。手を合わせ祈る老婆に、小さな子を抱きしめる母親。誰しも今の置かれる状況を、楽観的でないと理解していた。


「ハルノ。トランシーバーを。後ろの観光バスに乗るから、何かあったら連絡を」


 一瞬だけ乗車してサチは、ハルノに手渡し後方へ。

 自衛隊車両のジープを先頭に、観光バス二台が連なる体制。屍怪を排除し道が開ければ、即座に突っ込み突破する算段だ。


「今が人生最後の、エキサイティング!! 華麗に舞って、ラストダンス!!」


 トランシーバーは全て連帯しているため、タンクローリーにいるジョシュの声も響く。


「ド派手なことへ、ヒューイーゴー!!」


 テンション高く弾むような声のジョシュに、車体が横へ逸れバランスを崩すタンクローリー。

 運転席の真横に立ち、ハルノと並んで傍観。左の前後輪が宙へ浮くと、車体は横転まっしぐら。タンクローリーは集まる屍怪の一部を潰し、完全に横倒しになってしまった。


「ジョシュ!!」


 安否が気になってはトランシーバーに、叫ぶ声も自然と大きくなってしまう。


「ジョシュ!! 無事かっ!!」


 混線し聞こえてくるフレッドの声も、迫力あり緊迫感ある雰囲気だ。


「やりきったぜ、ラストミッション。これが本当に、ラスト!! みんな元気で、グッバイ!!」


 最後のときまでジョシュは、変わらずのラップ口調だった。

 タンクローリーからは火の手が上がり、起きる大きな爆発。火柱は空へ向かい天高く、モクモクと発せられる黒煙。それでも屍怪は一向に構わぬと集まり、開かれる一筋の光となって退路。


「ジョシュ……」


 起きた爆発は偶発的なものではなく、意図的に計画して起こされたもの。

 屍怪に噛まれ症状は重く、死期を悟っていたジョシュ。ならば最後は盛大に注意を引くと、ダイナマイトを持ち出したのだ。


「出発!!」


 好機と判断しては上村隊長が言い、走り出す先頭のジープ。避難者と乗る観光バスも、続き避難が始まる。

 タンクローリーは横倒しのまま燃え、周囲では焼けゆく屍怪の姿。ジョシュが命を賭けて、開いた新千歳空港からの退路。再び囲まれる事態となる前に、迅速かつ謹んで脱出を完了させた。


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